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 しばらく見取記者が来てくれることはなかった。

どうやら体調を崩してしまったらしい。心配ではあったが、仕事なので仕方がないだろう。飛人会の真相を掴むまで帰ってくることはないのではと思うほどだ。

 一方、私はというと特に変わりはない。至って平凡なものだ。光ちゃんとの仲も進展するどころか会う機会すらほとんどなかった。

会いに行きたくとも私一人では外出できない。両親は働き詰めで、見取は病人だし、力場障害者は不便極まりない。

 家に閉じこもってばかりの毎日だった。



 そんな生活が続いていたある夜。

いつものように夕食を拵える父の背中を天井から見守っていると、仕事を終えた母が一匹の芝犬を連れ帰ってきた。栗色の毛に覆われた可愛らしい犬である。

母が芝犬の頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細める。父も私も興味津々だった。

「この犬は力場障害者の人たちでも安心して外を楽しめるように訓練した特別な子なのよ」と母が得意げに説明した。

父は感極まって介助犬を拍手で迎えた。

「糸重家バリアフリー計画、第一弾だな!」

「お母さん、名前は?」

「もう名付けられているの。パピーウォーカーっていう今までお世話してた人達がね」と母が言うと、芝犬は母の方を見上げた。まるで自分の名前を知っているのか?と言っているかのようだった。

「この子はね、リブっていうのよ」と母は言う。

「いい名前だな」と父は言った。

 すると、犬はワン!と元気よく答えたのだ。

リブは短いしっぽをパタパタ振りながら、母に頭を撫でられて目を細めている。

 そして、私の顔を見ると小さく吠えてみせたのだ。私は微笑んで手を伸ばした。リブは背を高くして匂いを嗅いでくれる。

そんな光景を見て母は満足げに微笑むのだった。

「よろしくね」と私が呟くと、それに応えるように鳴いたのだった。



 それからというもの、この犬のおかげで私の生活は大きく変わったのだ。

まず第一に外出ができるようになったことだ。母が近くの公園まで散歩に行くことを許してくれたのだ。

これは私にとっては大きな一歩だったと思う。今まで一人では何もできなかったのだから当然だろう。

外出するときには必ず介助犬を連れて行くようにした。リブはいつも私と一緒にいてくれたのだ。おかげで少しずつ外の世界に慣れていったように思う。

 しかし、外出できたからと言って自由に出かけられるわけではなかった。やはりまだまだ不自由さを感じることの方が多かったのだ。

それでも私にとっては大きな進歩だった。この経験は私を強くしてくれたような気がするのだ。きっとこれから先も障害が立ちはだかってくるかもしれないだろうけれど、リブと二人なら乗り越えられる。

光ちゃんにも会えると思うと心が躍った。

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