レムリアン王国のアーシファ
ドラから泣いて離れないステーシアを引きずりはがすというサブミッションを乗り越え、四人は城の門の前に立つ。
城門を守っていた兵達は、すぐにその存在を認識し慌てて門を開いてくれた。
王はまだ眠っているかもしれないが謁見の間で待たせてもらおうということになり、四人は王が来るまで跪き続けた。
「これはいったいどうことだ?」
慌てた兵に起こされたらしく、不機嫌に王は現れた。
「お父様、アーシファ、クロイツ、メッカ、ステーシア、以上四名。レムリアン王国に帰国いたしました。同行していた一名、ポッカは旅の途中で命を落としました。」
「チッ、そんなの見ればわかる。我が聞きたいのは、何故帰ってきたかという理由だ。世界が我に従うと納得したか?」
王の舌打ちが響く。
「王様、僕から説明いたします。」
クロイツはここまでの敬意を順番に話した。
アーシファ、クロイツそれぞれが各国を周り、様々な場所で協力関係を結ぶことができたと。
各地での紛争が落ち着いたこと。
今ならば、アーシファを王位継承者とし、クロイツがクリスタルに戻れば、実質の、世界への権限はレムリアンが握ることになることも説明した。
だから、お互いが生きた状態で帰っできたと。
「なるほどな…。」
王は肘掛けに肘をつき、アーシファ、クロイツの顔を見比べた。
「あまり俺には似てないな。」
そう、呟き立ち上がる。
「少し考える。あと、今日は客がくるからクロイツは自宅に戻っていてくれ。二人は兵舎に戻りもとの仕事につけ。」
クロイツは頷き、メッカとステーシアは王に敬礼した。
「アーシファはとりあえず呼び出すまで部屋から出るな。」
「…はい。」
思った通り、軟禁だ。
王が間を出る。
「アーシファ様、失礼いたします。」
一気に兵士モードに戻った二人は、駆け足で兵舎へと向かった。
「アーシファ、絶対に上手くいくって信じよう。二人で信じればパワーは2倍だ。」
「うん。」
「ちょっと間しんどいかもしれないけど、何も気にせずゆっくり休める時だと思っていっぱい寝てね。目の下、クマができてるよ。昨日寂しくなって寝れなかったんでしょ。」
「ちょ、違うもん!」
アーシファは恥ずかしくなって、慌てて顔を隠す。
まったく言われた通りだった。
「アーシファ。…ちょっとの間だし、またね、も、なんかしっくりこないから…。」
クロイツはアーシファに敬礼する。
「行って参ります。」
なにそれ
と、アーシファは笑ってしまったが、
「いってらっしゃい。」
クロイツの目をしっかりと見つめて答えた。
アーシファは、久しぶりにゆっくりと城の中を回りたかったが、絶対そんなことは許されないので真っすぐに自室に戻ることにした。
母親の顔がみたいような気はしたが、今の中途半端な状況ではガッカリさせるとしか思えなかった。
城に使える者達が、アーシファの姿を見つけるたびに、おばけでもみたのかという反応をするのだが、これはちょっと面白かった。
懐かしい自室は、しっかりと掃除がなされていた。
自分がいない間も、誰かが毎日掃除をしていてくれたかと思うとちょっと泣きそうになった。
自分の帰りを待っていてくれた人がいた。
鎧を脱ぎ、久しぶりに寝る時用のドレスを身にまとい、そのままベッドにダイブした。
クロイツに言われた通り、何も考えず寝てしまおうと思った。
やはり自室は安心するのか、すぐに睡魔が襲ってきた。
「と、いうことは、クロイツが言っていたことは紛れもない事実だったのだな…。」
「はい。概ねその通りではありますが、1つだけ違います。」
「なんだ?」
「私達はレムリアン王国、王に従うということです。私達が保有する武器と財源さえあれば、世界の情勢などあっという間にひっくり返せるでしょう。」
「ほう…我に従うというのか。その理由は?鉱石か?」
「いえ、私がいただきたいのは、貴方様が世界の王となった後、統治される一部の領土です。商業の発展の為にそこがほしいのです。もちろん、王に税を払います。」
「お…わ、私は、戦争がしたいから!デス。」
「戦争がしたいと?」
「は、ハイ、私達は武器を作ることで生活をしてる、から、理想主義者の唱える武器が不必要な世界などクソ喰らえ、デス。」
「ほう。」
「世界の王になったあとも、自衛の為に武器は必要となりますから、王が世界をおさめられた後も、彼らは最新武器を作り続けてくれるでしょう。私共がおさめる税より購入なされば良いのです。何も問題はございません。」
「我が戦えなかった理由…その2つが手に入る…か。」
「すぐに武器は届けマス。」
「まずは挟み撃ちにし、ゴールドフィルドを落としましょう。」
「…我はずっと思っていた。一国の主などつまらぬと。城に閉じ込められ、ずっと自由などなかった…。我は何のために産まれてきたのか?」
「…。」
「この世界を楽しむ為に産まれてきたのだ。誰にもその権利がある!我は世界を手に入れたい!歴史に名を残す男になるのだ!」
「さっそく武器の手配をいたします。王のおっしゃる通り。私達には権利があります!その権利を行使するのみです!」
「ただ、その前にお前達にやってもらいたい仕事がある。」
「なんなりと。」
「アーシファを殺せ。」
「!?」
「アーシファ様ー!」
聞き覚えのある声に呼ばれ、意識が現実に戻される。
「あぁ…アーシファ様…よくぞご無事で…。」
誰かが泣いてる。
誰だったかな?
ああ、そうだ。
ずっと私のそばにいてくれた…。
アーシファは目を開ける。
「フローネ、ただいま。」
「アーシファ様ー!」
ずっとアーシファに使えてきた使用人フローネ。
アーシファの帰国を知り、一目散に部屋に駆けてきたらしい。
アーシファ様は必ずお戻りになる、と毎日部屋の掃除を欠かさなかったのはこのフローネだった。
「部屋、フローネでしょ?いつもありがとう。」
「それが私の仕事です。」
フローネはアーシファの手を握り、ずっと泣いている。
アーシファが無事に帰ってきてくれたことが本当に嬉しかったのだ。
「まだ少し寝てたい。」
フローネは慌ててアーシファから手を離す。
「ゆっくりとお休みください、アーシファ様。」
アーシファは手がポカポカとしていて、すぐに二度目の眠りに落ちた。
「ステーシア殿、やはり外でだいぶ鍛えられたな。もうわしでもかなわぬとは。」
新兵を鍛える仕事を任されている古参の兵士は、満足げに口を開いた。
何度挑んでもステーシアの瞬殺だった。
「ありがとうございますっす。メッカ殿に散々鍛えられましたもん。」
「あのメッカ殿に?ははは。そりゃそうだろな。奴は加減を知らないからな。」
談笑の中、ステーシアは城から出てくる不審な人物達の姿が目に入った。
ローブで全身を隠し、顔もわからない。
「ああ、今日の客人らしい。表に顔を出せない者など信用ならんが…。」
客人。
さっき確かに王が客が来ると言っていたが、ステーシアから見ても、怪しい雰囲気を感じさせる二人組だった。
「母さん、俺間違ってないよね?」
クロイツは自宅のリザが使用していたベッドに寝転がり、もう姿のない母親に話しかけた。
もちろん返事はなく、部屋は静まり返っている。
「俺頑張ったんだよ。聞いてくれよ…母さん。」
クロイツも静かに目を閉じた。
一度グッスリ眠りたかった。
戦地の惨状を目にしたあの日から、クロイツは小さな物音でも目を覚ましてしまうくらいの睡眠障害を抱えていた。
自宅なら、ゆっくりと休める気がした。
「アーシファよ、そなたが王位を継ぐと、世界に発信する。」
王の言葉がアーシファには意外だった。
「世界…。」
「ああーアーシファ、よく頑張りました。母は…母は信じていましたよ。」
王の横で立ち尽くしていた王妃だが、王の言葉が耳に入るなり跪いているアーシファを強く抱きしめに走った。
アーシファの王位継承は王妃の宿願だった。
それが叶う。
「世界だ。お前は世界を旅してきただろう?全世界に表明し、1週間後王位継承式を行う。それまで自室でしっかりと王の仕事を覚えろ。」
「はい。」
やはり、しばらく軟禁生活が続くらしい。
アーシファは一番にクロイツに知らせに行きたかったが、部屋を抜け出すしか方法はなさそうだ。
「たくさんの客人を招こう。」
王は不敵な笑みを浮かべていた。
アーシファは脱走の名手だったが、ずっと誰かが入れ替わり立ち替わり部屋にやってくる。
フローネならわかるが、関係のなさそうなコックや兵までアーシファの部屋にやってくる。
勉強にすら集中できない。
話しかけて答えてもくれない。
お気になさらず、の返答ばかり。
明らかに見張られているように感じた。
おかげで寂しくはなかったが、今まであった自由を奪われ、アーシファはストレスを溜めていた。
クロイツはもう帰されたのだろうか。
それとも王位継承式に参加させてもらえるのか。
アスカは無事にハヤブサ族の村についたのだろうか。
そんなことばかり考えてしまうアーシファだった。
アーシファにとって今までで、一番退屈で、一番ストレスがかかり、一番長く感じた1週間が過ぎた。
早朝起床で半分眠り君のアーシファを、たくさんの使用人達が飾り立てていく。
下着から髪からと全部を人任せにしているこの状況。
まるで、自分の誕生祭の時みたいだなと思い、また何かあるのか?と、少し憂鬱な気分になってしまった。
いや、でも、自分がレムリアン初の女王となる日なのだ、しっかりしなくては。
そういえば、たくさんの客人を呼ぶと言っていた。
もしかしたら、クロイツに会えるかもしれないのだ。
メイクの準備に入った時、アーシファが使用人に口を開く。
「今日は目の下のほくろ、隠さないで大丈夫。」
「アーシファ女王の誕生だ!」
ワーッと歓声が響き、拍手が巻き起こる。
レムリアン城、大広間。
アーシファは、王より代々伝わる冠を授かった。
冠を被せてもらい、客人達に目をやる。
知った顔はどこにもいなかった。
むしろ知らない…失礼だが高貴な身分には思えない人達ばかりだった。
街の人達でもない。
「皆様、お食事の用意をさせていただきました。我らはこれより先代達にご報告をしてまいります。しばらく女王は不在となりますが、気にせずパーティーを始めていてください。」
広間にはたくさんの料理とお酒が並べられていた。
「妻よ、そなたまで外しては客人達に失礼であろう。ここで進行をつとめておれ。」
元王妃となったアーシファの母は、少し不服そうに返事をしたが、すぐに笑顔で客人達に声をかけにいった。
さすがである。
「アーシファ、先に王家の墓に向かっていてくれ。我は、部屋に取りに行きたいものがある。すぐに向かう。」
「はい。」
アーシファは、久しぶりの城内に少しワクワクしていたのだが、皆、仕事で忙しいのか、王家の墓までの行き道に誰の姿をみることもかなわなかった。
今までにそんなことは一切なかったのだが…。
先代達の魂が眠る王家の墓は、城の裏手から出た先、高い丘の上に存在する。
墓というよりは、慰霊碑に近いイメージだ。
そこから、広い海が眺められる。
少し坂を上がらなければならないが、アーシファはこの場所が好きだった。
とはいえ、久しぶりのヒールでの坂登りはなかなかに辛いものだった。
墓に上がった頃には、ゼーゼーとだいぶ呼吸が乱れしまった。
"レムリアンよ、永遠なれ"
小さな島にある国。
代々王家はそう願い、生きたのかなとアーシファは心に刻んだ。
アーシファは手を合わせ、自らが王になった報告、初の女王とルールを破ってしまったお詫び、これからどのような女王となるかの宣言、誓い、を心の中で伝える。
波の音だけが響いていた中、急に男の声があがった。
「死ねーっ!!」
パシュッ
と放たれたそれに、アーシファは見覚えがあった。
ボーガン。
アーシファの右胸を貫いたものは、あの日ゴールドフィルドで見たそれだった。
肺をやられ、呼吸もままならないまま刺さった矢から顔をあげる。
「外したか、今度こそ!!」
そこにいたのは、ゲタルと共にクリスタル国の代表者をやっていた二人だった。
なんでこんな所に?
パシュッ
と二撃目を放たれる。
動けないアーシファの心臓を、見事にタオは撃ち抜いた。
「我はたしかに見届けた。」
後方から父の声がする。
何故…?
…。
頭が謎だらけのまま、薄れゆく意識の中、小さな頃から見てきたクロイツの笑顔が走馬灯となり、温かい気持ちでアーシファは息を引き取った…。
行年15歳。
たくさんの再会が叶わぬまま、彼女の未来は奪われた。
ガクッと自分の中から何か抜け出したような感覚がした。
頭がグルグルと回っている。
クロイツは、なんとも言えない初めての感覚に意識も吹き飛びそうになったが、何故か急に痛みだした右胸に意識は戻された。
「クロイツ。大好きだよ。」
そう声がして振り向いたが、そこには誰の姿もなかった。
アーシファは、王位継承式の真っ只中。
アーシファの声などする訳がないのだ。
しかし、あれは間違いないアーシファの声だった。
クロイツは、なんだか嫌な予感がして、痛む右胸に導かれるようにして城へと向かった。
「あらやだ、せっかく編んでくれたミサンガ。切れちゃった…。 」
無事、ハヤブサ族の村にたどり着き、悠々自適な妊婦ライフを送っていたアスカの腕のミサンガが突然切れて地面に落ちた。
「あら、不吉ね。」
一緒についてきたシグレがミサンガを拾う。
「えぇ〜、私はミサンガが切れたら願いが叶うって思いを込めて作ったから大丈夫よ〜。」
アスカにベッタリなオハルが笑う。
「ヤマトヲグナじゃ基本なんでも不吉だから。」
アスカは笑っていたが、ふと何かを感じて頭上を見上げると、木々の隙間から、七色に光る玉のようなものがゆっくりとアスカの元へ降りてきた。
目の前まで降りてきたそれを見つめていると、ふとアーシファの笑顔が頭に浮かんだ。
と、思うと七色の光の玉はスーッとアスカのお腹へと消えていった。
シグレとオハルにもハッキリと見えていた。
「これも…不吉?」
「ううん、これは神のご加護かな。」
お腹に感じる優しいぬくもりにアスカは本気でそう思った。
「クロイツ殿。お元気そうですね。」
街の警備に回されていたメッカと鉢合わせるクロイツ。
「メッカさん。え、メッカさんが街の警備ですか?王直属の親衛隊の方なのに…。」
「おかしな話ですよね。今日はアーシファ女王誕生の日。私達も挨拶と誓いの儀式があるはずなんですが…王に、女王なんて認めない、今すぐ考えなおせ、なんて手紙が届いたらしくて。不審な人間がいたら絶対に逃さないようにって、私が駆り出されているんです。」
メッカは納得いかない顔つきで首をかしげていた。
「メッカさんほどの人だから…というのはわかりる気もしますが…、納得いかないですね。僕もなんだか落ち着かなくて。」
「私と同じ任務についている人がいます。彼です。」
メッカは遠くを指さした。
クロイツは指の先に目をやると、そこにはステーシアの姿があった。
「……。ずっとアーシファのそばにいた二人が城から外されているわけですか…。」
「クロイツ殿もね。クリスタル国の人間として、とか色々理由はつけられたでしょうに…。今日、こちらには女王誕生を祝う客人達も来ているはずなのですが、私はうまくタイミングがあわず、誰一人と見かけておりません。意図的な何かが働いているとしか思えなくて…。」
「…。」
クロイツの生まれが影響して外されたのかと思っていたが、何かがおかしい気がして胸がざわつく。
「メッカ殿ーっ!大変です!」
城の方から一人の兵が慌ててこちらにやってくる。
ズキン
と、クロイツの胸が痛む。
クロイツの存在を懸念し、モジモジしていた兵だが、
「構わない!申せ!」
と、メッカに叱責され、すぐに口を開いた。
「アーシファ様が…女王様が、突然行方不明になられたようです!不審な人物がいないか、さらに警備を強化してほしいとのことです!」
「な…。行方不明?船が出た形跡など無かった!兵団皆で意地でも探し当てろ!」
はい!
と、兵は逃げるように城へと帰っていった。
「アーシファ…。」
やはり、嫌な予感があたった。
「クロイツ殿。しっかり呼吸をなさってください。やっぱり何かがおかしい。アーシファ様が向かいそうな場所、探してきてくださいませんか?」
「わかった!色々回ってきます。」
アーシファ。
女王になることが嫌で逃げ出したとはとても思えない。
もしも、もしも逃げ出したくなっても必ず自分の所には顔を出すはずだ。
そうだ、城から抜け出したなら絶対に自分に会いに来るはず。
やっぱり城からは出ていないんじゃないだろうか?
…。
色々考えは巡ったが、メッカから言われた通り、まずは街でよく二人で会った場所など探してみたが、やはりアーシファの姿を見つけることはできなかった。
城にも行ったが、いくらクロイツ殿でも今は入れられない、と断られた。
胸騒ぎが止まらない中クロイツは自宅に戻った。
アーシファは必ず自分のところに来る。
そう信じて、自宅に戻っては探しに行って…を、何十回と繰り返した。
落ち着いてなどいられなかった。
「先程、城でこのようなモノが見つかりましたが、皆様の中でコレを知っている方はいらっしゃいませんか?」
王は、部屋を兵隊で固め、アーシファの命を奪ったボーガンを手に、大広間で声をあげた。
「あ、それは俺達が作ったボーガンというものです。なかなかに素晴らしい武器なんですよ。」
一人の酔っぱらいが即座に答えた。
「ほう…武器…。」
「いや、開発したのは俺だろが?お前らはライン作業で組み立てているだけだろうが!」
皆、酒に酔っているようだ。
「タオ様の所の人達は本当に品がないですわね。せっかくのお食事が不味くなってしまいますわ。」
ここにいたのは、どうやらクリスタル国の人間達だったようだ。
「そうですか…残念です。先程、コチラも一緒に見つかりましたが…誰か心辺りは?」
王がもう一つ取り出したのは、アーシファの命を奪った2本の血のついた矢であった。
一同、静まり返る。
アーシファ女王失踪の後のことだ。
自分達が疑われているのがわかる。
ただ、今日は絶対武器の持ち込みは禁止と言われて来た。
大事な取引先レムリアンとの約束を破る馬鹿などここにはいない。
「…。仕方ありません。」
王が手を挙げると、周りを囲んでいた兵達が一斉に捉えられていく。
「俺じゃねー!アイツだ!」
「アイツのほうが怪しい!さっき部屋を出ていくとこをみた!」
「私は武器など知りません!関係ありません!」
擦り付け合いが始まった。
人間とはこうも醜くもなれる存在でもある。
「えーい!黙れ!貴様らはどっぷりと癒着関係にあるのだろう!どうせ、吐かぬ!皆を今すぐ処刑しろ!」
「えっ…。」
これには兵達が驚いた。
「今すぐだ!裏の広場に連れて行け!」
ハッ!と、元王の命令に従う者達。
しかし、尋問も無しに他国の者達にそんな事をしてしまって本当にいいのか?疑問に思う兵達も多かった。
「あ…貴方…。」
アーシファの行方の心配、この所業、血塗られた武器…、元王妃はパニック状態だった。
「これは海のそばで見つかった。海に投げられていたら、もう見つけることも難しい。最悪の事態の覚悟はしておけ。」
あぁー…と、崩れ落ちる元王妃。
「よくも…よくも…。」
元王は、彼女を優しく抱きしめる。
ポーズだった。
誰からも見えない彼の口元はにまりと歪んでいた。
夜。
コンコンコン
その音にクロイツは慌てて立ち上がったが、
「失礼します。」
メッカの声だった。
扉を開くと、先程よりも不服そうな顔をしたメッカの姿がそこにあった。
「アーシファ様は今だ見つからず、クロイツ様にもなにかあってはならないと、警備にまいりました。」
メッカは敬礼する。
「そうですか…俺は今、アーシファが来た痕跡がないが家中荒らしてるとこでした。」
「アーシファ様が城を抜け出していたのなら、必ずここにいらっしゃいますよね。…。あれから城に帰れてもいません。ステーシアは引き続き街の警備をさせられてますよ。…いったい城で何があったんだ…。」
クロイツは、メッカにイスに座るように促した。
少しでも休ませてあげたかった。
「俺も城に入れませんでした。」
何かが変だ、と、メッカはしばらく考え込んでいた。
コンコンコン
二人は眠れぬまま、いつのまにか夜明けを迎えていた。
扉のノックに反応し、扉を開けたのはメッカだった。
「メッカさ〜ん…もう俺無理っす…ずっと一晩立ち歩きっぱなしで…しかも一人っすよ…少しここで休ませてください…。」
ステーシアがフラフラになって泣きつきにきた。
「泣き言を言うな!……一人?」
「ずっと一人っすよ…。他の人は呼び出されて城に帰ったのに…。帰ってきたばかりで忘れられてるのかと思って、城に確認にも行ったんす。新兵は外だー!って門兵に追い返されたっすよ…。なんかすごい苛立ってて…。」
メッカとクロイツが目を合わす。
ステーシアを中に招き入れ、水を一杯飲ませてあげるクロイツ。
「やっぱり、意図的に私達が城から離されてる気がします。」
「ですね…。街の護衛が交代もなく、しかも一人だなんて…。」
そう、アーシファが行方不明な今、余計に人数が必要なはずなのだ。
どう考えても理にかなわない。
「クロイツ殿、今は短時間でも一度しっかりと休みましょう。睡眠不足は脳の働きを鈍らせます。少し休んで、もう一度城に向かいましょう。」
クロイツは眠れるはずもなかったが、メッカの指示に従い、ベッドに横たわり目だけはつぶった。
ステーシアは座ったまま即寝していたが、メッカはそのまま起き続けていた。
先に動きがあったのは城の方だった。
ザッザッザッ
と、兵隊達が街を歩いていた。
その音に気づいたメッカは、クロイツに声をかけ家を飛び出した。
メッカの見立てによると、新兵達らしい。
ステーシアだけ何も告げられず何処に向かうというのか?
ステーシアはグーグーと、クロイツの家でいびきをかいてまだ眠っている。
メッカは1団の進行を止め、立場が上の権限を使い、何があったか尋ねた。
新兵達は任務の内容を話していいのかわからず顔を見合せたが正直に話すことにした。
「今から船に乗り、大陸に向かってほしいと言われました。ただ、上陸はせず少し距離をとって、次の指示がくるまで待機していろとのことでした。」
「アーシファ様は見つかったのか?昨日は城内で何があったのだ?」
メッカは情報の要求を続ける。
「女王様はまだ見つかっていないそうです。昨日は城の方はなにやら騒がしかったですが、私達は皆、新兵兵舎で待機するよう命じられていたので、何もわかりません。」
新兵に嘘はなさそうだった。
「では、君達はアーシファ様捜索もしていないのか?」
「はい、女王様が行方不明になられたと知ったのは今朝のことです。この任務は、やはり女王様が行方不明になられたことと何か関係があるのでしょうか?国外の任務なんて初めてのことで…。」
メッカは、不安そうに話す新兵の肩をポンッと叩いた。
「君達は与えられた任務をただこなせばいい。隊長の姿は見えないし、任務も船に揺られてろ、だけだ。ちょっと狭いかもしれないが、バカンスだ!と思えばいい。何も心配するな。」
肩を叩かれた新兵の顔が一気に明るくなるのがわかった。
「はい!ありがとうございました!行ってまいります!」
皆がメッカに敬礼をし再び歩き出した。
メッカも敬礼で見送る。
「大陸…ゴールドフィルドで何かあったのかもしれません!」
話を聞いていたクロイツの胸がザワザワする。
海で待機…威嚇だろうか。
王がいったい何を考えているのか、クロイツには検討もつかなかった。
アーシファはまだ見つかっていない。
「間違いなくアーシファ様がらみですね。ステーシアを叩き起こしましょう。」
二人が走って家に戻ると、ステーシアはすでに起きており、軽い準備体操をしていた。
「おかげさまでよく眠れました。さて、俺何やったらいいっすか?」
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