夜明け前

「4日後ね…じゃあ、それに合わせてあたいも行こうかな。お母さんと喧嘩した理由と寂しくて、で、2つ理由ができるじゃん。」


とのアスカの言葉により、お互いの旅立ちが4日後に決まった。


次の日、アーシファ達はクリスタルであった事をヒコに伝えようとヤマトヲグナに向かって驚いた。


「壁できとる…。」


ステーシアが様変わりしたヤマトヲグナの島を見て驚いた。

ヤマトヲグナから、大陸へ向けての一面に、高い壁が出来上がっていた。

メカニク側からの正面には変わりがない。

海から攻めてくるしかない大陸側の攻撃を防ぐ為の強固な壁。

古き良きのヤマトヲグナらしさは失われてしまったが、国を守る為の選択だった。

村の中にも機械が溢れていた。

ただ面白いのは、ヤマトヲグナらしさを残すために、あえて機械の表面が木で覆われていたりして、和からモダンになったようなイメージになっている。


「空が狭くなったように感じるのは、ちょっと寂しいですけどね。」


ヒコの言葉。


「さて、アーシファ様、わざわざ貴方様自らがご報告に来てくださり、誠にありがとうございました。」


ヒコが座り直し、姿勢を整え、三人におじぎをした。


「まだしばらくは警戒していようと思いますが、アーシファ様がレムリアン王国の王位を継承されれば、私達は安心して暮らすことができるようになります。…アスカは寂しがるでしょうけどね。でも、また公務を理由にいつでも遊びに来てくださいね。本当に色々とお世話になりました。ありがとうございました。」


「こちらこそ、大変お世話になりました。アスカと出会ってからたくさんの思い出をいただきました。かの有名なヤマトヲグナにこうやって連れてきてもらえて…たくさんの人達と出会えて…。」


話してる途中で泣きそうになる。

アーシファはフルフルと頭をふり、立ち上がり、レムリアン流の最敬礼でヒコに敬意を表した。


「ありがとうございました。また遊びに来ます。これからの世界について、たくさんご相談させてください。」


メッカとステーシアも立ち上がり、ヒコに向けて最敬礼をする。


「体調不良のアスカによろしくお伝えください。」


最後の言葉は少し胸がチクッといたんだ。



「そうですか…4日後に…。」


ヤマトヲグナの大壁の最終チェックをしていたトルクにも、最後の挨拶と作戦の決行日を伝えた。


「アーシファ様、レムリアン王国に戻られてもいつでもメカニクに遊びに来てくださいね。私達はいつでも大歓迎です。…鎧作り、楽しかったです。また何か技術が必要な時は、いつでもご用命ください。アーシファ様の為なら皆でかけつけますから。」


「トルクさん、色々ありがとうございました。私、メカニクの人達大好きです。…アスカのこと、どうかよろしくお願いいたします。」 


こちらでも、三人でレムリアン流の最敬礼でトルクに敬意を表した。

トルクも深くおじぎし返す。


もう必要が無くなったかもしれないけど、自分はまだ最後まで仕事をやりきってから帰る

と、トルクとはその場で別れた。


皆とのしばらくのお別れだ。



三人がメカニクに戻ると、安定期に入り食欲復活したアスカが、宴の準備に参加していた。

今日はまた新しい研究の発表があるらしい。

それに向けて女性陣は料理に大忙しなようだ。

シグレも楽しそうに駆け回ってる。

3人も手伝いをしようとなり、ワイワイと皆で宴の準備をする。

きっと最後の宴になる。

トルクは不在だが、思いっきり楽しもうと4人は語り合いながら、ときにステーシアとアスカの味付け争いになりながら…すでに宴が始まっているみたいに楽しい時間だった。  


あっという間に夜となり、研究発表は後で、とのことで、先に宴が始められていた。




ドーンッ

ドーンッ

ヒュー


海の方からの突然の爆発音のような音に、宴を楽しむ一同は動揺し音の方角に目をやる。


バーン

パラパラパラ

バーン

パラパラパラ


夜空に咲く大輪の二輪の花。

ゆっくりと花びらが落ちていく。


うわぁ、と皆が声をもらすほどの美しい花だった。


ドーンッ


また音が辺りに響く。


バーン

キラキラキラ


次は夜空に氷の花が咲いた。

キラキラと雪のように舞い散る。


「綺麗…。」


音は怖いが、夜空にあがるそれは、とても幻想的だった。


「あれは…センゾウ様の…。」


しばらくすると、ドラ夫妻とセンゾウが街の中に現れた。


「見たか!これがワシらの集合傑作よ!」


ドラと肩を組んだセンゾウが得意げに声をあげると、ワーッと皆が拍手を送った。

本当に素晴らしい傑作品だった、とあちこちから称賛を受けている。


「ビックリしたけど、本当に本当に綺麗だった。私、さっきの夜空も絶対一生忘れられないよ…。」


昨日の夕日に続き、美しい世界をまた見せてもらえたことに、旅に出させてもらえて良かった、と、アーシファはやっと思えた。


「赤ちゃんビックリしちゃって、大暴れだけどね。本当に最高の景色だったわ。」


アスカは動き回るお腹を優しくさする。

アーシファもアスカのお腹に触らせてもらうと、たしかにウネウネと動き回る存在がそこにあった。


「あはは!パニックだ。中で嵐が起きてるみたい。大丈夫。もう大丈夫だよ。」


アーシファが優しく声をかける。


「まさにそれね。」


アスカも笑った。


「アスカ…魚も食べなさい。今日はヤマトヲグナの料理を作らせてもらったから。」


シグレが、皿に持った煮魚をアスカに差し出した。

久しぶりの母の料理だった。


「俺も食べたい!シグレさんの作るおつまみ、まじ美味かったっす!」


ステーシアが割り込んできた。


「赤子の栄養を奪うな。あっちにあるから自分でとってこい。」


メッカがステーシアの首根っこをつかむ。

今日は珍しく、メッカのお酒が進んでいた。


「アスカ様!2人分の飯を食いなされ!赤子が丈夫に育たんぞ!」


ご機嫌なセンゾウが、遠くで叫んでる。

好きだった人の孫の子は、自分の孫みたいなもんだ!と、急にアスカの世話をやくようになっていた。

いつのまにかドラ夫妻ともすっかり溶け込んでいて、まさか魔法と科学をMIXした作品を作っているまでになっているとは。


「アーシファ…あたい、あんたと出会ってから、たくさんの人達の優しさに触れられたのよ。あんたのおかげで、あたい今、本当に幸せ。…ありがとね。」 


アーシファは、アスカのお腹にハグをした。

子ども共々抱きしめたかったからだ。


「私も。アスカのこと、勝手にお姉ちゃんみたいに思ってた。いつも甘えてばっかりでごめんね。アスカに出会えて良かった…。ありがとう。アスカ大好き。…赤ちゃん、お母さんを…守ってあげてね。」  


アスカはしがみつくアーシファの頭を撫でる。


「おっきな赤ちゃんがいるわ。」


「アスカの子どもか…色々苦労しそうだけど、きっと毎日刺激あふれて楽しいだろうな。」


「なんで苦労すんのよ。」


二人は笑い合う。


「一つだけ気になってこと、聞いてい?」


うん、と、アーシファが頷く。


「彼のこと…どうしても離れっぱなしになっちゃうじゃない…。いいの?」


「うん、遠くにいても一緒に頑張っていけるから。この先次に王位を渡して、クロイツも誰かにクリスタルを任せられたら…その時にまだクロイツが私を好きでいてくれたら…二人でメカニクファミリーに入れてもらおうかな。」


「親離れする気ないじゃん。」


姉妹設定がいつのまにか親子設定になってしまった。


「そっか…王位…ずっと血筋を守ってきたからの王家なんだよね…。私、子ども生む気ないよ。」


「……そうよね。」


アーシファを撫でる手が止まる。


「アーシファが女王になるんだから、アーシファが新しいルール作ったっていいのよ。ヤマトヲグナも大革命中よ。」


「…そっか、そうだよね。…レムリアンに産まれて良かったって国にしたいな…。」


「やっちゃいな。」


うん、と、アーシファが頷き、アスカから離れ、盛り上がる広場に目をやる。

メカニク、ヤマトヲグナ、レムリアンの人間達が、ただ笑っている。

男性も女性も子ども達も。


「うん、私頑張るよ。」


アーシファは、この平和な世界を絶対守り通したいと思った。






「クロイツ、なんとか協力者を募れて、お前の仲間達で帰りたいヤツは帰れるようにできそうだ!」


「ありがとうございます、ゲタルさん!本当に心配な人達が何人もいたから…良かった。」


二人は、久しぶりに初めて出会った酒場でお酒を楽しんでいた。

前もって店側には伝えていたので、酒場の客席にまでクロイツ用のお酒が控えていた。


「何とかお前が一度旅立つ前に、心配事の一つを消せて良かった。」


グイッとビールをあおるゲタル。

ありがとうございます、と温燗を燗ごといくクロイツ。

すぐにおかわりが用意される。


「せっかくだから、しばらくゆっくりして来いよ、里帰り。こっちはその間くらいなんとかするからさ。幸いヤツらに大きな動きはないし。」


「んー…どうでしょうね。王…あぁ、王妃がそれは許さないような気がします。国は追放されると思います。」


「そうか…。レムリアンの王達とは俺は合わないだろうから、お前がいてくれなきゃ今頃ドンパチしていたかもな。」


たしかに、と笑うクロイツ。


「色んなもん背負わしちまって悪かった…。俺達大人が不甲斐ないせいで…。」


「初めてここで飲んだ日覚えてますか?俺、途中でゲタルさんに気づいて内心ビクビクだったんですよ。」


ゲタルが、ははっ、と笑う。


「でも、あの時ここに足を踏み入れて…ゲタルさんに出会えて本当に良かったと思っています。いつも、ありがとうございます。ゲタルさん。」


「こっちのセリフじゃ。俺もお前に出会えて本当に良かった。色んなことをお前から教わったよ。」


トントントン


と、何人かが階段を降りてくる音が聞こえた。


「あ!いたいた、ゲタルさん!今日は僕達も付き合わせてください!って、なにこの量の酒。」


現れたのは、街の若い衆だった。

最近はゲタルと一緒に飲みたがって酒場にやってくるそうだ。


「商売繁盛で大満足です。」


店主は笑顔でお酒を用意する。


「え、クロイツさん…澗のまま飲むんすか?」


「こいつとだけは張り合うな?ぜってー勝てないから。」


「お!今夜は飲み明かしますか!」


いいね〜

と喜ぶ若い衆。


「本当に…貴方のおかげです。クロイツ様。ゲタルのあんな幸せそうな顔、久しぶりに見ました。貴方が彼を支えてくれたからですよ。」


店主が、クロイツに耳打ちしたが、いやいや、とクロイツは首をふった。


「俺がたくさん助けられました。」


「クロイツ!お前気にせず飲めよ!今日はとことんやるぞ!」


おおーっ

と、一同が乾杯をする。


「明日はいつもより静かなゴールドフィルドになりますね。」


「ですね。」


クロイツも笑って一同と乾杯しにいった。


ずっと願っていた日がきたな…。

店主は、そう思いながらはしゃぐゲタルを眺めていた。





3日間。

それは、あっという間に過ぎた。


4日目夜明け前。


「ちょっとちょっと、何挨拶もしないで行こうとしてんのよ。」


船を出そうとしたタイミングで、薄着の妊婦が早歩きで船着き場にやってきた。


「どうせまた会えるし、いいかなって。」


アーシファが笑顔で答える。


「も〜薄情なんだから。あたいは、ちゃんと見送りたかったの。」


ごめんごめん、と、アーシファは返す。


「これから、きっと色々なことがアーシファの身に起こるかもしれないけど、あたいは、ず〜っとあんたの味方だからね。それだけは忘れないで。」


「うん。ありがとう。アスカも。赤ちゃん、絶対に会いに行くからね。国抜け出してでも行くから。」


二人の兵士は苦笑いをしている。

正直困る。


「名残惜しくなるから行くね。大好きだよ!アスカ!」


本日はドラがエンジンをかける。


「あたいも、愛してるわ!アーシファ!」


船はブオンと音をならし海を走り出す。

瞬く間に陸から距離ができていく。


お互い見えなくなるまで手を振り続けた。

ずっとずっと振り続けた。


船はヤマトヲグナを横目に進む。


「帰ったら一番にポッカを海に還してあげよう。」


「え、いや、先に王のもとに参りましょう。そちらが優先です。私達はただの兵士。」


「私も一緒にお別れしたいの。お父様のもとに先に行ったら、絶対城から出れなくなるから…。」


「……ありがとうございます。ありがたきお言葉です。」


ステーシアは日の出の瞬間を見逃さないチャレンジ中で、東の空とにらめっこしている。

燃えるように一部だけが赤く染まっていく。


「あ!きた!日の出っすよ!!」


朝から元気いっぱいなステーシア。

ただ、本当は寂しさを紛らわすためにはしゃいだふりをしていた。


西の空にはまだ星が輝いている。

アーシファは、なんだか自分が世界のちょうど真ん中にいる気がして不思議だった。




船がゴールドフィルドの港につく。

そこにはすでにクロイツの姿があった。

クロイツもまた、何も言わずに出てきたらしく、一人だった。


再びの出向。

ついにレムリアン王国へ。


クロイツは船の機能とスピードにビックリして、あちこち調べ周っては、

すげー

と、声をあげていた。

ステーシアが得意げに色々と説明してもまた、

すげー

と、感心していた。


二人の緊張感のないまま、レムリアンが近づいてくる。


懐かしの故郷の姿にメッカは敬礼した。

アーシファは帰ってこれたのが嘘みたいに感じていた。

あの日、突然城から追い出されたあの日。

城の姿はもう見れないかもしれないと、どこかで思っていた。


もう少しで港につくという手前で、メッカはポッカが眠る木箱を海に流した。


「ポッカが、アーシファ様に気を使わせるな!と怒る声が聞こえました。もう、ここでいいと。」


メッカが静かに手を合わせる。

アーシファもまた手を合わせ、心の中でポッカに語りかけた。

たくさんのお礼と誓い。

絶対にレムリアンの民達の平穏な暮らしを守りぬくと…。

ステーシアとクロイツも手を合わせる。


「アーシファ様が只今戻られましたぞー!」


ポッカの声。

皆、ハッとなり顔を見合せた。

その声は皆の耳に確実に聞こえていた。


「ただいま。…そして、おかえりなさい、ポッカ。」


アーシファが呟いた。

メッカは一気に目頭が熱くなったが、ここからが正念場なんだと自分に活を入れた。

 

「アーシファ、ちょっとでいいから手を握ってほしい。」


クロイツがアーシファに手を伸ばす。


「あったかい。」


アーシファがその手をギュッと握る。


「いよいよだね。」


「うん。」



船を港につけ、上陸の最初の一歩をアーシファとクロイツで踏み出した。

懐かしい香りがする。

白い花の美しい国レムリアン王国。


アーシファの最後の戦いが始まる…。





































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