終わりと始まり

落とした拠点の防衛戦が続くクロイツ達。

ウィンダム王家にも侵略されたことが商人から伝わったらしく、朝も夜もやってくるウィンダムの軍。

ウィンダム国の領土は広く、各地から軍人の動員をしているようだ。

だが、頻繁に届けられる大砲の玉により、こちらの戦力は一向に削られることなく、鳥人達を吹き飛ばしていく。

毎回殲滅している為、王家にまだ大砲の存在は伝わっていないようだった。

柵を利用して、大砲の姿をうまく隠している。

前半、後半と2部に別れての戦闘となり、比較的に体力の回復は容易にできたが、皆の心は荒んでいく一方だった。

毎日毎日、大量の鳥人達を殺害し、外は危険な為、埋葬もせずにほったらかし。

知らない土地で慣れない長期の生活。

美味しくもない戦時用飯。

不潔な不浄なままの体。

狭い檻に閉じ込められ、隔離生活をさせられているような気がして、何人かは急に叫び声をあげたりした。

精神を酷く侵されていた。

いつまで続くのかわからないライン作業をいったいどれくらい続けたのだろうか?


ある夜、ついにウィンダム王家を守る本体の軍が現れた。

王家の人間も後方に控えているようだったが、もうさほど多くも感じられない数の軍隊で、いつものように大砲を発射する。

その時はもう誰の心も動かず、ただの作業と化していた。

クロイツは休息をとっていたが、最後の戦いになると期待し、早々の終幕を望みながら街の入り口から敵を覗いていた。


一気に爆散する敵達。


「お願いだ。もう諦めて帰ってくれ。」


王家の人間に、勝ち目はないと判断してほしかった。

が、残った軍隊が引き続き進軍してくる。

すぐに二発目の装填に入る。


「なんと卑怯で卑劣な武器であるか!自らの力で戦うこともせず、多くの同族を殺したな!!」


大きく叫んだのは王のようだった。


「卑怯もなにも、やらなきゃやられるんだから。はやく終わらせられる武器があって良いってもんでしょ。こっちは誰も死なないし。」


ピースは平然と二撃目を撃った。

軍隊の半分以上がすでに吹き飛んでいる。

すでに勝負は決まっていた。


王が兵を止める。


「まだ出てこない所を見るに、まだ爆破物の在庫はありそうだ。ここまでだ。」


王は負けを認めることにする。

持ってきていた紙に自らの国の負けを認める一文、これからについてちゃんと対話で決めたい、とペンを走らせ、調印する。

すると、兵の武器は降ろされ、王自らがゆっくりと歩み寄ってきた。


「撃つ?」


ピースが、クロイツの指示を仰ぐ。

いや、

と、クロイツは首をふり、自らもまた街を出て、王のもとに歩み寄る。

敵に動きが見られたら、俺を巻き込んでも撃て。

そう指示されたピースは、軍から目を離さなかった。

街中がしんと静まり返る。


ついに王とクロイツは相成った。


「なんと…貴様がこの軍を率いてきたのか?なんて幼い顔だ…。」


王は、クロイツがまだ少年だということに気づき、驚きを隠せずにいた。

クロイツは黙って王に厳しい視線をぶつけている。


「こんな若者を第一線に配置した上に、あの爆発物。なんとも卑怯で卑劣な者達が国を治めているのだな…。とはいえ、貴様が指揮をしてきたのだろう?たくさんの同族が撃たれた恨み…忘れないぞ。」


といい、敗北宣言に王の印が入ったウィンダム国正式文書をクロイツに手渡した。


卑怯で卑劣。

恨み。


その言葉だけが、クロイツの頭に響いた。

クロイツの脳は、

いきなり小さな街を襲い、女、子どもまで皆殺しにしたヤツが何を偉そうに言うのか?

恨み?こちらにも強い狂気を抱いた人間はいる。

と、王への反論を巡らせていた。

心はまた、重苦しいなんともいえない感覚に襲われていた。


クロイツは文書を開き、中身を確認した。

戦争が終わる…。

一気に魂まで抜けそうな感覚になったが、まだ敵前である。

隙を見せるわけにはいかない。

クロイツは一礼をして、一歩後ろに下がる。

自らから背中を見せたくなかった。

それを察した王は、直ぐ様軍を国に引かせる指示を出した。


「大したガキだな…。お前の行き先は地獄だ。せいぜい今を楽しむが良い。」


そう口にし、王もまた軍と共に城に帰っていった。

クロイツは、しばらくそれを見届けた後、スーッと深呼吸をした。

敵の死臭が混じった空気だが、街の中にいた時よりも深く呼吸ができるような気がした。

バッ 

と振り返り、クロイツが走り出した。


「戦争が終わったー!!」


叫びながら街に戻った。

うおーっと、街からも声があがる。

やっと、やっと解放されるのだ。

この張り詰めた緊張状態から。

人と人との殺し合いから。


とはいえ、まずはこの調印書を届け、この街をどうしたら良いのか指示を仰がなければならなかった。

戦争が終わったのだからウィンダムに返せばいいのかもしれないが、この地が交渉の鍵になる可能性がある為、すぐに皆が帰る理由にはいかなかった。


心の疲弊が強い何名かに頼もうかと思ったが、これはクロイツ様があげた戦火なんだから、と、皆がクロイツに届けてほしいと口にする。

ピースもまた、その案に賛成だった。


「色々思うとこもあったでしょ。クロイツが直接話してくるべきだと思うよ。」


たしかに、この戦場での実情を、ゲタル達にきちんと伝えたいとは考えていた。

もしも皆に何かあったら…と、不安はあったが、まだ玉はあるし、しばらく持ちこたえるくらい自分達でなんとかする、とクロイツを安心させる言葉をかけてくれる皆。

すっかり鬱状態な人間達は動くこともできない。

はやく、ここから皆を解放したい。

クロイツはその任を受け、なるべく走ってゲタルの元へと急いだ。

時に左腕が傷んだが、今ははやくこの調印書をゲタル達に届けたい。

皆を解放したい。

その気力だけで、不眠不休で走り続けた。

が、ゲタルのいる港町は大陸の端の端である。

途中でぶっ倒れる理由にもいかないと考えたクロイツは、近くの街の荷馬車に乗せてもらえるように頼もうと思い、とにかく街を目指して走った。

しかし、ずっと緊張状態だったものから一度解放感を味わい、覚醒状態から抜け出してしまっており、すぐに息もあがってきた。

街まではまだ距離がある。

一歩、また一歩を歩みを進めるクロイツ。

とにかく前に進まなければと必死だったが、ついに平原の中倒れ込んでしまう。

はぁはぁと荒い呼吸を繰り返す。

目が霞んでくる。

はやく行かなきゃいけないのに…。


「あら、あんたどっかで…って!アーシファの!?」


アーシファ。

その言葉にハッとし、起き上がるクロイツ。

頭がくらぁっとなる。

ちょっと大丈夫?

と、女が体を支えようとした。

が、お腹に力をいれる訳にはいかず、クロイツはバタッと倒れてしまった。


「アーシファ…。」


クロイツは呟くが、こちらの声の反応はない。

意識があるようで…ないのかもしれない。


アスカはクロイツが握っていた手紙を拝借して読んだ。

ついに終戦。

次はヤマトヲグナが狙われる…。

これが届くなるのが遅れれば、まだ時間が稼げるかもしれない。

アスカは一瞬そう考えたが、


「なぁに?アーシファのダーリンがこんなに必死に届けてるのに、それを無下にするお母さんなんてダメだって?」


アスカは、膨らみが目立ってきたお腹をさすりながら、赤ちゃんと対話をしているようだった。

ドンッと、力強く動くアスカの赤ちゃん。

そうよね。

と、アスカはクロイツの腕を握り、一気にテレポートする。

行き先はあの因縁のゲタルの街へ。




記憶が強すぎたのか、一気にゲタルの家までテレポートしてしまったアスカ。

ゲタルが、うわあ!と声をあげ腰を抜かしてしまった。


「あ〜ら、お久しぶりですこと。」


アスカは笑って誤魔化す。

すぐにテレポートを再開しようとしたが、ゲタルがクロイツの姿をみて、血相をかえて走り込んでくるので、それにビックリして魔法を止めてしまった。


ゲタルは、クロイツの手に握られている紙に気が付き、すぐに開いた。

ウィンダムのサイン。

これを必死に届けようとしたクロイツの姿が容易に想像できた。


「もしかして…助けてくれたのか?」


ゲタルの言葉にもビックリした。

クロイツを本当に心配している姿があの時の印象と全然違った。


「あぁ…まあ?でも、あたいがここに来たことは内緒にしててね。後はよろしく。」


ヒュン

と、アスカは一瞬にして姿を消した。


「ヤマトヲグナの…。」


「アーシファ…。」


!?

クロイツ!おい、クロイツ!と、ゲタルはクロイツの名を呼びながら頬を叩いた。

唇がガピガピに乾いている。

慌てて水を取りに行くゲタル。

とにかくクロイツの無事を確認したかった。

水を少しだけ口に含ませる。

喉を詰まらせるのが怖かったが、水分をいれないままでは身が危ないと思った。


反応はない。


ゲタルが慌てて外に助けを求めに行った。

街人達は、あまりに珍しいゲタルの必死に助けを求める姿に、何事か?と、ゲタルの元に集まった。

ゲタルが事情を説明すると、色々助けてくれたクロイツへの恩返しに!と、皆がそれぞれに出来る行動をとり始めた。

女性陣の応急処置技術の高さ、素早さに、ゲタルはひどく感心した。

自分は本当に街の人達をよく知らないんだなと思った。

男性陣はたくさんの水を運んできてくれたり、力仕事を担当してくれていた。

ゲタルは部屋にいては邪魔になるなと判断し、家の外に出た。

家の外では子ども達が、クロイツの回復を祈っていた。

この街の人々は…なんて素晴らしいんだろう。

ゲタルは初めて街の子ども達の頭を撫でた。

ゲタルに撫でられ、子ども達は皆目を丸くした。

子ども達ですら、ゲタルの存在は恐ろしいものだと認識していたのだった。

ゲタルは自分が小さな頃、ずっと空腹に悩まされていたことを思い出し、家のクロイツが寝ている部屋とは別の部屋に置いていたおつまみ用のお菓子を持ってきて子ども達に配った。

子ども達はどうしたらいいのか戸惑っている様子だった。


「一緒に食おう。」


ゲタルはまずは自分が食べてみせた。

すると子ども達が順々に口にする。

おつまみ用の濃い味付けだったが、子ども達は

美味しい!と言って、次々とゲタルにおかわりをねだった。


「帰って母ちゃんの飯もちゃんと食うんだぞ。」


子ども達が、うん!と幸せそうな笑みを浮かべ、美味しいねと、仲良くお菓子を分け合っていた。

過去の自分が救われたような不思議な感覚がした。


「ゲタル様、クロイツ様が意識を取り戻しましたよ!」


処置をしてくれていた女性が飛び出てきて、まあ!と驚いた。

ゲタルと子ども達が楽しそうにしている姿に驚き、ついつい声が出てしまった。


ゲタルはすぐにクロイツの元に向かう。


「貴方達、いったいどうしたの?」


「ゲタル様が一緒に食べよってくれたんだよ!」


子ども達が笑顔で答える。

クロイツが現れてからのゲタルは確実に変わっていた。

それを街人達も少しずつ受け入れ始めていた。


「クロイツ!!」


ゲタルが慌てて飛び込んできて、街人達はワラワラと部屋を後にする。


「ゲタルさん…書面が…。」


「ああ、見た。しっかりと受け取ったから、安心して休め。ありがとう。無事に戻ってきてくれてありがとう…。」


ゲタルはクロイツの声を聞いて泣き崩れてしまった。

本当に本当に無事で帰ってきてくれて安心した。


部屋の外からその姿を見ていた数名が、お互いに顔を見合わせる。

ゲタルのそんな姿を見たのは初めてのことだった。


卑怯で卑劣。

その言葉をクロイツは思い出したが、自分の為に涙を流してくれているゲタル、普段クロイツが関わってきたゲタルがそんな人間にはどうしても思えなかった。

書面は無事に届いた。

クロイツは久しぶりに心底安心して眠れるな、と目を閉じた。

数秒ですぐに意識は失われた。





クロイツが目を覚ます。

やけに体は重だるいが、頭はスッキリとしていて、しっかりと休めたように感じた。

窓から外を見ると、どうやら昼間らしかった。

うわっ!

急に覗き込む子ども達の顔が見えた。

皆ずっと心配していたらしい。

クロイツはあれから3日間目を覚まさなかったのだ。


「ゲタル様呼んでこなきゃ!」


子ども達の声がする。

ゲタルは外にいるらしい。

重い体をベッドから引き剥がし、クロイツは皆が話し合いをしていたあの部屋への扉を開く。

家に誰の気配もなかったが、すぐそばのキッチンに

メモが置いていた。

"起きたら食え"

ゲタルの書いた文字のその横の鍋には、たくさんの野菜を煮込んだスープが置いてあった。

ゲタルは3日間、毎日同じメニューを作り続けていた。

栄養について街人から話を聞き、このメニューが良いんじゃないか?とレシピをいただいた。

ゲタルはすっかり街人達とコミュニケーションが取れるようになっていた。


「クロイツ!」


ガタン


と、慌ただしく扉が開かれる。

ゲタルだ。


「子どもらがお前が起きたって言ってたからよ。

まぁまだ無理に起きるな。せめて座れ。俺がやるから。」


クロイツが当たり前に起きている姿に一安心するゲタル。

3日間。

このまま目を覚さないんじゃないかって不安に思わなかったわけじゃない。

左腕の傷もまだ塞がりきっておらず、バイキンが入って頭にまわったんじゃないか、戦場で何かあったんじゃないか…。

まるで自分の家族のように心配していた。


スープを、

うまい、うまい。

と食べるクロイツをみて一気に涙が溢れてきた。

やっと…やっと目を覚ました。


「すまん。すまんかった…。お前を戦場なんかに送って…。」


夢中にスープを食べていたクロイツは、ゲタルが話し出すまで彼が泣いていることにまったく気づかなかった。

…。

クロイツは、スープを置く。


「何があったか、どういう状況だったか…戦争の現場について、すべて聞いてくださいますか?」


クロイツはもう一つの役目を思い出した。

現場にいない人間達に、戦争の悲惨さを伝えること。


「ばか!まず食え。3日分の栄養を補給しろ。…今日、またここで会談を開く。その時に、他の代表者共と一緒に聞かせてくるか?」


こくっ、と、クロイツは頷き、スープをモリモリ口に運んだ。

久しぶりの手料理は、今まで食べてきた食事の中でも一番美味しく感じられた。


「そういやな、お前をヤマトヲグナの女が運んできてくれたんだよ。」


「まさか!アーシファも共にいましたか!?」


クロイツは、アーシファと共にいた女しかヤマトヲグナの人間を知らなかったので、もしかして?と食い気味に尋ねた。


「いや…一人だったよ。……!あ、内緒だって言ってたか。…まあいいか。たぶんお前も知っているその女がお前をここまで運んでくれたんだ。あの魔法で。あ!しまった!家の修理代請求すりゃ良かった。」


すっかり修復されたゲタルの家をめちゃくちゃにしたのは、たしかにアスカ本人だった。


アーシファのそばに…今、あの女性はいないのか?

それとも、たまたま別行動だったのか?

急にアーシファのことが心配になった。

なんだか右腕がズキズキする。

自分はいくらでも危険な目にあってもいいから、アーシファだけは無事にいさせてほしい…。

クロイツは心から願った。




しばらくすると、他の街の代表者二人が現れた。

喧嘩っ早い一人は、戦争に勝てたことに上機嫌で、よくやった、よくやった!

と、クロイツの左腕を軽くはたく。

痛い。

もう一人は、何やら不安そうにオドオドしていた。

クロイツの無事(?)な姿をみて、ひとまずの安心はしたものの、これからどうなるのかわからない状況に焦っているようにも見えた。


ゲタルが進行する。

あれから、ウィンダムとの交渉で、あの街だけは寄こせと伝えていたらしい。

あの場所に特に何かがあるわけではないが、1つでも侵略していることで、力関係をハッキリさせたいとの事らしい。

クロイツにしてみれば、あの死体だらけの瓦礫だらけの街を何とかするのがまず大変だ…と思ったが、とにかく今の状況を黙って聞いていた。

それ以外に、クリスタルが何処かと戦時状態になった際は兵をよこせと。

ほぼ戦力を失ったけどな、ウィンダム。

と、思うクロイツ。

停戦の為の条件はその2つらしい。

まだその返答はないが、まぁ飲むだろうというのが三人の考えだった。

たしかに、あまり痛手にはならないだろうから、自分でもOKするな、と、クロイツは考える。

後で、出せる兵士が少ないことをゴネられても、それだけの兵士が死んだのだと言えば済む話で、全員出す必要もない。

穴はある。

奪った街にどんな人間を住まわせるかの話になったので、クロイツは手をあげ、発言権を求めた。

現在の街がどのような状態かしっかりそこは理解してもらわなければならない。

大砲の威力によって破壊された街の惨状、残った者達の疲弊具合、まずはそれから説明した。

自国の小さな街だって何とか復興させたい。


「さすが大砲だな。うちの人間達に開発させたのはこの俺だ。この功績は俺のものみたいなもんだな。はは。」


好戦的な代表者の街は、武器の開発に力をいれた街だった。

ボーガンもこの国が作った。

街の復興は大変だよと伝えたかったのだが、大砲の戦果に大満足のようだ。


「なるほど…。大変だったのですね…。それはまたお金が掛かりそうな話ですな。武器作りにかなりのお金が使われているので、あまり財源が…。ウィンダムから資源の要求を付け加えてほしいです。ゲタル殿。」


オドオド代表者は会計を担当しているようだ。

彼の街は、古くから金が多くとれる場所にある。

国の中で一番裕福な街と言えよう。


「あまりに締め付けた外交策をとられては、ウィンダムがどのような行動にでるかわかりませんよ。僕は王と直接話をしましたが、彼の目は決して死んでいませんでした。…あと、恨みは忘れないと…。だから、あまり刺激するのはどうかと…。」


資源の要求にはクロイツが反対だった。


「とはいえねぇ…民を動かすにもお金は必要なのですよ。」


「大砲のおかげで、ボーガンの必要性は少なくなりました。武器作りに回しているお金を使うのは…。」


「クロイツ殿、我が街が眠らず働き続けているから今回の勝利もあったんですぞ?まだまだ新武器も開発したい。我らへの報酬が減るのは断固反対だ。今、街に残っているもの達にやらせていればよかろう。」


その言葉にクロイツはカチンときた。

今回戦い抜いた皆の状況を、一人一人伝える勢いでクロイツは話し始めた。

彼らには充分な報酬と休息が必要だ!

と、叫ぶ。


「クロイツ殿はご存知ないかもしれませんが、その方達にはすでに報酬を与えています。まあ、それ目的に子を売るような人間もいたかもしれませんが。」


お金で釣った動員法。

たしかに一般市民に、いきなり戦場に行け!と言った所で反感を買うのはわかるが…。


「そうかもしれませんが戦争に勝ったのは彼らのおかげです!」


「なら、あの街を与えようではないか。なぁ?」


好戦的男は、オドオド男に返事を促す。


「そうですね。国境の街と合わせてそちらに住んでいただきましょう。いきなり一軒家持ちとなれますね。そのためのもう一仕事として、街を綺麗にしていただくとしましょうか。今まで通り、物資は必ず届けましょう。」


「今まで通り?それは、これからも戦場飯を食えってことか!?」


クロイツは突っかかってしまった。

自分達は何も痛手を負いたくないという、その姿勢に腹が立って仕方なかった。

誰も逃げ出すことなく一緒に戦ってくれていた。

荒んでいく心で暴れたりもせず…クロイツの指示をずっと守ってくれていた。

ピースの顔が浮かぶ。

たしかに彼には帰る家もないのかもしれないが…。

でも彼らは奴隷でもなんでもないのだ。

てめぇらと同じ人間なんだよって叫びたくなった。

こいつらは何もわかってない。

わかろうともしない。

グーッとドス黒い感情が渦巻いてくる。


「クロイツ、クロイツの仲間達のことは俺が絶対なんとかする。だから一旦落ち着け。」


ゲタルも二人には呆れ顔だった。


「おっしゃいましたね、ゲタル殿。では、街のことはゲタル殿にお任せいたします。」


「お前の権限で俺んとこの報酬抜くなよ、ゲタル。」


あぁ、と、ゲタルは溜め息と言葉を吐いた。


次に議題にあがったのはヤマトヲグナの件だった。


「さて、次はヤマトヲグナだな。」


待ってましたと、ばかりな男。


「待て。」


議題が変わって早々にゲタルが静止する。


「さっきの話で、戦ってくれた部隊の人間達は街の再建に回すってなったはずだぜ。攻め手がいねぇ。このまま停戦ってことでいいんじゃねえか?」


やれやれ、と、首をふる好戦男。


「すっかりひよっちまったな、ゲタル。あいつらの舐めた態度、もう忘れたのか?この家も無茶苦茶にされたっていうのによ。」


「悪かったな。だが、すでに世界のほとんどを牛耳ったも同じじゃねぇか。まだ小国は残っているが、わざわざ攻めてくるなんてこたぁねーだろう?ヤマトヲグナもそうだ。あの日、あの老婆がボーガンを盗もうとするくらいの脅威をこっちは持っている。古い考えのまま閉じこもった国なんかほっといちまえばいいじゃねーか。」


ゲタルは、ヤマトヲグナへ攻める気持ちはもう一切無かった。

クロイツ自身が体験してきたことを聞いて戦争の負の連鎖が引っかかったし、あのときの小娘がクロイツをここまで運んでくれた恩もある。

だが、なにより、関わるようになった街人達への想いが強くなったことが大きかった。

以前よりも強く、この街を守りたいと考えている。

今の平和を守りたい。

もう戦争になど出したくない。


「私は、ヤマトヲグナもまた手中に収めるべきかと思います。以前提案した通り、魔法の力をもつ者をこのクリスタルに増やせれば、様々な場面での財源節約となります。」


やはり、人を人として見ていない。


「それでも出せる兵がいない。うちは、さっきの仕事を皆で手伝うようにするから、誰も戦にはだせねーよ。」


兵がいない。

ここがキーだとゲタルは発言を続ける。


「俺んとこの職人もやれねぇぜ。対ヤマトヲグナに向けて、まだまだ新武器を開発しているからな。」


「ふむ。ではまたお金が必要となりますか…。タカ族の者や…あ、あの神を崇める者達なら神の現し身と名乗るヤマトヲグナをぶつけられるかもしれませんね。」


皆、平和へと突き進んだ者達が勝手に戦に駆り出されようとしていた。


「彼らは戦争などしたくないから!だから…戦っていたんだ…。やっと平穏な暮らしを手に入れたのに…。僕は彼らを巻き込むのは反対です。」


「クロイツ殿は当初の目的をすっかり忘れられているんだな。」


当初の目的?


「貴方は何故このクリスタルにやってきたんだ?世界を平定してこいと言われたんだろ?まだ道半ばだぜ?」


なるほど、そう来たか。

でも、クロイツは約束した。

アーシファとお互いであちこちを平和に導いて必ず再会すると。

アーシファはヤマトヲグナの女と仲良くしている。

きっちあちらのことは、アーシファが何とかしているだろう。

クロイツは信じていた。

ふぅっと息を吐き、気持ちを落ち着け、二人にアーシファとの約束の話をした。

が、プッと好戦男が笑い出した。


「やっぱり若いね、クロイツ殿は。あぁ…こっちが照れちまうな。……だが王がそれを許さない、どちらかは殺されるんだろ?」


…。


「王様も説得します。」


クロイツには他の策もあったが、まずは対話で話をつけたいと考えていた。


「その王様、俺みたいだからわかるがよ。絶対中途半端は許さねえと思うぜ?」


男の言葉はもっともである。

それは容易に想像がつく。


「それは…たしかにそうだろうな…。レムリアンか…。」


ゲタルが呟いた。

ゲタルの頭に"レムリアンとの戦争"の文字が浮かんだ。

クロイツとあの少女が結ばれることはできないとしても、クロイツが愛する少女の命も守るためには、レムリアンの王だけは撃たなければならない可能性が頭を揺らいだのだった。


「とにかく、僕はこれ以上の戦争こそ、無意味で何も得ることのできないものだと思います。」


話は並行線のまま、それ以上進むことはなかった。

熱くなるだけで何も解決しない、無駄な時間を過ごすのはもったいないので、会談はそこで終了となった。


クロイツは何とかしてアーシファとコンタクトは取れないかと考え、ゲタルにヤマトヲグナに手紙を出してはいけないか?と聞いてみると、すぐに了承を得られたので、クロイツはさっそく手紙を出すことにした。

一度会って話がしたい。

今ならば二人でレムリアンに帰れるんじゃないか?と、少し期待に胸が膨らんだ。

ゲタルが了承しない限り、二人がヤマトヲグナを責めることはできない。

動くならまさに今だと思った。





しかし、あの二人にアーシファへの想いを話してしまったことが、アーシファとクロイツの運命を大きく狂わせてしまうことになってしまった…。

いや、それこそが運命だったのかもしれないが。





















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