第4話 初めての友達

 ステラの腕に抱かれたまま知らない部屋に連れて行かれた。

 部屋の中で黒いブチがたくさんある白い? 犬が床に伏せて泣いてる。

 バディを解くなら先に言ってくれればいいのにって、すごく嘆いてる。

 ステラは苦笑して言った。

「安心おし、リザ。この子とは仮契約、お前を捨てたりはしないさ」

 伝わったみたいだけど、気のせいか、向けられる視線が痛い。

「リザ、いいかい? この子にはへたに触っちゃダメだよ? 危ないから」

 はっきりと危険物扱いされた。

 僕は爆弾じゃないよ。

「もちろん信用してるさ。長年のバディだからね」

 ちょっと落ち着いたらしい。

『僕はルイ。これからよろしくね』

『リザよ。たぶんもうすぐ引退だから、そこでお別れだけど』

『引退? 家を出るの?』

『引退したバディを全部家に置いたら大変よ』

『増える?』

『寿命が長いバディだと2匹飼わなきゃならないでしょ』

『そうか、ふたり魔術師がいたら4匹になるよね』

『そう。引退した魔獣専用の施設があってね、そこで余生を過ごすわけ』

『いいところ?』

『金額によって待遇が違うけど、この家は魔獣に出し惜しみしないわ』

『みんな優しいもんね』

『そうよ。だから老後の憂いなし。あなたもね』

『僕は仮契約だよ、リザ』

『あたしが引た——ちょっと待ってよ、あなたコールサルトじゃないの?!』

『そう言われてる。でも自分じゃわからない。背中とか見えないもん』

『純黒なら伝説レベルのレアよ。どこから来たのよ』

『んっと……違う世界から。……信じてくれる?』

『その方がリアリティあるわ。同じ世界で生まれたら不平等だもの』

「おや、お前たちもう仲良くなったのかい?」

 そう言ってステラは僕を床に置いた。

 うわあ、並んでみると大きいな、リザ。

 踏まれたら僕なんて潰されそうだ。

『あなた目が青いのね。綺麗」

『リザはすごいね。大きくて強そう』

『あたしはダルメシアン、本来は戦闘魔獣なの』

『戦うの?』

『ええ。でもデビューしてすぐ、ケガで戦闘魔獣はできなくなった』

『でもステラは危ないことしないから大丈夫だね』

『それにあたしは嗅覚がずば抜けてるから、捜し物に向いてるのよ』

 魔獣にも得意分野があるんだ。

『薬草を採りに行ってステラがボアに襲われた時、久しぶりに戦ったわ』

『ボアって大きい?』

『あたしの倍くらい』

『そんなに大きな相手に勝っちゃうんだ。すごいねリザは』

『まあね』

 リザはちょっとすましてる。

 気持ちが落ち着いたみたいだ。

 ステラは小さな椅子に座って、僕たちを見守ってる。

『リザはどんな仕事をしているの?』

『ステラを守る、それが一番』

 即答。誇らしそう。これがバディなんだ。

『そして薬草を探す。珍しい薬草を見つけた時なんて最高よ』

『僕にもできるかな?』

『大丈夫よ、ステラがちゃんと導いてくれるから。彼女は素晴らしい魔術師よ』

『僕は何もわからないけど、頑張ってみる』

『あたしが引退したらステラをよろしくね』

『引退しちゃうの? 寂しいよ』

 リザはちょっと遠くを見るような目をした。

『そうね……本当のこと言うとね、あたしもずいぶん衰えたわ』

 衰えたって、年を取ったっていうこと?

『もうステラを守れないかもしれない』

『そんな弱気なこと言わないでよリザ』

『あなたがちゃんと働けるようになったら、安心して引退できそう』

『僕はもっといろんなことをリザに教えてほしいよ』

『ステラが教えてくれるわ』

『僕がどんな仕事をすればいいのか、一番知ってるのはバディのリザだよ』

 リザは少し驚いた顔をして僕を見て、それから前足で床をとらえて体を起こした。

『仕方ないわね、老骨に鞭を打って教えてあげるわよ』

『ありがとう! 僕頑張るよ!』

『子猫だからって手加減しないから覚悟してね』

 うん、頑張る。

 僕はもう普通の猫じゃない。

 魔獣なんだから。

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