時代の交差点
今日もセンドウの大声が辺りに響く。
ヤマトヲグナの人々がメカニクにやってきて3日目。
センドウは毎日、広場でヤマトヲグナの民についての演説をしていた。
神の現し身がどうたらこうたら…。
メカニクの人間は毎日、研究に夢中なので耳に入りもしないのだが、休憩時間にセンドウのところに話を聞きにいったり魔法を見せてもらう人達もいた。
センドウは頼まれると、惜しみなく得意魔法を披露していた。
本人はヤマトヲグナの民の素晴らしさの布教の為にやっているのだが、メカニクの人々はそれをまるでショーのように楽しんだ。
煮詰まった頭に良い刺激を受けている。
アスカが何度か止めようとしたが、トルクが
「無理強いしないで。街を破壊する以外は好きにしてもらったらいいんだから。」
と、センドウの行動を止めようとはしなかった。
話を聞くと、ドラ家でも熱弁しているらしいが、それよりこれを見て!と、二人が手品を披露しているらしく、それをちゃんと黙って見ているらしい。
噛み合わないようで噛み合った生活をしているのかもしれない。
「何かお手伝い出来ることはありませんか?」
アスカの母シグレは、アスカがママと呼ぶ女性と共に暮らし始めていた。
メカニクの世界に目を輝かせ、自由に振る舞う母の姿をみて、アスカは、そんな一面があったのか、と驚いた。
母はずっと父に従い続ける人で、アスカとすらろくに口を聞いてくれない人だった。
でも今のシグレはまるで別人で、あれこれのモノに興味を持ち、何でもかんでも人に尋ねている。
それに、自分に何か力になれることはないか?と、自ら色々な人に声をかけ、荷物運びなど大変な仕事を魔法を使いながら手伝っている。
まるで自由を手に入れてはしゃいでいる自分の姿を見ているみたいだった。
ただ、あまり関わりを持ってこなかったアスカは、なかなか母に声をかけることができなかった。
おばば様への後悔。
それがあっても、母には、今しかない!とどうしても思えなかったのだ。
アーシファはトルク達の作る
仮名「最強の盾」
の研究に加わっていた。
科学者達はあれこれ機能をつけたがり、どこまでの重さに耐えれるのかなどの実験をされ、結構な目にあっているようだ。
ただ、でも何故その機能をつけるのか?などの理由を聞いていると、本当に相手を撃つためとかではなく、ただただ自衛の為だけの内容で、アーシファはメカニクの人々の想いの強さを感じた。
アーシファの命を守るためにどうすればいいか。
故に仮名「最強の盾」なのである。
様々な案があり、鎧になりそうな勢いではあるが…。
ステーシアとメッカは、演説が行われている広場から港に修行場を変えていた。
メッカは二刀流を使いこなせるようになるように、対人戦の時間が増えていた。
ステーシアは、
飲んで一晩休めば疲れがとれてーる薬
を、ドラからいただいてから、毎日元気一杯に動き回っている。
新兵とはいえ若くして軍に入隊だけしただけのことがある実力に、メッカは喜びの笑みを浮かべた。
ステーシアは空気が読めないキャラとして、すっかりパーティーのお笑い担当になってしまっていたが、精鋭部隊にはまだ劣れど、もっと上を名乗れるくらいの実力をもっていた。
あとものすごい負けず嫌いなのである。
これが、またステーシアの実力の底上げを手伝った。
…。
とはいえ、慣れない二刀流といえど天才的身体能力をもったメッカにはまだまだ勝てずにいる。
メッカはレムリアンでも一番の実力者だと言えよう。
アスカは相変わらずママに料理を指南してもらっていた。
今、自分がアーシファ達の力になるにはそれしかないと思っていた。
花嫁修業にもなるし一石二鳥。
ただ、たまにトルクが力を貸してほしい、と、訪ねて来てくれるのが嬉しかった。
仲間外れ感が嫌なんだろな?と自己分析している。
「今日も美味しいご話をありがとう、アスカさん。」
その言葉にニンマリするアスカ。
揚げ物を焦がさなくなったし、焼き物も覚えた。
トルク家にいる科学者達、皆の分をママと二人で作る。
なかなかの大仕事だ。
「次は何が食べたい?このアスカさんに任せないな。」
アスカが得意げにトルクに尋ねる。
「ありがとう、アスカさん。でも、アスカさんは魔法修行とかしなくていいの?私達のための気遣いはいいから、自分のことに集中してね。ヒコさんに申し訳ないし。」
…。
一気にアスカの表情が曇るのを、アーシファは見逃さなかった。
たしかにそうである。
毎日せっせこせっせこ料理をして、食べてもらえて喜んで…。
あたい、こんな人間じゃなかったのに。
と、アスカは思った。
でも何故かモヤモヤする自分がいる。
「そうだったわ。あたい、世界一の魔法使いだった。」
拗ねたようにそう言うと、アスカは外に飛び出していった。
「?」
トルクは出ていくアスカを静かに見守った。
「センドウ様、久しぶりに一勝負お願いできますか?」
燃えるような魔力を身に纏い、アスカはセンドウに魔法勝負をお願いした。
「アスカ殿…良き心構えですぞ。久しぶりにこの老体。本気で行かしてもらいますかな。」
熱弁していたセンドウは、アスカの言葉に承諾をしめし、一気に冷気を身に纏った。
センドウの所に集まっていた科学者達の肌にもそれは伝わる。
「ここでドンパチやっちゃったら街の人達ビックリしちゃうから、勝負は空ね?」
「良いですともそのようにいたしましょう。」
センドウもやる気まんまんだった。
一体何が行われるのか?
周りの科学者達の中にはメモを取り出すものもいた。
「じゃあ老いぼれから行かしてもらいましょうかね。」
センドウは手を伸ばし、一気に空へと冷気を伸ばす。
センドウの手のひらから放たれる冷気は次々と固まっていき、空まで届きそうに見える氷の柱となる。
おおーっ
と科学者達は声をあげたが、ガタガタと震え始めた。
冷気があたりを覆っている。
「さすが氷使いのセンドウ様。でも、あたいの火球はそんなもんじゃないよ!」
アスカもまた手のひらを空に掲げる。
しばらく科学者達はアスカの手のひらを見ていたが、なんだか先程までとうって変わって、汗をかきはじめている自分達に気づき、ふと空を見た。
はるか頭上に見える巨大な火球。
街一つを飲み込むんじゃないかという大きさのメラメラとした火球に、ヒーッと悲鳴があがる。
センドウの柱がダラダラと溶けていく。
「流石は我が国一番の実力者よ…ならば、これじゃ!」
と、センドウはもう片方の手を天に伸ばした
が、
「もう、お辞めなさい!!」
シグレが、センドウとアスカに直接魔法をぶつけた。
それは水鉄砲くらいの力のもので、二人の意識をそらせれば良かった。
「周りの人達を見てみなさい。馬鹿なことは海の上でしな!」
シグレの強い語気にアスカとセンドウが我に返る。
「皆様、ごめんなさい。ヤマトヲグナではたまにああやって本気で魔法をぶつけ合うことがございます。ビックリさせてしまいましたね。」
一気に柔らかい物腰になったシグレが一礼をした。
瞬間、
ドカーン!!
いきなりの爆発音。
それは、トルクの家から聞こえたものだった。
アスカは慌てて家の扉を開ける。
モワンッ
と、あたりに焦げた匂いと、黒い煙に包まれる。
ゲホッゲホッ
皆の咳き込む声が聞こえる。
「アーシファ!!」
アスカは煙たい中を進む。
科学者達が一気に窓を開け、換気をはじめると、中の煙がだんだんと薄くなっていった。
「アーシファ様!!」
トルクがそばにいたアーシファの右腕に、ガラスの破片が刺さっていることに気がついた。
結構な勢いで飛んだらしく、深い傷をアーシファは負っていた。
アスカは一瞬駆け寄ろうとしたが、すぐシグレに助けを求めに走った。
シグレは回復魔法に長けた人だったからだ。
話を聞いたシグレは、すぐにアーシファのもとに走り、ガラスを慎重に抜き、治癒魔法をかける。
やはり結構深い。
跡は残ってしまうかもしれない。
シグレはそう思った。
「温度…か…。本当に申し訳ございません。アーシファ様。」
トルクが深々と頭を下げ、謝罪する。
「大丈夫ですよ。こうやって治癒魔法まで体験させていただけて…なんだか得した気分です。」
アーシファは笑って答えた。
みるみる傷が塞がっていく。
自分の体なのに不思議な感覚である。
「温度…?」
「そう、なんだか急に部屋が温まったみたいでね。大事な気体を扱うとこだったから、温度計には目をやっていたんだけど…。」
と、トルクは顔をあげ、割れた温度計を指さした。
割れてアーシファに刺さったのは、この破片のようだ。
実験に集中するとトルクは温度差などにも気づかなくなる為、ある程度の高温になると温度計が爆破するように設定しているらしい。(なんて危険な…。)
急な温度の上昇…。
「あたいだ…。あたいのせいだ!アーシファごめん。あたいが…イライラして何も考えず火球なんか出したから…。」
アスカが珍しく泣きそうな顔でアーシファに謝っている。
まさかそんなことになるなんて思わなかった。
「いや…アスカさんにちゃんとお話してなかった私が悪かったです。この国ではありとあらゆるものを取り扱っています。先程のように爆発してしまう危険なものも、たくさん取り扱っています。私達にとっては当たり前でしたが、この街では火気の扱いは得に注意するように気をつけています。すみません。ちゃんと私が話していればこんなことには…。」
!?
アスカが言葉を失い、ゆっくりとまだ少し煙たい部屋を見渡す。
あちこち焦げたように焼けた後がある
すぐに消し止められたらしい。
周りの人達に目をうつす。
軽い火傷をおった人。
顔が真っ黒になってしまった人。
トルクの顔をみる。
トルクもまた、顔と腕に火傷を負っていた。
気体の直ぐ側にいた為、誰よりも重い火傷だった。
それに気づいたシグレが、すぐにトルクの治療も開始する。
ひんやりと冷たい感覚がトルクの顔に広がる。
「……ごめんなさい!」
アスカは叫んで飛び出した。
自分の感情で人に勝負を挑み、その結果大切な人達に怪我を追わせてしまった。
大きな音に反応し、街へ戻ってきたメッカとステーシアが、
なにがあったのか?
と、アスカに尋ねる。
アスカはただ泣いて謝るだけだった。
メッカはアスカを落ち着かせるために背中をさすり、ステーシアにトルクの家に行くように指示した。
ステーシアが中に入った頃には、すっかりアーシファの腕はもとに戻っていたので、ステーシアが大慌てする事態は避けられた。
しかし、トルクの顔と腕を治療されている姿をみて自体を把握したステーシアは、アーシファの無事は確認できたので、他に怪我した人達の状態を把握し、シグレに伝えた。
すぐに治療しなければならない者がいないか確認する為だ。
兵士になる時に学んだものである。
アーシファもすぐにステーシアを真似て、アーシファのそばにいる人達の状態を見て回った。
その日のトルク家での作業は全て中止となった。
皆、これを良い機会にゆっくり休もう!と、もとの男前に戻ったトルクは、女性陣に宴の準備をするように指示した。
アスカはずっと黙ったままで一言もメッカに発してくれなかった。
故に、メッカはアスカが何かやらかしたんだなとは察したが、周りが皆笑って家から出ていくので、大事には至らなかったんだろうと一安心した。
アーシファも元気に駆け寄ってきた。
アーシファの顔を見て、また泣き出してしまうアスカ。
アーシファにしがみついて何度も
ごめんね
と、口にした。
「アスカ。」
アスカを呼ぶのは母であるシグレだった。
「ちょっとこちらへ。」
と、アスカをそばに呼んだ。
二人で話したいようだった。
アスカはもう一度
ごめんね
と言って、立ち上がりシグレのもとへ向かう。
二人は家屋の影に姿を消した。
「アスカ。先程、あの場での魔法の件については一度話をしました。今、貴方は自分のやったことを痛感していると思います。だから、その話はもうしません。問題はその後の貴方の行動です。」
アスカは涙をこらえながら、うつむいて耳だけを傾けている。
「何故、事態を把握したにも関わらず、あの場を投げ出したのですか?怪我人は私が治療できる、そう判断したのはわかります。でも、グチャグチャになったあの部屋を片付けたり、貴方にはあの時に出来ることがあったのではないですか?」
シグレに叱られたのは初めてのことだった。
いつも父の説教はバカバカしいと思いながら聞いていたが、母の初めての説教はごもっともの正論だった。
「やってしまったことが恐ろしくなりましたか?
…あのね、アスカ。やってしまった事実は変えられないの。だからこそ、その後の行動が大切なのよ。」
そう、アスカは怖かった。
自分の行動により大切な人達を傷つけてしまったこと。
取り返しのつかないことになった可能性もある。
何故、あんなに躍起になっていたのか。
何故、自分のことしか考えられなかったのか。
「もう、わかってるでしょ。自分がしたいと思ってること、やっといで。」
アスカは、こくっと頷きシグレに一礼して走り出した。
母の言葉が、いつものアスカに戻した。
思ったらすぐに行動する。
頭ではわかっていた。
でも怖かった。
たぶん、嫌われるのが怖かった。
アスカが走ったのはトルクの家だった。
「?どうしたの?じきに宴が始まるよ。君も楽しんでおいで。」
トルクはあちこち一人で片づけながらアスカに優しく言ったつもりだったが、アスカはジッとしてほっぺを膨らましたまま立ち尽くしている。
?となったが、まあいいか、と作業を続けた。
すると、アスカは黙ったまま、少し焼けたらしい場所の煤を素手で払い出した。
魔法は使わなかった。
またなにかあったら…と、ちょっと怖くなってしまっている。
そんな姿を見て、フッと笑顔になるトルク。
「何か言いたいことがあるから、戻ってきたんだよね?ちゃんと聞くよ。」
その優しい言葉に、アスカは泣きそうになりながら、トルクの目の前まで歩いていった。
はい
と、トルクは作業をやめてアスカに向き合う。
「本当に…ご迷惑をおかけしてごめんなさい!!」
アスカはバッと深く頭を下げながら伝えた。
怒られるかもしれない、呆れられるかもしれない、嫌われたかもしれない。
それが怖かった自分の心を自覚したアスカだった。
トルクが、アスカの頭をワシャワシャワシャとなで回す。
何事か?となったアスカがゆっくりと顔をあげた。
目を丸くするアスカに、トルクは笑いだしてしまった。
「あっ、人妻の頭を軽い気持ちで触っちゃいけなかったね。ごめん、ごめん。」
あはは
と笑うトルクがアスカは不思議で仕方なかった。
「なんで…怒んないの?家もこんな無茶苦茶にして、怪我まで…させたのに…。」
トルクは笑顔で答える。
「こんなの科学者界隈ではよくあること。突然の外からのハプニングもよくあることなんだよ。さっきも言ったね。君にちゃんと伝えていなかった私が悪かったんだよ。そうだ!"火気厳禁"の立て看板を立てようか。お客様もたくさん来てくれていることだし。」
トルクは再び作業を再開した。
「皆を危険にさらしちゃった…。」
アスカがみるみる涙目になる。
「だから、アスカはもう同じ事はしない。だから絶対大丈夫。ね?」
トルクの言葉だった。
「うん。」
アスカはボロボロと涙をこぼす。
でも泣いている姿を見られたくなくて、アスカも慌てて作業に戻った。
もうしない。
絶対大丈夫。
信じてくれている言葉にまた申し訳無さが湧き上がる。
アスカは丁寧に片付け作業を続けた。
一つ一つがトルクにとって大切なもの。
だからこそ特に優しく丁寧に。
そんなけなげなアスカの姿を見て、トルクは自然と笑顔になる。
やっぱり信じられる、大丈夫。
外では宴が、始まっていたが、二人は片付けをやめなかった。
「あの…。」
アーシファがシグレに話しかける。
「アスカは大丈夫ですか?」
あれから真っ直ぐにトルクの家に入り、戻ってこないアスカが心配で、シグレにアスカの様子を聞こうと勇気を出して話しかけたアーシファ。
「あの子なら大丈夫ですよ。もとのあの子らしく、やらなきゃいけないことをやっているはずだから。」
やらなきゃいけないこと。
謝罪、片付け…アーシファも手伝おうと思い、トルクの家に向かおうとしたがシグレに腕を掴まれた。
「アーシファ様は魔法で治ったとはいえ怪我人ですよ?今日はゆっくりなさってください。…あと、もし良かったらアスカの話を聞かせていただけないですか?あの子の外での様子知りたいなと思って。」
シグレの頼みに、アーシファの顔がパアッと一気に明るくなる。
「もちろんです!アスカにはたくさんお世話になってて…。」
アスカとの出会いからこれまでを熱弁するアーシファ。
兄弟のいないアーシファにとっては、アスカは姉のような存在となっていた。
「センドウの兄貴!今日もいつものやつ頼むよ!」
休み時間にセンドウの元に集まる科学者達が、センドウに色々な魔法を見せてほしいと頼んでいるようだ。
「主等は毎日熱心にワシの話を聞いてくれるものな。特別じゃぞ。昔はワシより右に出るものなどいなかったのじゃからな。」
少しお酒も入ってご機嫌なセンドウが、いつもより派手目に氷魔法ショーを始めた。
ワーッと拍手がわき起こる。
昔から氷魔法が得意だったセンドウ。
その年齢と共に練りに練られた氷魔法は、とても美しいものだった。
どこで必要になったのか、女神像なども氷から作り出してしまう。
女性陣にもすっかり大人気になっていた。
「魔法は凄いじゃろ。科学者の君等にはできるまい!」
センドウは得意げにお酒を煽る。
「あ〜ら、オジサマ。おことばですわ。」
一人の20代前半くらいの女性が立ちあがる。
「オジサマの氷はとても美しく素晴らしいものですわ。だけど雪を降らせることはできて?」
雪。
今、ヤマトヲグナでは雪を作り出す魔法は存在しない。
水、氷、あらゆる知識と練度が必要なようであり、雪を必要とすることもない為、開発者がいなかったのだ。
「私はできるのよ!じゃーん!」
と、自宅から運び込んだ長いホースに繋がれた機械のスイッチをオンにすると、機械から一気に雪が飛び出し、チラチラと舞いだした。
「ほぉっ。」
と、センドウは雪を手にする。
すぐに手の上で消えていく雪。
ヤマトヲグナではなかなか見れず、久しぶりに雪を見た。
昔、好きだった子が雪を見て喜びまわっていた姿を思い出す。
「修行はしたんだけどな…。これしかできんかったよ。」
センドウは一度手を握り、ゆっくりと開くと、そこには一瞬だけ雪の姿が見えた。
前言撤回。
センドウは、その好きな子を喜ばせたくて、実はずっと研究を続けていたのだ。
センドウは正真正銘ヤマトヲグナ史上初、雪の魔法を使える人間だったのだ。
「雪の魔法は不可能って聞いてた!オジサマすごい人だったのね!」
「だから言っとるじゃろがい!ワシらは神の…。」
センドウの目の前を雪が静かに舞っている。
雪の季節でもないのにだ。
「いや、ワシはただ雪が好きな普通の魔法使いじゃよ…。」
好きな子が笑顔でこちらを見ている姿を思い出し、こんな魔法のような現象を起こせる彼女らもまた、神の現し身なのかもしれないなと思ってしまった。
普段、自分達を崇めとばかりに演説しているセンドウの素直な言葉に、一部の人達はおおっと驚きを隠せなかった。
そばにいたヤマトヲグナの人間なんか喧嘩になるんじゃないかとずっとヒヤヒヤしていた。
「あの人に見せてやりたかったな…。」
センドウは呟いた。
「なになに?オジサマのイイヒト?」
認められた嬉しさに、雪博士娘はお酒を片手にセンドウにすり寄った。
なんだか疑似感がある絡み方の感覚がした。
あ、あの小娘か
と、アスカを思い酒をあおぐ。
娘は酒をセンドウに酒を注ぎ、雪を見せてもらった。
一瞬で消えてしまうそれだが、なんだかあたたかい気持ちになる不思議な魔法だった。
「センドウ様…昔、お義母様のこと好きだったって、お義母様言ってたな…。」
一連の流れを見守っていたシグレは呟いた。
「アスカ、お腹が空いた。今日のお詫びに君の料理が食べたい。」
片付けなくてもいいものまで片付けるフリに限界を感じたトルクが口を開いた。
「気にしないでいいって言ったじゃん。」
すっかりいつもの調子に戻ったアスカが笑顔で反論する。
「君の焦がした揚げ物が食べたいんだよ。キッチンなら火の魔法を使ってもいいし。」
もうっ!
アスカはトルクの腕を叩いてハッとする。
「まだ痛む?」
アスカが上目遣いでトルクを見上げる。
「君のお母さんのおかげで大丈夫だよ。」
アスカは、うんっと頷く。
「材料はあるの?やってみる。」
アスカは初めて一人での料理に挑戦することになった。
「やっぱり美味しいね。君のちょっと焦げ料理は。揚げるだけなのにどうして焦がすかね。」
簡易冷蔵庫の中にあったのは、後は揚げるだけの状態にされたポテトフライだった。
たしかにアスカがしたのは揚げるだけだった。
温度にさえ気をつけ、目を離さなかったら、決して焦がしたりはしないだろう。
「だって…キッチンだったら魔法使っていいって言ってたから…自分の魔法で火加減して…料理したくて…。」
アスカは申し訳無さそうに口にした。
今回はちょっとどころじゃなく焦がしてしまったからだ。
トルクからのお願いに高鳴る鼓動。
ドキドキ状態での火の扱いは、高難易度のコントロール力を必要とした。
料理中も度々声をかけにくるトルクの声に、鼓動が上がっては火が舞い上がった。
トルクもそれに気づいてしまい、余計にチョッカイをかけに行ってしまった。
だから、トルクにも出来上がり品の想像はついていた。
故にありがたくいただくのだ。
一生懸命に料理したかったことを告げるアスカを、トルクは愛おしく思った。
初めてみた時から不思議な気持ちを抱いていた。
自分も変わり者だから、変わり者が気になったのかもしれない。
ガンガンと自らで前への扉をこじ開けていく姿勢に、強い憧れをも抱かせた。
科学者である自分も行動派だとは思うが、脳であれこれ考えてしまうクセがついてしまっている。
アスカは直感で行動するタイプだ。
そしてそんな自分をちゃんと信じている。
「トルクさん?」
黙って箸をすすめるトルクに不安になったアスカ。
トルクの顔を伺うように、覗き込む。
と、グイッと頭を引き寄せられた。
アスカの口にも焦げた味が広がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます