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 「飛人会」と書かれた看板がなければ、誰もここをコミュニティとは思わないだろう。

「ここなの?」と尋ねると見取は頷いた。

彼が重々しい扉を開くと、狭いエントランスに受付嬢が一人立っていた。

彼女は私たちに気づくと、頭を下げた。私も釣られて頭を下げる。

「あの……取材に来たんですけど」と言うと、受付嬢は部屋の奥にいるスタッフに声をかけた。

すると奥から年配の男性が現れる。彼は柔和な笑顔を浮かべるとこう言ったのだ。

「ああ、取材の方ですね。どうぞこちらへ」

男性に案内されるまま、私たちは奥へと進む。

「飛人会へようこそ。私は代表の白鳥です」と男性は自己紹介をした。

「今日はよろしくお願いします」と私も挨拶を返す。

そして、記者はボイスレコーダーを起動させ、インタビューが始まる。

「飛人会は宗教団体である天道教を母体に、障碍者、その関係者で構成されるNPOですよね?」

「おっしゃるとおりです。弱者も強者もない平等の場を飛人会は目指してます」

代表が語る飛人会の成り立ちや理念についての話は興味深かったが、私の関心は別にあった。

記者が一通り聞き終わると、私は待ちかねたように切り出した。

「あの……私と同世代の方も参加しているんですよね?」

「はい」

「どんな方がいるんですか? 興味があって」

私がそう尋ねると、代表は食い気味に答えた。

「今は座間で瞑想をしておられるでしょう。よかったら見学してみますか?」

「ええ!ぜひ!」

私は飛び上がらんばかりの勢いで答えると、記者はジロリと私を睨んだ。

「これは記事にしますので」

記者はそう言って立ち上がると、案内されるまま、私と座間に向かう。

ドアを一つ開けると、まず天井に驚いた。

そこは広めの部屋で、六人が畳張りの天井に座っていた。

会員達は思っていたよりも静かで、まるで死者が横たわっているかのようだった。

「障碍をもつ子供にとっては、普通の子供として成長することが難しいのです」

「それは……」と言葉を詰まらせると、代表は会員達の背後を回っていく。

私達も追いかけ、部屋角につく彼が振り返る。

「でも、彼らもこうして人間らしく振る舞うことができるんです」

「瞑想で?」

それから、見取は熱心に聞き取りを始めた。

私は取材には参加せず、部屋角に座り、瞑想する参加者たちを見た。

彼らは目を瞑ったまま、浅く呼吸をしている。

静寂を纏った彼らは、地蔵を彷彿とさせる。

地蔵一行には、私の心を揺さぶる出会いはなかったけれど、端のお下げの子に目を惹かれた。

大人達をそっちのけにセーラー服の少女に近づく。

「よければ、ご一緒してもいいですか?」

「…………」

彼女は無反応だったが、拒否しているようには感じられなかった。

さっと、隣に座る。少し離れる彼女。

もう一度、私は近づく。

また離れる。その様子が鼻について、また身体を寄せる。

「やめてください!集中できませんから」

「はい……」

 そこまで怒らなくてもいいと思いつつも、素直に引き下がる。

彼女はまた目を瞑り、呼吸を始める。私も真似をして深呼吸する。

「私たち、似てますね」と私は言うが返事はなく、瞑想は続く。

この孤独な空間では喋るのも気が引けたけれど、独り言のように続けた。

「私ね……普通になりたかったの……」

「……」

「私達って生まれる時にハズレクジを引かされたのかな」

「……」

「神様って酷いよね」

 彼女の呼吸は深くなり、耳を澄ませると胸の鼓動が聞こえるようだった。

私もそれに合わせるように呼吸を整えていく。すると彼女が突然口を開く。

「……私の話も聞いてもらっていいですか?」と言ったので私は頷いた。

 彼女はポツリポツリと話し始めたのだ。その声は凛凛と澄んでいて、私の耳に心地良く響く。

「お名前は?」「糸重紬です」

「うちは影井光。私は今も普通だって思ってるよ……」

 そう言った後、彼女は言葉を選びながら私に告げる。

「でもね、普通の人になるのは難しいよ……だって私たちは逆さまの世界に生きているから」

 そんな詩的な表現で誤魔化しているけれど、彼女の言いたいことが私にはわかった気がした。だから頷いたのだ。すると彼女の表情はほころぶ。

「ね!そうだよね!」

「うん!わかるよ……私もそう言いたかったの」

「なんか嬉しいな、紬ちゃんみたいな子がいてくれて……」

そんな会話をしていると、突然声をかけられた。

それは先ほどインタビューをされていた白鳥だった。彼は笑いながら言う。

「二人とも仲良しですね」と嬉しそうに答えた後、こう付け加えたのだ。

「でも瞑想は続けてくださいね?」

「はい……」と私たちは小さく答えた。

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