11
私たちはタクシーで見取記者の自宅に向かった。
彼は私を部屋に招き入れると、「ちょっと待っててくれ」と言ってどこかに消えた。私は手持ち無沙汰になり、部屋の中を見渡した。
部屋は広々としていて、大きな本棚には本がびっしりと詰まっていた。どれも難しそうな哲学書や医学書ばかりだ。
机の上にはパソコンが置かれていて、仕事中だったことが窺えた。「待たせてすまない」と言って彼は戻ってきた。その手には封筒が握られている。それを私に手渡した。中には写真が入っていた。
飛人会の集合写真だった。
他の会員たちと同じように写っていたのだが、少し様子が違う。
飛人たちは皆、カメラに向かって微笑んでいるのに対し、彼の目は虚ろで焦点が定まっていない。続けて、もう一枚手渡される。
白鳥代表と顔立ちの似ている男の子の写真だった。「この子は?」と私は尋ねた。「白鳥玲央、代表のご子息だ」と見取記者は言った。
「彼も障碍者なんだよ」
「なら、私も飛人会で会えるかもね」
「残念だが会えない。天引事故でこの世を立ってしまってね」
「えっ……」と言葉を詰まらせる。
「そういった背景があって、表向きは同じ境遇の方を救うために興した組織だった」と見取記者は続ける。
「不審点?」と私は問いかける。
「三度の行方不明について、会員が詳しく知らないんだ。死に至る事故にもかかわらず、その後の飛人会は何事もなかったかのように活動していた。私は不思議に思い独自に調べたんだ」
「何か分かったの?」と私は尋ねる。すると、見取記者は首を横に振った。
「何もわからなかったよ。私の力ではここまでだ。嗅ぎ回りすぎて、立ち入りが禁じられてしまってね」と言って彼は悲しそうに目を伏せた。
「結局、飛人会が行っている慈善事業は偽りでしかなかったわけだ」と彼は言う。
私も小さく頷いた。そして、沈黙が訪れる。部屋が静まり返る中、時計の針だけが音を立てた。
沈黙に耐えかねたのか、見取記者が口を開いた。
「すまないが、君に囮捜査をお願いしたい」
「どういうこと?」と私は尋ねる。
「代表の身辺調査をしているが、未だその尻尾を掴めていない。飛人会や彼のバックグラウンドについては詳しく調べがついているんだけど」
見取記者はタブレットPCを開き、画面を見せた。そこには、天引事故についての情報がまとめられていた。
「ただ、事故がなぜ起こったかについては明らかになっていない。まるで隕石が落ちたかのように突然消失してしまっている。不思議なことに調査しても情報が出てこないんだ。まるで何者かによって隠蔽されているみたいにね」と言って私をじっと見つめる彼の目は真剣だった。
「飛人会の関係者は君に会いたがっているだろう。何より当事者だからね」
確かに私であれば、上手く騙せるかもしれない。
だが、本当にそれでいいのだろうか?何か大切なものを失うのではないだろうか?不安が胸の中で渦巻いた。
見取記者は私の考えを察したかのようにこう言った。
「君の心配していることはわかるよ。でもな、これは重要なチャンスなんだ。飛人会という怪しい団体を暴くことができるかもしれない」
彼の言葉に心が揺れた。このまま逃げ続けていてはダメだという思いが沸き起こる。
私は深呼吸して、見取記者を見つめた。「私、やります」と震える声で言った。
見取記者は笑みを浮かべて頷く。そして、手を差し伸べてきた。私は彼の手を握ると強く握り返してきた。
「いい返事だ。君の勇気に敬意を表する」と彼は言った。
その口調から彼の覚悟を感じ取れた。彼もまた飛人会の真実を暴くことに執念を燃やしているのだ。
「さぁ、早速だが彼の元に行こうか」と彼は時計をちらりと見ながら言う。
私は小さく頷いて立ち上がる。そして、見取記者の後をついていくのであった。
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