とんでもない人の秘密を知ってしまった件

一帆

  とんでもない人の秘密を知ってしまった件


時間を短縮しようとして近道をしたのがいけなかった。

どんなに急いでいても、お化け屋敷と呼ばれる家の庭を横切ったのは間違いだった。



そんなことを後悔しながら、私は二人の男子生徒に睨まれていた。二人は同じ高校に通う生徒会長の五十嵐くんとと副会長の宮本くんだ。


「お前、何をみた?」と宮本くん。

「な、な、何もみてませーん」と私。


二人がよろしく抱き合ってキスしていただなんていえない。


「本当か?」

「は、は、はい。抱き合っていたのはみてませーん!」

「レイ、やっぱり、こいつは始末しよう」


 宮本くんがポキポキっと指の関節を鳴らしながら私に近づいてくる。私は後ずさりしながら、手を合わせて謝る。


「申し訳ありません! 失言しました! 見目麗しい男子が二人抱き合っていても、尊いと崇め奉るものがいても誰も咎めません。そもそも、生徒会長と副会長は我々女子の中では、カップリングされていて、何も問題ありません。最近の文芸部のネタは名前こそ出しませんが、BLもののモデルは生徒会長と副会長です。それに、わたしって物忘れがひどい方なので、今見たことは忘れます。もしくは、顔だけ変えて記憶します。次の物語の主人公にします」


 私は思いつく限りの言い訳を言った。宮本くんの表情があきれ顔にかわる。


「お前、自分でどんどん墓穴を掘っているぞ。お前、俺らをなんだと思っている?」

「N高の頭脳ともうたわれる、イケメンの生徒会長様と副会長様です! わたくしのような底辺の人間からは雲の上のお方です」

「確かに、お前はテストの度に職員室に呼び出されているからな。お前がいなくなっても、世の中にはさほど影響はないな」

「はい! まったく、その通りです!! イケメンのキスシーンほど尊いものはありません! 尊死しそうです!」

「ならば死ね!」


「ユウ、こういう女子は脅してもだめだよ」と凛と澄んだ声で、五十嵐くんが宮本くんの腕をとった。


「2-Cの林さんだったね。所属は文学表現部と甘いもの大好き同好会。先月の特集のどらやきの評価はよかったよ。あれは自分で作ったのかい?」

「あ、あ、そ、そうです。私、あんこづくりだけは得意なのです!」

「そうなんだ。じゃあ、君は僕たちの秘密を守ってくれるかい?」

「はい! もちろんです!!」

「じゃあ、君の秘密も一つ教えてくれないかい? そうしないと、僕たちも安心できないからね」

「わ、私の秘密ですか? ……、えっとぉ、……、コミケにだしているペンネームとか? 親に黙っている課金額とか? それから……」


 私が必死で考えていると、いきなりふわりと抱きしめられた。そして、くいっと顎を持ち上げられると、目の前に五十嵐くんの顔が近づき、あっという間に唇をふさがれた。


 きゃーーー! 私の、ファーストキス―!!!


 慌てて五十嵐くんから離れようともがいても、全然動かない。なおさらぎゅうーっと抱きしめられるばかりだ。


 パシャリ。


「え?」


 カメラのシャッター音とともに、私は自由を取り戻した。五十嵐くんの後ろにはにやりと笑って、カメラを右手に持っている宮本くんがいた。


 いつのまに、カメラを!


 ていうことは、今のキ、キスは!!


 真っ赤になっている私に追い打ちをかけるように、五十嵐くんがさわやかな笑顔を私に向けているのに気がついた。さわやかな笑顔なのに目だけは笑っていない。むしろ、宮本くんより怖い……。


「これで、君も秘密ができた。これからも三人、仲良くしようじゃないか。僕はね、あんこが大好きなんだ。明日、ここにどら焼きを作って持ってきてくれると嬉しいな。そうだ。とびきりおいしいお茶を用意しておくから、三人でお茶会を開こう」


 






                                おしまい







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とんでもない人の秘密を知ってしまった件 一帆 @kazuho21

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