第2話 百合の下敷きになるお布団

※「紫陽花あじさい」と『椿つばき』、二人います。


☆     ☆     ☆


//SE ドアを開けて、閉める音


(紫陽花を見かけて)

『……やっほ、久しぶ、』


(椿を見かけて、廊下を走りながら)

「つーばーきー!」


//SE ドタドタと廊下を走る音


(勢いよく抱きしめ、満点の笑顔で)

「会いたかったよぉ~! めっちゃ久しぶりだねっ!」


(なだめるように)

『まぁ、一か月ぐらいだけどね。会えてないの』


(はっ! と今気づいたかのように)

「一か月も私は椿に会えてないなんて……私の中の椿エネルギーが足りないよ~」


「もっとハグさせろ! もっと触らせろ~!」


//SE 布擦れ音


(小さな子供のいたずらを見るように)

『もー、服ぐちゃぐちゃになるじゃん』


『それで、今日はご飯をつくるから何も食べないで来てって、メールあったけど……』


(何か焦げているにおいがする)

//SE フライパンで何かを焼いている音


「あー! 私、火消すの忘れてた!」


//SE 廊下をドタドタと走る音


(片手を口元に持ってきて)

『紫陽花ってホントに世話が焼ける。……ふふっ』


//SE 廊下をとぼとぼと歩く音


(涙目になりながら)

「……うぅ、椿ぃ、ごめん」


(紫陽花の頭をなでる)


(なんでもないように)

『いいよ、なんていうか期待通り過ぎて、ちょっと怖いぐらい』


(本当に分からなくて首を傾げて)

「ん? ドウイウコト?」


(可愛い笑顔で)

『ふふっ、なんでもないっ』


(何とか気分を取り直そうとして)

「――で、でもね! 焼き魚というメインは真っ黒になっちゃったけど、お味噌汁とかご飯とかは完璧だから!」


//SE お風呂が沸いた音


「おっ、ナイスタイミングだね」


(少し離れて、あざとく)

「そ・れ・じゃ・あ」


(ニマニマしながら)

「お風呂にする? ご飯にする? それとも……ア・タ・シ?」


(普通のトーンで)

『じゃあ、紫陽花で』


(揺さぶろうとしたのに、逆に揺さぶられて)

「私って言っても良いんだよ……え? 今、私って言った?」


(真顔で)

『ダメなの?』


(ぶんぶんと首を横に振って)

「いやいやいや、ダメ……じゃないけど」


(靴を脱いで紫陽花に迫る)

『それじゃあ良いよね』


(キス音)


(目線をそらして、体裁を取り繕って)

「えー///、いきなりとか、ずるじゃん」


//SE 後退りする音


(紫陽花の耳元で)

『私、ずるいよ?』


「……あ、あんまこっち見ないで。

 なんか……恥ずかしい」


//SE 後退りする音


(意地悪そうに)

『えー、そんな可愛い顔して、そんなこと言うんだ?』


(紫陽花の後頭部に手を添えて、ベッドの上にゆっくり倒す)


『いじわる』(囁いて)


(少し必死に)

「ち、ちがうもん。いじわるなのは椿のほうで……」


(ニヤニヤしながら)

『そうだよねー。紫陽花はいじわるな子じゃなくて、エッチな子だもんねー』


『私にキスされて、期待しちゃったんでしょ? 

 だから自分で、ベッドまで移動したんだよね?』


「……ん、ううん。私、えっちな子じゃないもん。ちがうもん……』(涙目で)


//SE 抱きしめた時の布擦れ音


『――ごめん、紫陽花が可愛すぎてつい、いじわるしちゃった』


『もう、やめるね』


(ベッドから離れようとする椿)

(椿の袖をひっぱる紫陽花)


(顔を真っ赤にして)

「私のこと、襲いたくならないの?」


(照れてしまって)

『/////』


(ひっぱってきてベッドに椿を座らせて)

「誰も見てないよ? ここには誰も私たちを否定する人はいないんだよ?」


(お布団に視線を落として)

『……お布団さんが、見てるけど?』


(お布団を軽くなでて)

「……お布団さんは、私たちの関係に反対、しないよね?」


『ふふっ、それじゃあ私たちがどれだけ愛し合っているか、お布団さんに教えてあげないとね』


「へへへ、お布団さんとは一生一緒なんだから、私たちを好きになってもらわないと」


(二人とも見つめ合って布団の上で寝ころぶ)


(キス音)


『「大好きだよ」』(囁き)


☆   ☆   ☆

「紫陽花」は夏の花、「椿」は冬の花。

二人は出会うこともない、出会ってはいけなかった。

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