しばしの平穏

ヒコの館では、ヒコ家族、そしてアスカの父、他数名の老人達が一通の手紙を囲み、難しい顔をしていた。

そこに、たくさんの食べ物を手にしたアスカが、足で襖を開け現れる。


「ア…アスカ、もう帰って…ってなんだいそれは?」


ヒコが一番にアスカに気づく。

なんてだらしない…と、アスカ父がため息を吐く。


「ちょっと食べてみてよ!むちゃくちゃ美味しいんだから!メカニクのご飯。ヒコにも食べてもらいたくて持って帰ってきちゃった。で、どしたの?」


と、無理やりに揚げ物をヒコの口につめる。

質問に答えたいがモグモグするヒコ。


「え、うまいな、これ。」


ヒコは初めて口にした味にほっぺたが落ちそうなほど感動した。

はい、はい、と、他にも配るアスカ。

国の有力者達、皆が集っててラッキーだと思った。

ヒコが口にしたものを否定するわけにはいかない皆。

食べてみるしかない。


「美味しい。」


皆が同じ言葉を口にする。

ヤマトヲグナの口に合う味付けなのだ。

アスカは、それだけでメカニクへの印象は変わると信じていた。


「で、皆集ってどしたの?」


「これをみてくれ。」


ヒコが一通の手紙をアスカに読むように促した。

それは、クリスタル国から送られてきたものだった。

しかし、内容は意外なもので、しばらくの停戦をお願いしたいとの内容だった。

そもそも戦争なんてしないが、クリスタルはヤマトヲグナを攻めるつもりだったから、このような言い方になったようだ。


「良い話じゃん。なんでそんな難しい顔してんの?そろいもそろって。」


「まぁ、そうなんだけど。しばらくの停戦、ということは、時がたてば攻めてくるってことだろ?今は良くても先々のことを考えるとどうしたもんかなと…。」


「我々は神の現し身ぞ…んぐっ。」


老夫が口を開いたが、はいはい、と、アスカは無理やりに食べ物を老夫の口に詰め込んだ。

そういうのはどうでもいいと思ったからだ。


「そうね。ねぇ、メカニクのご飯美味しかったでしょ?」


「ん?ああ…まあ…美味かったよ?」


関係ない話にヒコはちょっと戸惑った。


「このレシピ、ぜひともヤマトヲグナに教えてほしいと思うのね。」


「…うん。」


ヒコは、ちゃんと話を聞き続けてくれる。


「メカニクと同盟を結ぼう、ヒコ。メカニクの科学は自分達の生活を豊かにするものだからって、武器は作らないって言われた。でも、そんな国だから信用できると思うのね。ちょうど今お祭りがあってさ…あ、ちょっとヒコ借りるね。」


アスカがヒコの腕をつかみ、突然ワープする。

もちろん行き先はメカニクである。


「……本当にあの子は…。」


アスカ父がゲンナリして、ヒコ両親に頭を下げた。

現トップはヒコ両親な為、ヒコ両親がいればいいが、実権を握っているのはヒコなのだ。

ヒコがいなければ何も決めることが出来ない。


「メカニクとの同盟…それで何を得られるのか…。」


ヒコ父が呟いた。





「うぉーっ!!」


初めて国の外に出たヒコは、メカニクの街の仕掛けのあれこれに目を奪われていた。

広場に向かいながら、いちいち装置に反応するヒコはちょっと可愛い男の子だった。


宴はまだ続いていた。

おーい!

と、手を振るアスカ。

アーシファは気づき、すぐに手を振り返す。


「と、いうわけで見てもらった方が早いと思って。」


一連の流れをアスカが説明する。

ヒコはウロウロしている。

また、お客さんだ!

と歓迎され、あちこちで接待を受けている。

酔っぱらいステーシアに絡まれながらも、宴を楽しんでいるようだ。


「クリスタルが停戦を…ですか…。何かあったということですね。」


メッカが冷静に分析をする。


「でも良かった。攻めてくるって話じゃなくて。」


「!そう言って不意打ちを……いや、クリスタルには今、クロイツ様がいらっしゃいましたね。クロイツ様がそんなことを許すはずがありませんから。しばらくは戦争を仕掛けてくることはないようですね。たしかに良かったですね。」


「なんだけどさ、てことは、落ち着いたら攻めてくるってことでしょ?だから、はやくメカニクの方達と同盟を組んで、少しでも魔力を使わなくていい生活にしたいのよね。メカニクは絶対巻き込まないって約束してさ。…あれ?トルクさんは?」


すぐに同盟の話をしたかったアスカがあたりを見渡す。


「トルクさん、私の防具になるもの作ってくれるってさっき家に戻っちゃったよ。」


「防具になるもの…なるほどね。守るためのものなら作ってくれるのか。良かったね、アーシファ。」


「うん!」


「ヒコにもこの街や人達をしっかりと見てほしいし、あたいも魔力使いすぎだし、もちょっと食べてからにしよっと。」


アスカは再びご飯にお呼ばれにいく。

喜んで食べてくれるアスカに、次々と食事が届けられていて、なんだか微笑ましい光景だった。


「メッカ、さっきはごめんね。心だけでももっと強くなるから。いつも私達王家を守ってくれて本当にありがとう。」


アーシファが深々と頭を下げた。


「そのための私達ですから。アーシファ様、ありがとうございます。ありがたきお言葉です。」


メッカもまた忠誠を使うポーズでお礼を述べた。





宴の片付けまでを手伝い、一同はトルクの家に向かった。

ドラ、ステーシアと共にお酒を楽しんでいたヒコは無理やり引きちぎられ連れて来られた。

そう、ステーシアは片付け後、二次会にドラ家に行ってしまったのだ。

アーシファは、せっかくだからと行かせてあげた。

皆が仲良くしている姿が本当に嬉しかった。

ヒコだけは重要人物なのでアスカが引きずっている。


トントンとノックをするが返事がない。

メッカが

失礼します

と、声を掛けながら扉をあける。

鍵はかかっていなかった。

中には、椅子に腰掛け、スラスラとペンを走らせるトルクの姿があった。

凄まじい集中力。

ノックも聞こえなかったらしい。

一同が中に入ってもまだ気づいていないようだった。


「ちゃんと鍵しめなきゃ、盗賊がやってくるわよ。」


アスカがトルクに近づき、その顔を覗き込んで言った。

うわぁ

と、慌ててペンを落とすトルク。

やっと気がついたのか。


「もう、こんな時間か…。すまない。楽しいことは時間を忘れてしまうね。」


トルクはグイッと伸びをした。


「トルクさん、こちらがあたいのダンナになるヒコ。ヤマトヲグナの実質トップです。…ちょっと酔っぱらってるけど…。で、ヒコ。こちらがトルクさん。この街でリーダーとなっている方よ。」


お互いに互いを紹介する。


「君があの手紙をくれた人だね。」


ちょっと半笑いである。

愛溢れる手紙を思い出してしまったらしい。


「はじめまして。お恥ずかしい姿で申し訳ない。ヒコと申します。ヤマトヲグナの者、つまりは神の現し身…。」


アスカが、キッとヒコを睨みつける。


「なぁんて、魔法が使えるだけの人間です。いやぁ、しかしここの人達はアットホームな方達ばかりで…温かくおもてなしいただき、ありがとうございます。」


さすがヒコ

と、アスカは頭の中でガッツポーズした。

ヒコが実質トップなのは、息子に両親が頭が上がらないのでは決して無い。

洞察力があり、本当に頭が良く、人を身分で判断しない人間だからである。

アスカに対する態度などはアレだが、ちゃんとしっかりと教養のある人間だ。

国でも人気者なのだ。

まあ色んな意味で。


「私の国の考え方は古い。正直、今でも国の一部の者はメカニクの科学を馬鹿にしている。それが馬鹿らしいと今日本当に思えました。連れてきてくれてありがとう、アスカ。」


あら、とアスカはドキッとした。

胸の高鳴りを自覚してしまった。


「トルク殿、私達ヤマトヲグナの人間にも科学を教えていただけませんか?こんな楽しい街、うちにも作ってみたい。」


ヒコは純粋に科学に惹かれていた。

ステーシアと共に、皆に科学の話をたくさん教えてもらい、手品をみたり、簡単な実験を見せてもらったり、ただただ楽しかったのだ。

もちろん便利さもほしいが、ヤマトヲグナの者達にもぜひこの楽しさ、素晴らしさを知ってほしかった。

同じ人間であることを知ってほしかった。

それにトルクは瞬時に気づいた。

この男は、ただ科学を好きになってくれた。

それが嬉しかった。


「はい!!ありがたいお話です。ヤマトヲグナの古き良きは残しながら、豊かな国を一緒に目指しましょう!!私にも魔法のお話をたくさん聞かせてください。」


ヒコとトルクは固い握手を交わした。

正直、ヤマトヲグナの老人達を納得させるのは難しいだろう。

だが、もう変わる時なのだ。

絶対納得させようとヒコは思った。





一晩、トルクの家に泊めてもらった一行は今広場にいる。

広場には街人のほとんどが集められていた。

二日酔い薬をいただいたのであろうステーシアもそこにいる。

一晩帰らなかったことは、さすがにメッカに絞られたが、たくさんの人達と交流し、平和への願いが強くなったようだ。

ヒコも一晩泊まり、トルクと熱く語り合って寝不足ではあったが、広場で皆の前で二国の同盟をトルクと共に表明した。

わーっ

と声があがる。

自分達の科学を他国に広められる。

しかもあのヤマトヲグナに。

皆のワクワクが止まらなかった。

そう、ただワクワクしていた。


「では、まず皆を納得して参ります。半日もかからず納得させます。またお手紙を差し出しますので、我が国に来られる方の選別をお願いいたします。先程も言いましたが、今は安全ではありますが、クリスタル国が攻めてくる日がやがて来ます。それでも良いという方々をぜひよろしくお願いいたします。戦争が始まり次第、皆様にはもちろん帰国していただきたいと思っておりますが…。」


「承知いたしました。お気遣いいただき、ありがとう。メカニクに遊びに来たいという人達は、いつでも来てください。貴方も。」


ヒコは大きく頷き、二人はまた固い握手を交わした。

では

と、ヒコが手を振る。

たくさんの揚げ物をお土産に。

そしてアスカがテレポートでヒコを送り届ける。


テレポートにはたびたび驚かされる

と、目にクマをつくったトルクが呟いた。

いつか科学の力でも成功させてみたいと思った。


「さて、ではさっそくアーシファ様のお体の採寸をさせていただきたいのですが…。」


それはダメっす!

と、やっと兵としての仕事に戻ったステーシアが即お断りをした。

これはアスカが戻らねば難しいようだ。

では今何をしておくかと考える間に、アスカが戻った。


「あたいがいたら、ややこしくなるからね。」


と、アスカが笑った。

さっそく、アーシファの採寸会が始まる。

アーシファ専用で、アーシファが扱いやすいものを作るのに、トルクは一切の妥協をしたくないようだ。

頭から足先、指の長さ、事細かに図られ、ちっちゃなアーシファの立体図が紙面上に出来上がる。

なんだかアーシファもワクワクしてきた。

アスカも手伝いに魔法を使う。

やっぱり掛け合わさると作業スピードが全然違うねって、3人は笑った。

ステーシアとメッカは屋外で必要はないだろう警備中。

街の人気者になったステーシアは、通り過ぎる人達皆に声をかけられる。

メッカは、自国には無い兵士と街人の交流をみて、こういうのも良いなと思った。

城に帰れたら…レムリアンの民達の姿もしっかり見ていこうと思った。

精鋭部隊の人間故になかなか城外から出ることもなく、よくよく考えたら現在の民がどう生きているのか、まったく知らないメッカ。

王家を守るということ。

それは、王家が守る民達をも守ることも含まれているんだということを悟ったメッカだった。

ステーシアは笑顔で手を振っている。

メカニクの温かく優しい皆が大好きになっていた。

科学も面白く、しばらくここにいれることが単純に嬉しかった。


「よし、皆を集めてさっそく始めるよ。私一人でやるより、たくさんの知識で作り上げたほうが楽しいからね。アーシファ様には度々協力をお願いすると思います。我が家を自由にお使いください。あ、ヤマトヲグナに誰を派遣するか、も、きちんと相談いたしますね。」


科学に夢中になるトルクは少し心配だが、たくさんの科学者が集まる家に居ても邪魔になりそうなので、アーシファ達はなるべく外にいることにした。


「でも、お腹はすくわよね。ねぇ、アーシファ、ヤマトヲグナの人達が来るまで、私達は料理を教わらない?それでトルク達にそれを食べてもらうってのはどう?」


賛成!

と、アーシファ。

さっそくあの揚げ物を作っていた女性を探す。

人気者ステーシアのおかげで、その女性の自宅はすぐにわかった。

事情を説明すると、むちゃくちゃ喜ばれ、さっそくキッチンに通された。

この女性はキッチン道具について色々研究しているらしく、見たこともない道具がたくさんキッチンに並んでいた。


広場の目の前が女性の家だったので、メッカはステーシアと剣の稽古をすることにした。

ステーシアには久しぶりの素振り。

いつのまにか鈍っている自分に気づく。

メッカは日々訓練は欠かさなかった為、すぐにへばるステーシアをしばらく特訓せねばと思った。

クリスタルがヤマトヲグナに侵攻してきた時、アーシファがヤマトヲグナを守りたいというのは目に見えている。

今のうちに自分達のレベルをあげていなければならない。

メッカはポッカの剣を手に取り、二刀流に挑戦してみようかと思ったようで、へばるステーシアに疑似戦闘を挑む。

ひーっ

と言いながらもアーシファの為に、と立ち上がるステーシアであった。







「と、いうわけでこちらにメカニクの人達が来てくれることになったから。」


サラッと事情を説明し、決定事項だと言わんばかりに強気にヒコは言った。


「この国に他の人間をいれるなど…。」

「我々は神の現し身なるぞ!科学など無力。」

「恐ろしい…。」


不満を述べるのは老人達ばかりだった。


「先人達が守ってきてくださったヤマトヲグナ。

この国をこれからも繁栄させる為にも、もうこれからは他と手を組んでやっていかなければなりません。俺はこの目でメカニクを見た。街も人々も見た。俺らはたしかに魔法が使える。だが、国の作りや動力はすでにメカニクより衰えている!」


ハッキリと口にするヒコ。


「我々は神の現し身、神が下々の者達と手をたずさえるなど…。」


「よし。センドウ様。貴方にはメカニクに言ってもらいます。」


「な…。」


センドウと呼ばれた老夫は、昨日もそう言って揚げ物を無理やり口に詰められた男である。

この老夫は昔からそう教え込まれ、そう信じてきたのだ。

故に不服を申し立てた。

が、


「センドウ様。メカニクの方々と関わるとどちらの心に神が住んでいるのかおわかりになるでしょう。たしかに神は我らに神の力の一部を分けてくださったのでしょう。しかし、考える、研究する…科学もまた神が与えてくれし力なのです。我らは同じ神の現し身であり、人間です。」


ヒコの言葉にセンドウは何も言えなかった。


「私も行かせていただいてもよろしいですか?」


手を上げたのはアスカの母だった。

隣に座っていたアスカ父がひどく驚いた。


「な…何を!」


「私もアスカのように、ずっとこの国を出てみたいと子どもの頃から思っておりましたから…。」


アスカ母は静かにそう言った。

アスカ父はずっと反対と叫んだが、今までずっと夫の言う事に従ってきたアスカ母の初めての反抗だった。


「シグレ殿、ありがとうございます。シグレ殿ほどの魔法使いが行ってくださるならば、必ずやメカニクの方々がお喜びになります。よろしくお願いいたします。」


アスカ母、シグレは嬉しかった。

まさか国から出られる時が来るなんて…。

シグレは夫が嫌いではないが、政略結婚だった為、子育てでもなんでも強いられてきた。

ずっと燻ぶっていた想いが爆発する手前、ありがたいチャンスを掴むことができた。

ヒコに深く感謝する。


他にも数名が名を告げられる。

その中には若者達の名前が多かった。

ヒコは教育の呪縛を解きたかった。


「以上。他の者は、いらっしゃるメカニクの者と協力しながら、クリスタル侵略の防衛について一緒に考えていきたい。それと…メカニクの人達の住処はこことする。」


えっ

と、それにはヒコ両親が声をあげた。


「どうしたって我が家が一番でかいんだし、もしも何かあったら…って考える必要もなくなるんだから良いでしょう?抑止力にもなりますよ。まあ、そんなもの必要ないでしょうけどね。」


国の為と言われれば、両親は納得せざるを得なかった。

ヒコはすでに当主をも超えている。

その場にいた誰もが思った。






「美味しい!アスカさんが作ったの?」


ちょっと焦げ気味の揚げ物をパクっと一口食べてトルクが尋ねる。


「でしょ!あたいが揚げたんだよ!見た目は…まあ、あれだけどさ、やっぱり美味しいよね、ママの料理!!」


アスカが得意げに返す。

レシピを教えてくれた女性をママと呼ぶことにしたらしい。


「彼女の料理は絶品だよ。でもね、アスカさんの私達に食べさせてあげたいって気持ちがたくさん入ってるから、余計に美味しい。」


トルクはサラッと口にする。

本心からの言葉だった。

世の中にはキザな言葉を照れもなく、本心から口にできる男はいる。


「な…ママのレシピよ!」


アスカは素直に喜べず、ツンとする。

だが、耳を赤くしているのが皆にわかった。

ヒコもそういうことをサラッと言いそうだが、紳士に見えるトルクに言われるとなんだか照れてしまうのである。


「うまい、うまいよ〜。体にしみるっす…。」


ひどく鍛えられて、あちこち傷だらけにしたステーシアが目を潤ませている。


「お疲れ様、ステーシア。」


アーシファが、おかわりを持ってきた。


「……。」


!?

ステーシアは静かに涙を流しはじめた。

まるで夫婦のやりとりをしているみたいだと感動しているようだ。

幸せな妄想がステーシアの頭をいっぱいに満たす。


「食べ終わったら続きね。」


メッカの一言で、一気に現実に引き戻されるステーシア。

まだまだ稽古は続くらしい。


「誰を行かせるか決まったよ。皆ルンルンで引き受けてくれたよ。たくさんの荷物と共に大移動になりそうだ。」


トルクは皆が自分を信じて了承してくれたことが嬉しかったのだが、指名を受けた者達も同じ気持ちだった。

トルクが自分を信じて、自分の技術を信じて派遣してくれる。

それが皆嬉しかったのだ。

絶対にヤマトヲグナに貢献してみせる。

皆がその思いだった。





次の日、ヒコからトルクに手紙が届いた。

さっそく午後には皆を向かわせたいとのこと。


「お早い対応に感謝。さて、これだけの人数どこに住んでもらおうかな。ねぇ、アスカさん、ヤマトヲグナの人達はどこなら安心して生活してもらえるかな?」


「!お母さん!?」


アスカは見せてもらった手紙にシグレと名があることにビックリした。

普段おとなしい母が…大丈夫かと心配になった。


「んーセンドウのじ様がちょっとやっかいよねぇ…。」


「やっかい?」


「そうなの。いっちばん頭の固いおじいちゃん。よく了承し…あぁ、ヒコが指名したのね。メカニクの皆をちゃんと見てほしかったんだ。」


「さすが奥さんだね。ヒコ殿の考えをよく理解してる。良い夫婦ですね。」


「ま…まだ口約束よ。赤ちゃん時から一緒にされてたもん。だからわかんの。じゃなくて、センドウのじ様よ、じ様。」


んーと、アスカがしばらく考えこむ。


「では、センドウ様のことはドラ夫妻にお任せしようかな。この街で一番、街らしさを体現してるご夫妻だし、絶対に大切にもてなしてくれると思う。ドラにはここを手伝ってもらってるし、ここに来てもらって最新技術も見てもらいたい。」


「まぁじで頭固いよ。恥ずかしいくらい。」


シッとトルクが指をたてる。


「アスカさんが言うくらいなんだね。でもね、それだけ国の教えをずっと大切に守ってくれてきた大先輩だよ。そんな言い方しちゃいけない。そうやってヤマトヲグナを守ってきてくれた。だから私達で、新しい時代の国の守り方を提示してようよ。新しいやり方で大丈夫だって安心してもらおう。」


叱られてしまったアスカだったが、トルクがこの若さで皆に頼られている意味が少しわかった気がした。

トルクは全部まず受け入れる。

いきなり否定はしない。

けど、受け入れた上で違うことは違うって、言い方をちゃんと考えて伝える。

柔らかく変換しているイメージ。

ふと、アスカは、トルクに嫌な子だなって思われてないか心配になった自分に気がついた。

人に嫌われたくない

って感情が出たのは初めてのことだった。





ついに、ヤマトヲグナ、メカニクの交流が始まる。

その頃、クリスタルにいるクロイツは戦の最中にいた。





























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