第39話 応報


 ロランに荷物が届いた。

 細長いの。

 ロランはそれを部屋に持っていって、厳重な梱包を解いた。

 中から出て来たのは……何だろう?

 首を傾げて見てたら、ロランが笑った。

「ソードだよ」

 魔術師だって想定外のことが起きたら物理攻撃する可能性もある。

 だから厳しい体術の授業があったんだし。

 僕がいるからいらないかなって思ってたけど……。

 それって慢心だよねきっと。

 保険はいくらあってもいい。

 これがソードなのかあ。

 白い木箱に入ってる。ふたつ。

 細いな、ケースから見てもよくあるソードより細い。

 でも長さは脚の付け根くらいまでありそう。

「2本あるの?」

「刃が傷んだら研ぎ直してもらわなくちゃならないから、その間丸腰だと困るからね」

「交代で使うんだね」

 そう、と言って、ロランは細い鞘を握ってソードを抜いた。

 真っ直ぐじゃない。

 ちょっとだけ刀身が反ってて片刃だ。

 見たことない。

 え? これって大丈夫? 細くない?

 刃薄いんじゃない?

 片刃なんて使いにくくないの?

「見たことがないよ」

「カタナっていって、隣のヤマト帝国の職人さんが作ってるんだ」

「隣の国でわざわざ作ったの?」

「持ってる人は国内にはいないかもね、剣士向きじゃないし」

 ちょっと頼りないかなあ。力伝わらない感じ。

 普通は魔術師は長物を持たないし。

 うーん……一抹の不安。

「僕は体が小さいから一般的なソードは扱いにくい」

 ロランの体格じゃ振り回されるよ。

「ショートソードは重さのわりに使い勝手が中途半端」

 ロラン、小柄でリーチが短いから。

「ダガーは1本じゃダメ、スピアとボウは論外……いろいろ探して、これが合いそうだなと思って」

 そうか、この独特なソードは正解かも。

 刃が薄くて少し反ってるから、力が弱くても斬りやすいかもしれない。

 反ってるのがポイントなんだ。

「グリップが手に馴染むし。ものすごくバランスがいいソードだ」

 ずいぶん気に入ってるみたい。

 でもせっかく魔術師になったのに、カタナも届いたのに、ギルドに行くふうはない。

「魔術師になったのにギルドに行かないの?」

 お茶の時間、ロランに訊いた。

 何か、すごく微妙な顔。

「うん……身内から禁忌が出たから、自主的に謹慎中」

「お仕置きでギルド行けないの?」

「そうじゃないよ。ないけど……しばらく身を慎みたい」

 バレルは逮捕されて取り調べ中。

 凶器の草刈り鎌に呪術をかけた魔術師たちは死刑確定。

 禁忌を犯したら死刑。殺人未遂も上乗せ。

 バレルは実行犯だけどまだ15才の未成年。

 死刑にはならないかもしれないって。

 ただ、ロランを2度殺そうとしたのは裁判所も揉めてるみたい。

 クレアもロランも言わなかったのにさ。

 あいつ、感情昂ぶって全部自白しちゃったみたい。

 やっぱり頭悪い。

 うちに警察の人が来て、話を聞かれた。

 正直に答えるしかない。

 2度狙うって悪質だから、揉めるのも無理はないな。

 いくら未成年でも、さすがに釈放はないよね。

 3度目があったら大変だもん。

 ロランは反撃せざるを得なくなる。

 たぶん、一番嫌なこと。双子の弟に攻撃魔法を使うのは。

 万一そんなことになったら僕がやるよ。

 重力魔法で確保するから。

「実際、問題はあるんだ」

 ロランは大好きな堅焼きのクッキーをポリポリ食べて、お茶を飲んだ。

「本当なら死刑になる罪人……一生自由になれないのは確定だけど」

 出せないよね。猫でもわかるよ。

「独房からも出さないと思うんだ」

「どくぼう?」

「ひとりっきりの牢屋のこと。何人も一緒に入るのは雑居房」

「ひとりで閉じ込めておくの?」

「あんな性格だから雑居房だと他の受刑者と揉めるよ」

「すごいことになるね……」

「強制労働も無理かもね……他の人と一緒にさせられない」

「きょうせいろうどうって何?」

「罰だよ。刑務所の中で働かされるんだ。重労働だよ」

「うーん、バレルと仕事っていうのが結びつかない」

「でも、そうすると一生無為徒食になってしまう。税金でそれは難しい」

「むいとしょくって?」

「働かないでご飯を食べて、だらだら生きること」

「それはダメだって猫でもわかるよ。罪人なのに」

「まあね……悪い予感が当たらなければいいけど」

 その悪い予感は当たったらしくて。

 裁判の判決を聞きに行ったロランがクレアに何か言ったら、うつむいて奥に引っ込んでしまった。

 キッチンになんて立ったことがないロラン、ものすごく大変な思いをしてお茶を淹れたけど、美味しくないらしい。

 表情もすごく暗い。

 無資格魔術師3人は裁判官全員一致で死刑判決。

「バレルは……売却処分だった。3年間牢に繋がれて、18才になったら売られる」

 ロランは口の中にある何か嫌なものを、お茶で流してるみたいだ。

「殺人未遂2回と禁忌、やっぱり無為徒食は無理だった……」

 ゴロゴロしてご飯を食べるのは無理だったみたいだ。

「18才成人なら死刑だったんだけど」

「売られるって大変なことなの?」

「奴隷になるんだ。死刑の方が彼には救いだったかもしれない」

 思ってたより事態は厳しいらしい。

「まさか呪いを使って情状酌量があるなんて考えてなかったはずだけど……きっと初めから何も考えてなかったんだろうね、僕を殺したい一心で」

 ロランはうつむいて暗い目で言った。

「俺は悪くない弟が悪いって泣き叫んで、看守に引きずられて退廷していった」

 自分が長男なんだ、いまだに。

「死刑の方がいいくらい大変なの?」

「自由は認められない。理不尽な命令にも逆らう権利はない」

「うちから出て行った時みたいに逃げちゃうでしょ」

「逃げられないよ……そういうものなんだ、奴隷って」

 数日内に競売? っていうのがあるって言って。

 何日かしたら書類が来て、読んだクレアはやっぱり泣いてた。

 ロランに訊いたら、鉄鉱石を掘る会社だって言ってた。

 ものすごく過酷で、奴隷が大勢働かされてるって。

 働くわけないじゃんって思ったけど、鞭でぶたれたり食事をもらえなかったり、命令に従わないと生きていけない、すごい世界だって。

 自我がもつかな、あの子。

 無理かも。

 今度こそ頭が変になる気がする。

 死刑の方がよかったかもって、僕も思った。

 18才になったら引き渡しで、代金は税金に。

 罪人を売ったお金だから。

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