第6話 ヴァルターシュタイン家のルール


 バレル・ヴァルターシュタイン。

 マリスとクレアの息子。ロランの兄弟。

 そんな彼と、僕は仲が悪い。

 そもそも、倒れてる子猫の死体蹴りなんて、子どもが考えることじゃないよ。

 僕が起きた後、バレルはステラにものすごく叱られて、わあわあ泣いてた。

 うちは初代から今まで動物をぞんざいになんてして来なかったんだ! って、ステラはものすごい剣幕で、リビングまで聞こえてたよ。

 その子が、外出の準備をしてるマリスにまとわりついてる。

 マリスとロラン、よそ行きの服。

 セレモニーにでも行くのかな。

「おとうさま、ぼくもいきたい」

「ダメだって、いつも言ってるじゃないか」

「ぼくもいきたいよ! どうしていつもロランばっかりつれていくの?」

「いつも言ってるだろう、式典やお祝いやお葬式には、お兄ちゃんしか行けないって」

「ちがう、ぼくがおにいちゃんだ!」

「だから……お前は弟なんだ、バレル。ロランが先に生まれたんだって、いつも言ってるだろう」

「いやだ、ぼくもいく、つれていって、ぼくもいく! おにいちゃんなんだ!」

 そして、ステラに叱られる。

「いい加減におし! 毎回同じことを繰り返して、まだわからないのかい!」

 そして大泣きする。

 子どもだからね、すぐ泣くんだけど……。

 泣き方がすごい。広いリビングに響き渡る。

 マリスはロランを連れて出かけて、ステラはため息ついてる。

 大泣きしてる孫を放っておいて、廊下を歩いて部屋に帰った。

「あのままでいいの?」

「あたしが叱りつける役、諭すのがクレアの役目さ」

「なんでマリスに叱られてるの?」

「この家はね、長男だけに継承権があるんだ」

「ちょうなん? けいしょうけん?」

「一番上のお兄ちゃんのことさ。この家の跡継ぎだ」

「えっ? ロランの方がお兄ちゃんなの!?」

 衝撃の事実。

「そうだよ。ロランがマリスの跡を継ぐんだ」

「一番上のお兄ちゃんがいなくなったら?」

「ヴァルターシュタイン家は終わりさ。代々の決まりだ」

「バレルはダメなの」

「ダメ。そういう決まり事をずっと守って、500年続いてきたんだ」

 ちょっと、いい気味だなって思ってしまった。

「長男は家を継ぐから、たくさんのことを勉強しなきゃならない。家業のことや、親戚や他の人たちとのつき合い、これは全部、長男が継ぐからね、下の子は連れて行かない」

「決まりなんだ」

「でないと、揉め事が増えるんだよ。誰が継ぐとか俺だとか、殺しただの刺しただの……うちの歴史書に全部残ってる。こうみえてけっこう物騒なんだよ、この家の歴史は」

「殺しちゃうんだ……」

「弟に襲われたお兄ちゃんが返り討ちにしたのさ」

「罪にならないの?」

「返り討ちは正当防衛、罪にならない」

「じゃあロランは勉強が多くて大変なんだ」

「そうさ。遊びに行くわけじゃない。先様に失礼があってはいけないから、ちゃんと作法を勉強するんだ。……バレルがわからないのも無理はないけどね」

「行ったことがないなら、わからないね」

「そのうちわかるさ、分別がつかないほどバカじゃないだろう」

 そう言って、ステラはものすごく分厚い本を開いて読み始めた。

 ロランがお兄ちゃんだったなんて衝撃。

 すごく頭がよさそうだけど、小柄で線が細い子だよ。

 あの子が魔物と戦うの?

 ものすごく無理があると思うのは僕だけなんだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る