第1話 干物お姉さんはお布団と結婚したい

「どうやら俺は、彼女の発言にショックを受けて死んでしまったらしい」


「……だからって布団に転生はないだろ!?」


「まぁ何度か転生したことで、一日経てば違う家のお布団になっていることは分かった」


「……はぁ、今日はどんなやつの布団になるのやら」


回想終了(ここから先はヒロインの一人語り)

☆     ☆     ☆


(大きなため息)

「はぁー、なんだか疲れちゃったわー」


//SE ビニール袋を豪快にテーブルに置く音


(上機嫌に)

「そんなときは、ビールとコンビニで買ってきたおつまみに限るぅ!」


//SE ビールの栓を開ける音


//SE おつまみの封を開ける音


「それじゃあ、いただこうかなっ」


//SE グビグビとビールを飲む音


(居酒屋によくいるおっさんのように)

「……ぷはぁー! さいっこう! やっぱ仕事終わりはビールに尽きるわー」


//SE 割り箸を割る音


「そして、このコンビニでしかあんまり見ないモツ煮を一口……」


(男らしく)

「おーい! 最高にうめぇじゃねぇかよ!」


(天井を見上げながら)

「あー、私は多分この時のために生まれてきたんだなぁー」


(だいぶ酔っぱらっている感じで)

「そう思うだろ? お布団ちゃん」


(バフバフとお布団を軽く叩きながら)

「……あんたはほんとーに良いやつだわ」


(少しまじめな口調で)

「あたしって社会的に見れば、すっごいできる女っていう立場にいると思うの」


「会社ではできる女上司って言われてるし、私がいないと成り立たないビジネスもできた」


「キャリアアップして収入も上がって、自分がすごいんだって、みんなの賞賛で理解してる」


(少しトーンを落として)

「でもね、私、そんなに強くない」


「見かけや数字はいくらでも取り繕えるし、もちろん頑張っても報われない人もいるこの世界で、私がそんな贅沢なんて言えない」


(缶ビールの形が少し変形するぐらいに手に力を入れて)

「しんどいって、荷が重いって、そんなの……言えない」


(諦めたように)

「私、お家じゃこんなんだし」


「きっと、こんな私を見たら、みんな幻滅しちゃう」


//SE ビールを流し込む音


(そっと缶ビールを置いて)

「……でも、お布団ちゃんは違う」


「私の弱音をいっつも、何も言わずに聞いてくれる」


「私が責任に押しつぶされそうになった時、暖かく包み込んでくれた」


「私がお酒を飲みすぎて酔いつぶれた時、優しく背中にかぶさってくれた」


(苦笑しながら)

「そのあと吐いちゃったものを、全部受け止めてくれた」


「ありがと」


//SE 勢いよくお布団にダイブする音


//SE ベッドがきしむ音


(いたずらっぽく)

「ねぇ? 明日は久しぶりの休みなんだよねー」


「へへへ、だからこのまま寝ちゃっても、許されるよね~」


「――え? それだと臭い?」


(お布団をつつきながら)

「んー? 女の子にそんなこと言っていいのかな~?」


「私の努力の結晶、嗅げるのはお布団ちゃんだけなんだよ?」


「ほーら、今日は私がお布団の上に乗っかってあ・げ・る」


//SE お布団ボフンと身体をあずける音


(ゆったりとした心音)


(思い出したかのように)

「べ、別にお布団をかけるのが面倒だからじゃないからね?」


「……ほーら、私のおっぱいの感触はどーだ」


「……最高だろー、へへへ」


「私ね、いっつも思ってたんだけど――」


「私、絶対……」


「将来はお布団ちゃんと結婚するっ!」


//SE 力強くぎゅっとされる布擦れ音

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