魔法×科学

悲報。 

二日酔い、叩き起こされる。

ステーシアは胃の気持ち悪さで世界の終焉がおとずれたような気がしていた。

ただの二日酔いなのだが、健康でいられるということには感謝しかないなと思った。


メカニクまでの道のりはそんなに遠くないらしく、なにもなければ船で半日ほどでつけるらしい。

だがそこは魔法の国。

風魔法の得意な人間達により風を起こしてもらい、波と風に乗りながら、2時間ほどでメカニクにたどり着くことができた。

道中、二日酔いのステーシアにとっては地獄の時間であったことは間違いない。


メカニクの港に着くと、すぐに科学者達が駆けつけてきた。

他国のもの、全てが珍しいのである。

ただ、アスカの姿をみて、すぐに一人の者が国のリーダーの元に走り出した。

まだ因縁はあるのか、ヤマトヲグナの人間を入れていいかはリーダーに決めてもらうとの事らしい。

しばらく船で待たされたが、揺れる船にオエオエ言っているステーシアを可哀想に思ったのか、残った科学者が酔い止めの薬を与えてくれた。

自分も毎日二日酔いになるらしく(研究は?)、普段から肌身離さないとのことだった。

ステーシアは疑いもなく、神にすがる思いで薬を服用する。

…。

あれ?


「むちゃくちゃスッキリしたっす。」


「だろー?俺様独自開発の二日酔い止め薬よー。三日酔いだってなんでもこいってんだ!」


せめて二日酔いで止めていてほしい所。

しかし、驚きの速さでの効果にステーシアはむちゃくちゃ感動していた。

それを喜んだ科学者が、あれもこれもと簡単な実験をその場で見せてくれた。

科学者のポケットは魔法のポケットかもしれない。

アスカも興味津々にそれを見ていた。

魔法で簡単にできることもあるが、魔法が使えなくても人間は火を生み出せるし、風も生み出せるらしい。

ハイテンションに繰り広げられるプチ実験ショーはまさにショーで、終わりには皆が拍手をしていた。

先程走っていった科学者が、一人の若者を連れて戻ってきた。

30歳くらいに見えるその男が、まさにこの国のリーダーらしい。


メカニクは小さな島国なのだが、不思議と資源が豊富な国であった。

それ故、独自で科学が発達したといえる。

小さすぎてメカニクがあることを今でも知らない国がほとんどであり、流通なども一切行っていないのだが、溢れる資源により研究され続け、他の国には決して劣らない科学力を持っている。

ただし、それ故に実験で亡くなる人間も多く、戦争事態以外での、国での一年の死亡者NO1の国でもある。

だが、自分の死によりまたあらたな可能性がうまれたりと、確実に未来に繫がることから、この国の人間達は死を恐れることはない。

むしろ誇りととらえている。

騎士たちと変わらないのだと思う。

そして他国には珍しく、国民達が主体となってこの地で生きている為、今きた若者が一番偉いんだ!なんてことはない。

この国一番の科学者である彼を信頼して、リーダーと一応おいているだけで、特に強い権限を持ってはいないのだ。


「ようこそ、メカニクへ。一度、私の部屋でお話を聞かせていただきたいと思いますので、私についてきてください。ありがとう、ドラ。」


地獄の二日酔いから救ってくれた者の名前はドラというらしい。

ステーシアは、一生その名を忘れないと誓った。


メカニク内部。

現代でいう所の、まるで遊園地のような場所であった。

水車。風車。鉄塔。トロッコ。

油の匂い。飛び散る火花。

一番子どものようにはしゃいでいたのはアスカだった。

あれは何?あれは?と、リーダー科学者にあれこれ質問している。

アーシファもまた珍しいものばかりで、あれこと視線が忙しかった。

メッカは落ち着いて見えるが、世界の様々さに心底驚いていた。


「こちらが我が家です。」


!?

扉が勝手にあいた!?


「えっ、もしかして魔法つかえんの!?」


アスカがひどく驚いていた。

男が、何かボタンを押しただけで、重そうな扉が自動で開いたのだ。


「ああ…ちゃんと仕掛けがありますよ。」


中で扉の裏側をみせてくれた。

ボタンを押すと様々なしかけが働いて、勝手に扉が開くらしい。

いつも実験材料を抱える国民達には、とても大人気な自動システムなんだそうだ。

新しい発明がされる度に宴が開かれ、実験の成功を皆でお祝いするらしい。

故に、一週間に一回はお祭り状態の平和な国である。


中は、まさに科学室。

壁一面が本棚であり、たくさんの資料がおさめられている。

様々な実験器具。

現在開発中の謎の物体。

ちなみにこの国には、研究を奪われた!なんて争いは起きない。

むしろ協力して、仮説を実体にしていくのだ。

机の上には大きな図面表が置かれていたが、ささっと丸められ、周りの椅子にかけように指示を出すリーダー。

皆が集って話し合うことが多いため、椅子は余るくらいに置かれていた。


「アマツ家から手紙をいただいたよ。本日妻が参りますって。やっぱり魔法ってすごいよね。どうやって送ってきたんだろ?」


男は皆の飲み物を用意しながら話はじめる。


「え、魔法を認めてくれてんの?」


アスカはここにきて驚かされるばかりだ。

ずっと魔法は馬鹿にされていると言われて育ったからだ。

教育とは洗脳みたいなものである。


「君はさっきのドラの実験をみてどう思った?」


「す…すごいと思った。不思議だった。」


「ね?一緒なんだよ。単純な話。すごいものはすごいし、不思議なものは不思議なんだよ。」


と、男は笑った。

たしかに…と、アスカは納得した。

男は用意した紅茶を皆に配り、いざ自分も着席をして自己紹介を始めた。


「あらためまして。はじめまして。メカニク国、代表者をやらせていただいています、トルクです。よろしくお願いします。」


…。


「あ、私はレムリアン王国からきました。アーシファです。」


「王女様っす。」


と、続けるステーシア。

各自が続いて自己紹介をする。

最後にアスカの自己紹介が終わると、


「君の旦那さんは、君のことが大好きなんだね。出会いから全部語ってくれたよ。」


と、笑いながら、何枚も束になった紙を胸元から取り出した。


「あんのばかっ…。」


アスカは照れながら小さな舌打ちをした。


「では、さっそく本題に入ります。本日は皆様、どうしてこちらにいらしたのですか?」


それはアスカが説明した。

自分の目で見た世界。

今、ヤマトヲグナが置かれている状況。

それはメカニクも変わらないと思われること。


「ですので、科学の力で…ぜひ私達を助けてください。よろしくお願いいたします。」


いや、誰だよ。

アスカのきちんとした綺麗なしゃべりに、おもわず突っ込みたくなったステーシアだが我慢した。

ちょっと態度には出てた。


トルクは、なるほど、とばかりに一度紅茶に口をつける。


「力になれることなら、ぜひ力になりたいと思います。ですが私達は絶対に武器は作りません。世界をもっと豊かに、そして楽しくしたいから私達は研究をしているのですから。人の命を奪うだけの戦争には関与したくありません。」


「…ありがとうございます。」


アスカは何かが引っ掛かったようだが、とりあえず協力は約束してくれた、良しとしなければ、とばかりにお礼を述べた。


世界を豊かにして、楽しくしたいから。

アーシファはその言葉に深く感銘を受けた。

たしかに先程の、ドラも自分の実験ショーを面白おかしく披露してくれた。

ボーガンを見た時はひどく恐ろしかった。

でも、あの技術だって、別の使い方ができるものなのかもしれない。

街の様子をみている限り、ここの人達は武器なんて作ろうと思えば簡単に作り出してしまうのだろう。

だけど絶対に作らない。

その力で世界を納めたいなどという考えは頭の隅にもないのかもしれない。

ただひたすらに研究して実験して…好きなことをして生きている。

アーシファは絶対にこの人達を戦争に巻き込んではいけないんだって思った。


「さて…その条件で私達にいったいなにができるか…。一度一緒に街を散策しませんか?」


トルクは、今のメカニクの人々の姿を皆に見せたかった。

戦争に関与したくない、それは自分だけの意思ではないことを、その目で見てほしかった。


皆は外に出た。

外は先程とうってかわって、人々がアクセクと走り回っていた。

どうやら例の宴の準備らしい。

円形な街の中心に広場が設けられており、いつもそこで皆が集まり新しい研究の成功を祝う。

トルクは、ナイスタイミングだなと思った。


「お、兄ちゃん!今日はうちのかみさんが主役なんだ。特等席で見てくれや。」


ちょうど近くを通りかかったドラ。

一行を見つけてさらにハイテンションになったのか、ステーシアだけを引っ張って行ってしまった。

なんか気に入られたらしい。


「私達も行きましょう。」


と、トルクは皆の背を押した。

広場までの道中、様々なものの原理を教えてくれた。

何故、風車の力が必要なのか。

水車の力で何をしているのか。

見たことのない建造物について尋ねると、きちんとそれも説明してくれた。

他国でもぜひとも取り入れてほしい、とばかりの熱弁だった。

皆の生活が少しでも豊かになってほしい。

繰り返しトルクは口にした。

先程の言葉にも、きっと嘘はないのだろう。

では、何故ここもまた閉鎖されているのだろうか。


広場は大賑わいだった。

たくさんのお酒、料理。 

各家庭からの持ち寄り品らしい。

まさに、皆で祝うのだ。

広場の中心には人一人が入れるくらいの大きさの箱。

に…剣らしきものが数本…。


「皆さーん!本日はお集まりいただき、まことにありがとうございまーす!!」


その装置の横にいた女が声を張り上げる。

すぐそばに、ドラとステーシアの姿。

うっとり目のドラの姿から察するに、その女性がドラの奥様なんだろう。


「私が開発いたしましたのはこちら!!さーっそく、紹介しちゃいまぁす!!」


待ってましたー!

と、声をあげるのはドラ。

なんとも陽気で仲の良い夫婦である。


「では、こちらのお客様に今日はお手伝いしてもらいまーす!」


と、引っ張られるのはステーシア。

他国民が来ることのないメカニクだが、案外と他国民に対する恐怖心などはないようである。

ヤマトヲグナとは古くの因縁はあるが、それ以外は興味の対象なのかもしれない。

あたふたするステーシアだが無理やりに箱の中に詰められる。

そして…

ドラの嫁は一本の剣を握る。


「ちょっ!」


アーシファが叫んだが、その間に剣は箱を貫いていた。


「ぐわーっ!」


!?

ステーシアの叫び声。

アーシファはその場に座り込んでしまい、体が震えだした。


「おいっ!」


アスカが火の玉を手から放とうとしたが、トルクに手を握り止められた。


「大丈夫だから。見てて。」


「はあ?」


その間も箱にグサグサと剣が刺され、ステーシアの悲鳴があがる。

アスカは手を振りほどこうとするが、以外に力のあるトルクは、絶対にその手を離さなかった。

メッカはただ静かにその光景を見つめていた。


「さぁて、中のぼうやはどうなったかなー?」


ドラ嫁はいたずらっぽく笑うと、刺した全ての剣を抜いた。

すると…


「じゃーん!!大成功っす!!」


中からルンルンと飛び出してくるステーシア。


「は?」


そう、ドラ嫁は手品師として、この地で腕を磨いているのである。

科学とは少しズレそうに思われるかもしれないが、様々な技術が駆使されてできることなのである。

研究、実験で頭を休める暇もない皆(もちろん好きでやっているが)の笑顔がみたい、それがドラ夫妻の原動力なのだ。

ドラが二日酔い治し薬を開発したのもその為である。

宴を盛大に楽しんでほしい想いから作られた。

故に大人気商品なのだ。


アーシファはまだガタガタ震えている。

よっぽどショックだったのだろう。

どうやらメッカは、なにか仕掛けに気づいていたようだ。

剣で人を刺すってあんな簡単じゃないから

と、アスカに話したが、ひどく心配したアスカは心配が怒りに変わり、離された手から小さな火球をステーシアに投げつけていた。

上機嫌から一変、アチアチと大騒ぎするステーシア。

慌てて、その場をゴロゴロと転がる。

はっ!とし、アーシファはステーシアに駆け寄り無事を確認する。

ステーシアはちょっと焦げながらもニコニコとしていた。





「いやぁ〜ドラの兄貴に頼まれたんっよ。命の恩人の頼み…断れないじゃないっすか。」


皆の料理をいただきながら、ステーシアは得意げに話す。

まだ怒っているアスカにキッと睨まれたけど。


「でも、本当に怖かったんだよ…。無事で良かった。」


温かいお茶を飲みながら心を落ち着けるアーシファ。


「ごめんねぇ。せっかくだから、ぜひとも参加してもらいたくて…。」


ドラ嫁が何回も頭を下げる。

街の人間は、手品師だと理解しているから、当たり前に大丈夫なもんだと認識してしまっていたらしい。

 

「大丈夫っすよ!俺はピンピンしていますから!それでも、いったいどうやってるんすか?あれ。」


ステーシアは、アーシファが自分を心配してくれたことが嬉しかったらしく、上機嫌の上機嫌だった。

ドラ嫁は、それはナイショと人差し指を口元に向ける。


「大事な種だもんね。これからも楽しみにしているからね。いつも、ありがとう。」


トルクが笑顔でドラ嫁を褒める。

アスカはしばらくムーっとしていたが、ふと口にした揚げ物がむちゃくちゃに美味しくて、アーシファにも勧め、すっかりパーティーモードにモードチェンジした。


「ヤマトヲグナの子だね。そうだろ?この国の味もなかなかにいけているだろ?」


少し年配の女性がアスカに声をかける。


「うん!これ、まじで美味しいわ。作り方教えてほしいくらい。」


女性はニコッと嬉しそうだ。


「そうだろ?たんと食べな。せっかく来たんだから。」


この女性はヤマトヲグナに対しての偏見が薄かったわけではない。

最初は自分達はすごいんだって気持ちが、少し混じっての言葉だった。

ただ、素直に認められ、本当に嬉しそうに食べてくれるアスカに、この女性もまたいつもの母性が出たのであった。

この国で、皆の母ちゃんみたいな存在の人である。


「うちでも作ればいいのに…。あ!」


と、アスカは何かがひらめいたように声をあげた。


「そっか…いつまでもいがみ合ってなんかいないで、お互いMIXしてみたら面白いんじゃない?調味料の幅が増えるだけで、何倍も料理レシピ生まれそう。」


食べ物の話だった。

が、それを聞いていたトルクは嬉しそうにアスカの頭を撫でる。

いきなりのことでビクッとなるアスカ。


「そうだよね。いつまでもいがみ合っててもね。お隣さんなんだから、仲良くしたほうが私も楽しいと思うよ。」


トルクは優しい笑顔をむける。

純粋な優しい気持ちを向けられた経験の少ないアスカは、胸がキュッとなった。

ただどんな反応をしたら良いのかわからなかった。


「照れてるし。」


「照れてないっ!」


ステーシアとアスカの言い合いが始まる。


「人妻様の頭を撫でるのは、あまりよろしくないかと…。」


普段、フワフワのメッカがトルクに注意した。

その行為が、また良からぬ争いの種になるのを危惧したのだ。

男女って難しい。


ただ、魔法と科学を組み合わせる、そうなると色々な可能性が膨らんでいくのは想像できた。

科学を突き詰めるから楽しい部分はあるが、魔法の力によって実験時間の短縮などが期待できる。

例えば、風が吹いてほしいなど自然現象を待つ場面で、風魔法を使ったりして代わりとすることができる。

逆に、今の技術をヤマトヲグナに伝えてもらえれば、魔力の消費を節約できる場面がでてくる。

どちらがすごいのか?など無意味な争いであり、いかに高めあえるかが、お互いにとって良い相乗効果をうめ、大切なのだとトルクは考えていた。

何回か手紙をヤマトヲグナに送って対話を試みたが、ヤマトヲグナの人達は

我々は神の現し身

という立場なのだ、と、なかなかに聞き入れて貰えずだった。

ただ、アスカは真っ直ぐに物事を捉え、受け入れてくれる。

トルクは、アスカが大事な鍵となると思った。

むやみに頭を撫でてしまったことは、少し反省しながら。


「でも…あたい正直な話、メカニクの力がほしくて来たけどさ、お互いにもっと豊かな生活ができる為に…っで、きっといんだよね。お互いにとって良いことしかないじゃん。」


アスカが口にする。


「そうだよね。アスカの魔法もやっぱり凄いなぁって思うこといっぱいあるけど、科学も見てて凄いなって思う。何にも出来ない私にしてみたら、どっちもすごいの。それが混ざるんだよ。ワクワクしかないよ。」


アーシファはたくさんのご飯を食べて、満足気味にアスカに伝えた。

ご飯のMIX、こちらも楽しみなようだ。


「そうよね…。よしっ、その線でいこう。こんな幸せな国を戦争に巻き込んじゃダメよね。」


っと、さっそく国に帰るとアスカは言い出した。

すぐに戻るから、と、3人に待っているように告げ、食べ物は手にしたまま、ワープでヤマトヲグナに向かう。


「アスカはなんでもすぐ行動。本当に凄いなぁ。」


アーシファはポツリと呟いた。


「アーシファ様、先程、自分には何にもできないとおっしゃいましたが、アーシファ様が生きてくださってるだけで我々にとってはありがたい事なんですよ。」


メッカはさっきのアーシファの一言が引っかかっていた。

何も出来ない私。

王家のために仕える身としては黙っていられなかったらしい。


「ありがとう。でもね…守られてるだけってなんなんだろ。」


「王家の方々は国の為に色々考えてくださっています。」


「なら、なんで世界を統治したいなんて話になるのかな…。国の為に…なのかな。そんなことも考えなきゃポッカだって…。」


「アーシファ様!」


メッカは声を荒げてしまった。

アーシファはビクッとなる。


「…すみません。たしかに国にいればポッカは死ぬ事もなかったかもしれません。ですが、ポッカは国の為になる行動をとったまでです。我々の本願なのです。」


「…ごめんなさい。」


お互いがポッカを想っての言葉である。

だが、立場が違うだけで考え方も違う。


「私は守られているだけじゃ嫌なの。守られてなきゃって考えてしまうのも嫌なの。…強くなりたい。」


自分がどこかで死んだとなると、メッカとステーシアの立場は危うくなってしまうのかもしれない。

それもアーシファはわかっている。

母の狂気。

それが頭をよぎる。

でも王は言った。

アーシファ、クロイツ、片方には死んでもらわないといけないな、と。

王の命は大切かもしれないが、自分の命なんてどうでもいいんじゃないかとアーシファは思った。

なら…。


「ねぇ、メッカ!私に剣の扱い方を教えてほしい。私も一緒に戦いたい。」


「アーシファ様…。」


メッカが返答に困っていると、トルクが

ちょっと失礼

と、話に割ってきた。


「第三者が偉そうに口を挟むことをお許しください。アーシファ様、アーシファ様には人の命を奪う覚悟はありますか?」


!?

トルクの言葉にアーシファはハッとさせられる。


「それが武器をとるということなのです。自衛の為の武力も時には必要だとは思います。ただ、自衛の為と言っても、自分を守るために相手を殺さなければならない場面となった時に…貴方は剣をとれますか?」


…。

頭ではアーシファはわかっている。

=相手の命を奪う

ということになると。

でも…。


「なら、致命傷を追わない程度に無力化するとか…。」


「それは…並みの人間には難しいことです。私ら修行を積んだ身でも、とっさの時にそのような行動をとることは難しいと思います。」


メッカは正直に答えた。


「…。でも…せめて、自分の身は自分で守れるようになりたい…。」


アーシファはグッと拳を強く握りしめる。


「…なるほど…。」


トルクが呟き、少し何かを考え込んだ。

アーシファもメッカも黙る。


「アーシファ様ぁ〜ドラ殿の奥さんに、たくさんお酒をいただいたっす〜。」


いつもある意味ナイスタイミングで現れるステーシア。

二日酔いをすっかり忘れ、またお酒をたくさんいただいてるようだ。

ご機嫌である。


「ステーシア殿にはもう少し責任感を持っていただきたいものです。新兵とはいえ、レムリアン王国の一兵士なのですから。」


ステーシアらしいと思いながらも、立場が上なメッカは苦言を呈す。

ステーシアははにかんで誤魔化した。

と、ドラが走ってやってくる。

ひどく気に入られたらしく、ステーシアはあちこち引っ張り回され、街人と交流を楽しんでいるようだった。


「ステーシア殿もまだ私に比べたら少年です。志願してきたとはいえ、ああやって皆と楽しそうにやっている彼を見ていると、本当に平和な世界で平和に笑っていてほしいと思ってしまいますね。」


「うん。」


「アーシファ様!」


!と閃いたトルクが声を張り上げた。

先程からアーシファはビクビクさせられっぱなしである。


「先程、私は武器を作りませんとお伝えさせていただきましたが、守るための何か…の開発をしたいと思ってしまいました。恥ずかしながら科学者の血が騒いでいます。アーシファ様を守るための何か装備のようなもの、作らせていただいてもよろしいですか?」


「はい!!ぜひとも、よろしくお願いいたします!!」


アーシファは即答していた。


「それは大変ありがたいお話です。私達も戦闘に集中できます。必ず…必ず平和な世界にいたしますので、よろしくお願いいたします。」


「メッカ殿。貴方も色々背負い込みすぎです。平和な世界にする為に、皆で考えましょう。」


トルクはニカッと幼い笑顔を見せた。

新しい開発へのワクワクが止まらないらしい。

どうやら、しばらくこの地に滞在することになりそうだ。





アスカは、食べ物を手にヤマトヲグナに降り立つ。

周りがなにやらザワザワと騒いでいた。

なにかあったのか?

アスカは足早にヒコの館に向かった。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る