第7話 20分違いの兄弟


 ステラの足下に寝そべったリザはちょっと呆れ顔。

『この先もっとひねくれるわよ、バレル』

『そうなの?』

『ロランとバレル、何才差かわかる?』

『差って……バレルの方が大きいけどロランがお兄ちゃんなんだよね』

『双子よ、20分違いでロランが先に生まれたの』

『……赤の他人以上に似てない』

『意外と毒舌ね』

『そういう国で生まれたんだ』

『たった20分しか違わない双子。バレルは自分の方が体が大きいから、自分がお兄ちゃんだと思ってる。周りもみんな間違えるから、自然にそうなっちゃうのよ』

 うん、僕も勘違いしてたよ。

 ロランが弟だと思ってた。

 こんな間違いを何度もされたら、子どもは勘違いする。

『だからマリスもクレアも懸命よ。勘違いを直さないと大変なことになるわ』

『何才なの?』

『6才。この間普通学校の初等科に入ったわ』

『学校? だから毎日出かけてるんだね』

 何か、すごいところに来ちゃったな。

 それからも毎回おんなじことの繰り返しで、バレルは本当に自分がお兄ちゃんだと思い込んじゃって、イベントごとに行くってゴネて、叱られて、泣く。

 僕は大人がいないところでバレルがロランを突き飛ばすのを見てしまった。

 でもね……ロランはバレルと違って泣かないんだ。

 全然泣かないし、怒らない。

「こんなことをしても、なにもかわらないよ」

 って、この子、子どもなの?

 あー、お兄ちゃん——長男ってこういうことなんだ。

「ぼくがおにいちゃんだ! ちょうなんなんだ! おまえはおとうとなんだ!」

 ほんとに泣かない。何回突き飛ばされたり、ぶたれたりしても泣かない。

「おにいさまっていえよ! おとうとのくせに! バレルってよぶな!」

 そう言って、ロランの髪をわしづかみにして引っ張った。

「あおいかみのけはぼくのものだ! かえせ! あおいめもかえせ! おまえがぬすんだんだから、ぜんぶかえせ!」

 今度は指でロランの目を突こうとする素振りをみせたから、あわてて飛んで行って、全力でシャーって威嚇した。

 驚いたバレルが腰から砕けてわあわあ泣きだして、ロランに「むだなことはやめなよ」ってたしなめられてる。

 この決定的な差。

 うん、マリスの跡継ぎはロランだ。

 この家にはキースっていうフクロウがいて、マリスのバディ。

 仕事に行く時と訓練の時以外は、マリスの部屋にある枯木の止まり木にいる。

 ああ、何かとてもキースに会いたい。

 マリスの部屋に行った。

 この家の多くの部屋のドアは、技術魔術師さんが作ったもの。

 一見普通にドア。

 でも契約魔獣は自由に出入りできる魔法のドアなんだ。

『キース、起きてる?』

 キースはまぁるい目で僕を見た。

『ルイか。何かあったのか』

『いい話じゃないんだけど聞いてくれる?』

 僕が見たことをキースに話した。

 だって、ステラになんて言えないし、黙ってるのも苦しいし。

『突き飛ばすし髪の毛むしろうとするし、目まで傷つけようとしたから、あわてて割って入ったよ……髪と目を返せって騒いでたけど、何かあるの?』

『あれはヴァルターシュタインブルーだ』

『特別なもの?』

『うむ。この家の初代当主が青髪碧眼であったという。数代にひとり、男子にのみ遺伝するヴァルターシュタイン家直系の証なのだ。長男に出ればこれ以上なく正当な後継者。次男以降に出れば長男とほぼ同等に扱われる』

『すごいね、ただの青じゃないんだ』

 そしてキースは思いっきりため息。

『バレルめ、もはやダメかもしれぬな。次期当主に手を挙げるとは』

『大丈夫なのかな、あのふたり」

『育てばさらに悪化するかもしれぬが、坊ちゃんは小柄ゆえ、力では太刀打ちできん」

『……ステラに言うべき?』

『いや、坊ちゃんには次期当主たる誇りがある。密告は無礼』

 ものすごく賢いキースをしても答えが出ない。

 ああ面倒くさいな双子!

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