3
寝心地が悪く目が覚めた。担架の上にいる。
見覚えのある石畳みが目先を流れていく。それも束の間。車内に運ばれた。
救急車に乗せられたことを察した。外を見ようとするが、フラッシュが視界を遮る。
ドアが閉まり、その音だけが響く。
再び外を見ると、先生方と記者が口論していた。
見取が車に乗り込もうとする。閉まるバックドア。その隙間から身を抑え込められる姿がみえた。
「糸重、気がついたか!」
仰向けになったままの私に微笑みかけてくれた。
しかし、首の裏から響く激痛が、その微笑みを受け止めることさえ許さない。
「骨折の可能性がある。安静にしていなさい」
「糸重、今は身体を起こすな」
「はい……」
救急隊員に介抱してもらい、ゆっくり頭を下ろす。
痛みを押し殺しながらも、視線は足元に向けられた。
星守先生が再び声をかけてくれる。
「お前はアリーナの天井に落ちて怪我をした。覚えているか?」と問われ、頷き返す。
「幸い、膜天井のおかげで大事には至ってないそうだ。もっと早くに私達も動き出せていれば……
……本当にすまない」と謝罪の言葉がこぼれた。
責められるべきはクラスメイトだ。その念が胸からこみ上げ、息が震える。
何度も、何度もしゃっくりが腹から鼻へ抜けた。
震える息が傷を思い出させる。痛まないよう声を無理やり押し込める。
「ご両親も病院にいらっしゃる。もう安心だ」
星守先生に微笑まれると、痛みがほんの少し和らいだ。
救急隊員が一人立ち上がり、心拍計を取り出す。
成り行きに身を任せ、目を閉じる。そのまま心電図の音に耳を傾けた。
「先生、患者は何時ごろに怪我をしましたか?」と問われる星守先生。
「十時ごろですね」
「……バイタル正常よし」
車内の静けさを切り裂くように開かれるサイドドア。
外からの怒号が入り込む。驚き、目を開けると、見取が乗り込もうとしていた。
「記者です。私も同乗させてください!」
「関係者以外はお断りします」
「どうかお願いします!力場障害者のためにお力添えください」
「もう出発しますので、お引き取りください」
「行き先だけでも教えてくれ!頼む!!」
すぐに見取は先生方に取り囲まれ、力づくに引き剥がされる。
エンジンが唸り始め、ドアが閉まる。響き渡るサイレン。
「ベルト確認よし!出発します!」
車はその場を飛び出し、担架が揺れる。
窓の外に広がる街並みが一瞬一瞬流れていく。
「何かあれば、すぐに教えてくれ」
星守先生へ向き直ると微笑まれる。
赤と白ばかりの車内に広がる温かい色。
その色に寄りかかれば、恐れも薄まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます