10

 日が昇り切ると霧はすっかり晴れ、燦然と輝く太陽がロケットの先端を焼き照らす。

 地下発射場を映す制御室モニターを前に宇宙服を着た信者達が佇んでいた。

その中には影井光の姿も見える。彼らの視線はモニターに注がれているかと思われたが、実際は別の場所へと向けられていた。

 宇宙飛行士達が視線を向ける先、そこには教主――白鳥京佑の姿があった。彼は日が昇るのを見て、ひとり話し出す。

「天運がいよいよ動きだしましたね」

 周りを取り囲んでいる信者達も真剣に耳を傾ける。

信者の中には涙ぐんでいる者もいた。

「先祖が地球に飛来した日から物語は始まりました。我々の帰還を同胞も心から喜んでくれるでしょう。」

 神妙な面持ちで聞いている信者達に白鳥はそう言った後、真っ直ぐに天を見つめる。

「地球からの旅立ちを決して恐れることはない。我々の未来は力場が導いてくれることでしょう」

 白鳥の言葉と共に一斉に歓声が上がった。信者達は思い思いの声援や拍手を送り、喜びを露わにする。白鳥は皆の方を向くと微笑みながら、手を合わせた。

「天に愛された我々に永遠の幸福があらんことを祈りましょう」

 そして白鳥が皆に向かって挨拶すると、一斉に祈りの声が湧き上がる。

そんな中、光だけは静かにその様子を見守っていた。



――数時間後 宇宙服を着込んだ信者達が連絡通路の屋根裏を歩いて別棟へ向かっている様子が見られた。

笹薮から目を光らす一団は、その奇妙な行進を見て目を丸くしていた――。


「なんだあれは」と一人が漏らす。皆困惑してお互いの顔を見合わせる。

「みんな発射場に向かってるんだ」と呟く紬。

「発射って何を?」

「天引現象を動力源とするハイブリッドロケットだ」と切り返す見取。

糸重夫妻は静かに息を吞んだ。

紬はそんな二人に顔を少し寄せ、「私も乗せられる予定だった」と呟いた。

 現状維持が続く中、通信機に無線が入る。

「機動警察通信隊へ告ぐ。こちら捜査一課。首謀者を発見した」

「こちら機動警察通信隊。作戦の詳細を述べよ」

「我々はガス攻撃の後、施設内部へ侵入、首謀者と彼の部下二名を拘束し連行する。以上」

「了解した。警察庁から通達。これより突撃を許可する。現行犯で逮捕せよ!」

「機動警察通信隊、倉本後藤隊、捜査一課、了解」

連絡を切ると、肇は静かに口を開く。

「作戦開始」

その瞬間、見張りに就いていた警察官達は一斉に飛び出した。一気に雪崩れ込み制圧を開始する。

「止まりなさい!」倉本の警告が聞こえた。

 しかし信者達は決して怯まない。悠然と歩くだけで何もしようとしない。

それどころか微笑んでいる者もいた。

「気味悪いな。どうしてこんなに余裕があるんだ?」後藤は呟きながら、信者達との距離を詰める。

 糸重一家と見取は、固唾を飲んで事の成り行きを見守っていた。

「これで光ちゃんも助かるよね」紬は父親の手を握りながら、そう呟く。

「ああ、きっと大丈夫だ」陸は小さい手を包むと、力強く答えた。

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