第12話 生きてよキース


 僕はわりと鼻もよくて、リザと一緒に森で宝探しもする。

 ずいぶん中に入っちゃったな。

 最近、ステラの隠し方がずるくなってきて大変だ。

『こっちにはなさそうだよね。向こうに行ってみる?』

『あなた本当に猫なの? できないことってないの?』

『うん……まだわからない』

『女神様のご加護、強すぎるわ。無敵よル——待って、そのまま』

 うん……確かに何かいる。気配がある。

『逃げて! 魔物だ!』

 草むらから角がある生き物が飛び出して来た。

 大きさはリザの半分くらいだけど、僕より何倍も大きいウサギ。

 額に一本角があって、見るからに危ない。

『危ない、ルイ! ホーンラビットよ、毒を持ってる、下がって! あたしがやるわ』

『大丈夫、リザはそこにいて!』

 僕は戦ったことなんかなかった。

 でもちょっと角があるウサギなんか怖くない。

 クレアの方が1億倍怖いからね!

 ウサギの前に立って右の前足を上げて、斜めに振り下ろした。

 レザークローっていうんだって。

 風魔法属性の物理攻撃? とか言ってた。

 まあ何でもいいんだ、リザを守れれば。

 角があるウサギに爪の傷が4本ついて、血が噴き出した。

 これでクレアに叱られずに済むよ。

 魔物がいたのに攻撃しなかったなんてバレたら——。

 たぶん爆弾みたいな火魔法投げつけられる。

 効かないからって怖くないわけじゃないんだ。

 魔物から血が流れてる。

 僕もこんなふうに殺されたんだなって思った。

 でも見せ物にはしなかったよ。

 苦しまなかったんじゃないかな、僕のようには。

『とんでもないわね、あなた……とりあえずステラに報告に行きましょ』

 リザは獲物の首をくわえて歩き出した。ちょっと重そうだ。

『待って、リザ』

 重力魔法。これって反重力にもできて、ものを浮かせられたりする。

 少しだけ浮かせたら地面と擦れないから、リザはウサギを咥えてサクサク歩く。

『強いし便利だし、コールサルトってすごいわね』

『クレアの地獄の特訓の賜物だよ』

 いつもの切り株に腰掛けていたステラが、僕たちに気づいて駆け寄ってきた。

「どうしたんだ、ホーンラビットじゃないか!」

 ステラはものすごく驚いてる。

「何でうちの森にそんな危ない魔物が」

 ステラが驚くくらい危ないやつだったんだ。

「ルイ、お前が狩ったのかい?」

「だって失敗したらクレア怖い」

「レザークローで一発で仕留めてるね。よくここまで強くなったもんだ」

「クレアがすごいんだ」

「とりあえず血抜きをしようかね。クレアにシチューを作ってもらおう」

「食べるの?」

「鶏肉に似て美味いんだよ」

 リザと僕はおやつにチーズをもらった。

 リザは少し休んで、僕はステラに呼ばれて足下に行った。

 ステータス見てる。

「おお、レベル上がってるねえ。さすがはクレア、教えるのがうまいね」

 怖いんです。

 それからリザと僕はお風呂に入れられて——濡れるの大嫌いなんだけど——返り血や埃を洗い流して、晩ご飯を食べた。

 そのままリビングのカゴの中で休んでたら、大きな音がしてドアが開いた。

 音に驚いてキッチンから出てきたクレアが固まった。

「あなた……マリス! どうなさったのその腕は!」

 悲鳴みたいなクレアの声。

 その声でステラもやって来た。

「どうしたんだマリス、討伐は?」

「やられた、パーティは壊滅だ」

「アナの回復魔法は? 魔力切れだったのかい?」

「彼女は……死んだ。狙ったように真っ先に殺されてしまった」

 マリスはボロボロで、左腕を胸の高さに吊ってた。

 ケガをしたんだ。

 早く治さないと。

 でもちょっと待って。

 マリスは傷めてない腕でキースを抱いてる。

 たぶんキースの方が重傷だ。

『キース、大丈夫? 動けないの?』

『敗残の身で……おめおめと逃げ戻った……』

『生きていればまた機会があるよ。それよりケガをしているでしょ?』

『ああ……左の翼が折れて、毒針にやられた。体が痺れてもう長くない』

 すごい重傷だ。

『そんなこと言わないでキース! 頑張って!』

『生きてこの家に帰れて……本当は、嬉しい……』

『だったら生きてよ!』

『止まり木……連れて行ってくれ、あそこで死にたい』

 話すのも辛いんだ。羽根が折れて、毒……。

 僕はマリスの膝を何度も叩いて、キースを呼ぶように前足を動かした。

「治してくれるのかい? 頼むよルイ、もう危ないんだ」

 クレアがキースを床に下ろしてくれた。

 傷は治せる。

 毒はわからない。ステラは毒にも効くって言ってたけど。

 だって使ったことないもん、毒消しなんて。

『動かないで。すぐ治すよ』

 神聖魔法だけは図抜けて強い。

 キースの翼に前足を置いたら、全身がふわっと光った。

 脚をどかしたらキースが立ち上がって、翼を2度羽ばたかせた。

『痛みが消えたぞ! 毒の痺れもなくなった!』

 毒も治せたんだ、よかった。

『治ったからって無理しちゃダメだよ』

『感謝するぞルイ。おかげでまたマリスと共に戦える』

『だから、まだ無理しちゃダメだって』

 そうだ、マリスも治さなくちゃ。

 太い骨がポッキリ折れてて、1分くらいかかってしまった。

「……もう治った。コールサルトの力は凄まじいな」

 キースが羽ばたきながらマリスの足下に行くと、マリスはキースを抱き上げてなでてる。

「よかった、キース。もうダメだと思った……ありがとうルイ」

 それにしてもだ、って、ステラは不機嫌そうに言った。

「麻痺毒を使うなんて、ブルーバックビーストじゃないだろう」

「ああ、確かに背中が赤みがかってたと思う」

 レッドバックビースト……ってクレアがつぶやいた。

 じょういしゅ? とか言ってる。

 敵が予想より強かったってこと?

「とんでもないオーダーミスだ。損害は?」

「10人やられて重症者が5人……ラムスは右腕を潰されて再起不能だよ」

「レッドバックなんて単体のパーティじゃ無理だ」

「どのパーティもリスクは取りたくないだろうね。出かけていって返り討ちなんて、大規模パーティほど嫌がる。看板に傷がつくから」

「できればレイド……」

「失敗したら責任を分散できる、単体パーティよりいいかもしれないね」

「ただ、手を挙げるパーティがあるかどうか」

 全然わからないから、キースに訊いた。

『ビーストって強いの?』

『そうだな、マリスの10人分以上の大きさだ。力押しでは勝てん』

 マリスの10人分って、ほんとに化け物じゃないか。

『ビーストは強い雄だけが雌を従える。若い雄は群れを離れて人里に近づくはぐれ者。そして美味い餌の味を覚える』

『どうやってやっつけるの、そんなの』

『攻撃魔法に弱いが、相応の威力がなくては効かん』

『人間に迷惑をかけるの?』

『はぐれ者の主食だぞ。放っておけば村ひとつなど2月程度で食い尽くされる』

 人間食べるんだ!

『危険なことしてほしくないな……マリスもキースも好きだよ』

『バカ者。このヴァルターシュタイン家は代々戦闘魔術師の名門』

 目の当たりにすると、本当に命がけだね、魔術師もバディも。

『大物の討伐となれば先陣を切って赴かねばならんのだ。お前もだぞ』

『僕はステラと仮契約してる子猫だよ』

『む……早く育て。わしと共に魔物討伐にゆくのだ』

 ものすごい無茶言われてる。

 でも僕、ほんとに成長してないんだよね……。

 それにしても、ついさっきまで死にかけてたのに、キースはやる気満々だ。

 リザもだけど、バディってすごいんだな。

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