第4話 あれ、女神さまだけ?
哀川さんに三年間ついて行くと決めてから臨んだ入学式が終わると、短いホームルームがあってこの日は放課となった。
午前中で終わったから、新入生同士で何かあるかもと思ったけど、大半の生徒は保護者と帰路についたということもあって、俺もその流れに逆らわずに帰宅。
あっさりと、俺の高校生活一日目は終わった。
そして、迎えた登校二日目。
俺の予想では、今日だけでも関門と呼べるイベントが二つか三つは必ずある。
その証拠に、朝のホームルームが終わり、迎えた一時限目。
「それじゃ、まずは自己紹介から始めたいと思いま~す」
一年Ⅴ組の担任である
来たな、第三関門。
自己紹介イベントにおいて、大事なポイントは二つある。
まず、ここでの発言が、クラスメイト全員に与える第一印象に関わってくるということ。
はっきり言って、これは大した問題じゃない。
事前に印象が薄い無個性自己紹介は考えてきているし、出席番号順にするなら俺は哀川さんの後だ。絶対誰も俺の印象なんて残らない。
ほんと哀川さんしか勝たん。
問題はもう一つのポイントで、いかにこの自己紹介を通して、他のクラスメイト39人分の性格に関する情報を手に入れるかだ。
結局、昨日は哀川さん以外に、容姿だけで俺のリア充センサーに反応するような子は、教室に入ってこなかったからな。
女子のほうは哀川さんがいるからともかく、男子でクラスをまとめてくれそうな奴は、最低でも見つけないとけない。
どういうやつがクラスをまとめれそうかの基準はあるから、その基準と合っているかどうか、しっかりと見定めさせてもらおう。
「出席番号順で申し訳ないんだけど、最初は哀川さんからでいいかな?」
若月先生が申し訳なさそうに、哀川さんのほうを見やる。すると。
「はい、大丈夫です」
この流れに慣れているのか、すぐに哀川さんは返事をして立ち上がり、俺たち生徒ほうを見る。
「それじゃ、まずは私から。
中学では部活でテニスをやってました!
高校じゃ、別のことにチャレンジしようと思ってて、何の部活に入るか迷ってる子がいたら、一緒に見て回りたいと思ってます!
これから一年間、よろしくお願いします!」
おお!
クラス全体から拍手が上がる。
特に趣味とか打ち明けるでもなく、あくまで学校内の話題のみに絞った自己紹介。それに加えて、他の人が話しかけるきっかけ提示も忘れないときた。
さすがは俺の女神さま。悪い印象を何一つ受けない完璧な自己紹介だった。
「哀川さんありがとう。それじゃ、次の人」
「はい」
次の人である俺は立ち上がる。
なんかいいな、次の人扱いって。
中学時代じゃ絶対にあり得なかった。
「えっと、青生くん?」
「ああ、すみません。はい。
パチパチパチ。
哀川さんのときとは比べ物にならないほど小さな拍手が起こった後、俺は同じように小さく一礼してから席につく。
「じゃあ、次の人~」
ありがとうの一言もなし。
完璧なスルー。
いいね、こういの。
それから十人くらいが自己紹介を終えたところで、僅かに俺のセンサーが反応を示す。
「次は、須賀くんかな」
「はい」
若月先生から呼ばれて、一人の男子生徒が立ちあがる。
短く刈り上げた黒髪に、貫禄のある顔つき。身長は俺より数センチ高く、おまけに体つきもがっちりとしている。
運動部出身であることは間違いないし、クラスを支えてくれそうな印象だ。
さて、どんな自己紹介をしてくれるのかな?
「
パチパチパチ。
俺に負けず劣らず、淡白で印象の薄い自己紹介。
だけど、俺のように目立ちたくないとか、そういった感じとは少し違う。
たぶん、あれだ。
サッカー以外のことには興味がないってやつ。
だから当然、自己紹介なんてどうでもいい。
クラスでつるんだとしても同じサッカー部か、運動部の数人くらいで、下手をすれば一匹狼になったっておかしくない。
うーん、彼に期待するのは難しそうだ。
須賀くんが自己紹介を終えた後は、嘘としか思えない速さで各生徒が自己紹介を済ませてく。
はっきり言って、誰もいい感じのやつが見つからない。
はきはきと自己紹介したのは、最初の哀川さんだけだ。
これは嫌な予感がするな。
その予感が裏切られることはなく、結局よさげなやつが見つからないまま自己紹介が終わってしまう。
あれ、女神さまだけ?
どうやら、このクラスにいるのは女神さまだけで、男連中をまとめてくれる、素晴らしい男神さまはいないらしい。
「自己紹介も終わったところで、次は委員決めをしたいと思いま~す。ちなみに、うちの学校の委員会は、一度決まったら一年間ずっとやってもらうから、そのつもりでね~」
やはり来たな第四関門――委員決め。
委員決めなんて、余程のことがない限り立候補制だ。
今の自己紹介を見るに、主体性の低そうな生徒が多そうなこのクラスじゃ、この手のイベントは苦労する未来しか見えないぞ。
さて、どうなることやら。
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