第3話 修学旅行、甘酸っぱい思い出のお布団

※ヒロインの一人語りですが、囁かれているのは主人公ではなく、お布団です。


☆   ☆   ☆


(畳の上に布団が四つほど敷いている和室)


//SE 男女八人がガヤガヤしている


(一人の男子生徒がお菓子を一人の女子生徒に渡している)


(戸惑いながらも)

「あ、ありがとう。これ、おいしいよね」


(男子生徒も、目線を合わせることなく)

「——私が髪を下ろしてるのがちょっと新鮮? 

 ……確かに、私の髪って結構長いもんね。

 ポニーテールかアップにしてないと邪魔だからさ」


(噛みしめるように)

「——そうじゃなくて、……似合っている?

 ふ、ふぅーん、ロングが好きなんだ……」


//SE 突然お布団に顔をダイブさせる音


「な、なんなんだよー! この青春っぽい雰囲気は!」(お布団が声量を吸収)


(少し微笑みながら)

「——いや、何もないよ?」


(少し気まずい雰囲気を一振するように)

「それよりもさ、男の子ってホントにバカだよね」


「だって、先生に怒られるリスクなんて全く考えてないでしょ?」


(ちょっと馬鹿にした言い方を反省して)

「……そりゃあ、人数が多いと楽しいけどさ」


「——怒られてもいいから、ここに来たかった?

 すごい執念だね。

 何かやりたかったことでもあるの?」


「——私と喋りたかっただけ? ……もう、からかわないでよっ!」


//SE 突然お布団に顔をダイブさせる音


「ん~、なにそれめっちゃうれしいんですけど!」(お布団が声量を吸収)


(少し微笑んで)

「——何にもないって~」


(周りの話題が恋バナに変わる)


(少し顔を赤らめながら、髪を耳にかける)

「……あ、あれは? あのー、ほら私たちって高校生なわけだし、彼女とか……いるんじゃないの?」


(うれしい気持を隠そうと)

「――へぇ、いないんだ。

 あ、あれか。自分は彼女つくらないスタンスとか?」


(ちょっと声量を落として)

「――別に違う? ほぉーん、……ちなみに好きなタイプとか、あるの?」


「――身長は平均的で、黒髪ロング、でも別に髪を縛ってるのも好き。話してると落ち着く人で面白い女の子がタイプ……」


//SE 突然お布団に顔をダイブさせる音


「あれー!? これって私じゃないのぉ!?」(お布団が声量を吸収)


(誤魔化すように)

「――さっきから何してるのかって? いやいや、まぁ癖だと思って」


「――やっぱり面白い? 私が?」


(自分の顔が赤くなっていないか心配になって、お布団を全身にかぶる)


「私のこと、絶対好きじゃん!」(お布団が声量を吸収)


(やけになって)

「――もう私は寝るっ! 別に眠たくないけど、寝るったら寝るの!」


//SE 玄関の入り口が開く音


(室内がパニックになる)


(パニックで)

「やばいじゃん、あぁもう、早くこっち来てっ」


(男の子の袖をひっぱって同じお布団の中に入れる)


(二人の心音が聞こえる)


(照れながら)

「隠れておいてよね……」


(二人の心音がどんどん早くなる)


(顔を真っ赤にしながら)

「あと、変なところ触ったらぶっ飛ばすから」


//SE 先生が寝室の扉をゆっくり開ける音


//SE しばらくして、玄関のドアを閉めて先生が退出する


(囁いて)

「――ねぇ、先生いったよ?」


//SE 抱きしめた時の布擦れ音


(戸惑って)

「ふぇ? ……ん!? ど、どうしたの、怖かったとか?」


(思わず)

「――心音でバレるから? ……ふふっ、なにそれ」


「バレるも何も、もうわかってるから。

 私のこと、す、好きなんでしょ?」(一生懸命自分の気持ちに気付かれないように)


「――私こそ、君のことが好きだって? 

 そ、そんなわけないでしょ……そんなわけ」


(心音が一層早くなる)


「心音で分かってる? ……く、くやしいぃ」


(キス音)


(驚いて)

「い、いきなりぃ? …………はぁ」


(キス音)


(諦めたように)

「はいはい、私は君のことが大好きですよ」


「――そんな真剣な顔で好きなんて言わないでよ。

 めっちゃ恥ずかしいじゃん」


(少しの沈黙から)

「そろそろお布団から出よっか。

 みんなもそろそろ押し入れとかから出てくると思うし」


(囁いて)

「私たちのことは秘密ね?

 外では友達、ね?」


「――お布団にはバレてる?」


「良いの。私たちの思い出は、このお布団の中に隠さなきゃだし」


(男子生徒たちは急いで、全員が女子部屋から出ていく)

//SE ドタドタと急いでいる足音

//SE 玄関のドアが閉まる音


//SE お布団を整えて、かぶる音


「お布団さん、私とあつーいお話し合いを、日が昇るまでしましょうね?」

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