第11話 いらんフラグ立てたの誰だよ


「青生くん。好きです、付き合ってください!」


 どうして……どうしてこうなった!


 今日はゴールデンウィークが明けてから迎える最初の登校日。


 最初の一か月をほとんど理想に近い形で終えた俺は、はっきりいって調子に乗っていた。


 このまま、特にトラブルもなく平凡でありふれた青春を無事に三年間送れるんじゃないかって……


 だけど、どうやら俺は知らない間に何か大きなミスをしていたようだ。


 なぜか、クラスメイトである河島沙凪かわしまさらさんに、放課後体育館裏に呼び出されて、こうして告白を受けている……それも、罰ゲームとしての。


 ちなみに、罰ゲームっていうのは、河島さんたちのグループで彼女がじゃんけんか何かに負けて、誰かに告白しようってやつね。


 えっ、どうしてそんなことを知ってるのかって?


 陰口をすぐに察知する元陽キャリア充の地獄耳をなめたらいけないよ、すぐ悪口言ってるのわかるんだから……って、今はそんなことを語ってる場合じゃない。


 問題はこの告白にどう答えるのかということと、何で河島さんが告白する相手として俺を選んだのかだ。


 告白への答えは俺の平凡な学生生活のためにも断るの一択だけど、それでも告白された理由次第で断り方は変えないといけないし、何よりどうして俺が目をつけられてしまったのか、その理由を知って今までの行いの反省をしないといけない。


「その……どうして俺、なのかな?」


「えっと……言わなきゃ、ダメ?」


 上目づかい気味に河島さんが抵抗してくる。


 ちなみに、河島さんはそこそこ可愛い。


 ショートボブにされた赤みがかった黒髪は毎日丁寧にケアされているのがわかるし、顔だってなかなか愛嬌のある感じで悪くない。

 体型だって、スタイル抜群というわけではないけど、いい感じに華奢で、それでいて女の子らしい丸みがあって、大抵の男は守ってあげたい衝動に駆られるはずだ。


 まあそんな感じで、総合的に見て中の上、人によって上の下くらいの女の子だ。


「俺としても、やっぱり理由を知らずに付き合うってのはさ……だから、教えてもらえないかな?」

「そ、そうだよね……うっ、でもやっぱり恥ずかしいよぉ……」


 あ~、これ絶対に教えてもらえないやつだわ。


 仕方ない、できれば使いたくなかったけど、ここは最終手段に頼るしかなさそうだ。


「俺さ、中学は東京だったんだ」

「えっ」

「それで、勉強に集中したいって親にわがまま言って、娯楽の少ない田舎にあるこの高校に入ったんだよね」

「あっ……」

「だからさ、ごめん。今は勉強に集中したいから、河島さんとは付き合えない」

「……」


 勉強に集中したいから、付き合えない。


 どこにでもありふれた告白を断るための常套句じょうとうくで、これを言われると基本的に引くしかなくなる魔法の言葉。


 だけど、正直いって、俺はこう答えるのが好きじゃない。


 今は勉強に集中したいからっというのは、あくまで今限定なのだ。


 つまり、必ずその終わりが来るわけで、その後のことはわからない。


 そのわからないというのが、相手に余計な希望を与えてしまう。


 絶対に付き合うことはないのに、そんな希望を与えてしまうのが、俺は嫌いだ。


「これで、いいかな?」

「――っ」


 本人にとっては、いいはずなど決してない。


 ずるいとわかっていながら、俺は突き放す。


「それじゃ、俺はここで――」

「――待って!」


 河島さんに背中を向けようとしたところで、制服の袖をちょこっと掴まれる。


「もしかして、もう高見沢さんと付き合ってるの?!」


 いや、さっき勉強のために彼女は作らないって言ったばっかりなんだけど。


 まあ、必死なときって、いちいち相手の言ったことを踏まえて発言なんてできないものだ。


「別に付き合ってないけど……」

「な、なら、せめて友達からでいいから!」


 友達から……ね。


 正直、さっきと同じ理由で、この文言も俺は好きではない。


 けど、そうだな。


 これで俺が振ってしまえば、彼女の面子も立たなくなってしまうだろうし、仕方ないか。


「わかった。はいこれ俺の連絡先」


 俺はスマホを取り出すと、チャットアプリの連絡先を読み取るためのQRコードを河島さんに見せる。すでにクラスのチャットグループが作られているから、そこから連絡先は手に入るけど、こうやって直接教えてもらえたほうが、相手は嬉しいものだ。


「あ、ありがとう……」

「それじゃ」


 俺は河島さんが呆然としてる間に、少し速足で学校を後にする。


 今さらだけど、河島さん大丈夫かな。


 告白を断られてしまった彼女自身の精神面への心配も当然あるけど、一番は彼女の周囲にいる人間の彼女への対応だ。


 いくら罰ゲームとはいえ、クラス内カースト下の上くらいの俺なんかに告白して、その上振られたんだから、それによって周囲が彼女にどんな態度を向けるのか、色々想像はついても、断定はできない。


 せめて一番穏便な展開になってくれるのを祈るしかない。


「あ~あ、何でまたこんなことに」


 まさかあんなことになるなんてって、いらんフラグ立てたの誰だよ。

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