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 それから、記者の取材は滞りなく進んで行った。

私は取材が終わると、見取と共に立ち去った。

ビルを出ても尚、仕事への熱が冷めない記者が庭内を歩き回る。

そうしていると裏門の近くに石碑を見つけ、立ち寄る。

石碑には飛人会の創始者の名前が刻まれていた。ここは宗教団体の施設でもあるため、コミュニティの成り立ちにはそれ相応の歴史が刻まれている。

飛人会は今から60年前に天道教の流れを汲む宗教団体が立ち上げたものだそうだ。

碑文には障碍を持つ者や、その関係者が属し、障碍者と健常者の平等を追求した旨が示され

ていた。

しかし、理念だけでは人間は幸福になどなれない。

それが真実であると証明するように、飛人会は歴史が浅い。

代表はこう言っていた。

障碍とは能力の隔絶だ。

ならば、能力を持つ人間はなぜ生きる価値を持たないのか?

その思想のもとに飛人会は立ち上がったのだ。

 代表に賛同したメンバーたちが一堂に会し、このコミュニティが生まれたという。

それは宗教団体のように、安定し、強固な組織に見受けられた。

だが、実態は少し違うと、見取は言った。

記者は仕事柄、人と多く接する機会があるそうで、他人の嘘に敏感らしい。

ここでの話を鵜呑みにするわけにはいかないそうだ。

「天道教と関係があるのかは、わからないが……」

そう前置きして彼は語る。

「飛人会の理念には天道教に通じるものを感じるが、障碍者に対する価値観などはあまり一致しないそうだ。代表の白鳥という男性がどうも胡散臭い」

「なぜ?」

「……代表にはお子さんがいてね、ご子息も力場障碍を抱えている。ほら、ここに」と石碑を指差す。

そこには「白鳥玲央」という名前が刻まれていた。

「面白いと思わないか」と突然、彼は明るい声を出した。

「いや……意味がよくわかりません」私は首を傾げた。

「まぁ……な」と彼は言葉を濁すのだった。

「でも、飛人会には何か裏がある。記者の勘だ」と彼は言った。

私はそれに頷いたが、見取記者はこう続けたのだ。

「僕はこの取材で確信したよ。飛人会は何かを隠しているってね」

「何かって?」

「未だわからない。だが、飛人会が何かを隠しているのは確かだ」

 見取が呼んだであろうタクシーが私たちの前に着く。

車内に乗り込もうという時、私を呼び止める声がこだまする。

「紬ちゃん!」

振り返ると、そこには影井光がいた。

白鳥代表に手を引かれ、私たちに近づいてきた。

「うん。あのね……頼みがあるの」と彼女は言った。

「なぁに?」と私は尋ねる。

「これからも仲良くしてほしいの」

「えっと、友達ってこと?」

「そう!」と彼女は力いっぱい頷いた。

「次は遊ぼうね」

そんな子犬のような目で見られると私は弱かった。

彼女の手を優しく握り返して答えるのだった。

「もちろん、週末にでも」と。

光ちゃんの笑顔が咲いた。

「ほら、タクシーが出ちゃいますよ」と白鳥が私たちを促す。

慌てて乗り込もうとするが、袖を掴まれ振り返る。

「あっ!」と彼女は言い、手に持っていた四つ葉のクローバーを私に差し出す。

「さっき見つけたの!お守りだよ。紬ちゃんのことを守ってくれますように……」

と神様にお願いするかのように言ったのだ。私が黙って受け取ると彼女は言った。

「ごめんね……呼び止めて」

謝る彼女を光ちゃんは私の背中に押して、車のドアが閉まるのだった。

 走り出す車の中で、過ぎ去る景色を見送った。

先ほどの光景が頭から離れないでいたのだ。あの女の子の言葉が頭から離れないのだ。

“またね”という別れ際の挨拶が、耳の奥で木霊していたからだ。

「どうしたの?ぼーっとして」と隣に座る見取記者が尋ねてきた。私は、はっと我に返り、彼の方を見る。

私は、なんでもないと答えると、もう一度だけ窓の外を見やる。

もうあの子の姿はなかった。光ちゃんにもらった四つ葉のクローバーを見る。

緑の葉に、白くて可愛らしい花が咲いている。そして、裏には可愛らしい文字で“紬へ”と書かれていた。

その四つ葉を大切にポケットにしまい、再び前を向くのだった。

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