民族争い

アーシファ達は絶対絶命のピンチの中にいた。

周りをグルリと、褐色な肌にするどいナイフを握った屈強な男達に囲まれ、

この地に足を踏み入れた者には死あるのみ

と、ひたすらに唱え続けられている。

アスカも補給の為に魔力を使いすぎており、無力化中。

精鋭双子はアーシファだけは守ろうと構えてはいるが、多勢な男達から放たれる狂気に少し押され気味である。

ステーシアは震えながら剣を握り、周りに注意を払っていた。


「死あるのみ!」


男達が一斉に飛びかかってきた。


ピュ〜イ


謎の口笛と共に男達の動きは静止する。

ステーシアの鼻先にはナイフの刃があたっていて、たらっと血が流れていた。


ザッと一斉に横並びとなり、座り込んでお辞儀をする男達。

その眼の前には、いつのまにか40代くらいの一人の男の姿があった。

褐色に鍛え込まれた体にはあちこちに傷の跡が見える。

右腕に大きな腕輪をはめ、左耳たぶに大きな宝石がぶっ刺さっているその男は、どうやら他のもの達より位が高い人間であることは簡単に察せた。

その男はザッザッと素足でこちらに近づいてくる。

古来からの生き方を大切にしている民族の一つに思えた。

男が口を開く。


「まずは貴様らの名とここに来た理由を知りたい。」


力強く遠くまで抜けるような綺麗な声をだす男だった。

先程の口笛もこの男が発したものである。

アーシファは一番に前に出た。


「私はアーシファと申します。レムリアン王国の王家の人間です。ここに来た理由は…特にありません!ただ彷徨いながら歩いてここまで来ました!」


アーシファは少し震えた声をふりしぼった。

その内容を聞いた男の顔がキッとキツくなる。


「王家の人間なんかが何故ここに?」


「はい!私はメッカ。同じくレムリアン王国の兵士をやってます。何故かというと、王からの命により、各国平定してまいれ〜って感じで。」


メッカは相割らずのユルユルっぷりで答える。

敵意はないと見せたほうがいいと判断したからこそ、すぐに返答をしたようだ。


「各国平定と…それは、どこも争いごとは辞めようという話を触れ回っているという認識で良いか?」


「はっ!同じくレムリアン王国兵、ポッカにございます。はい、王様は世界を平和にしたいからとのことで王家の人間直々にあちこちを平定する旅をしております!」


…。

双子を初めてみたのか、男はメッカとポッカの顔を何度も見比べている。


「ポッカとメッカは同じ時にお腹に宿り生まれた双子です。だからそっくりなのです。」


男はズカズカと寄ってきたので、5人は身構えたが、ポッカとメッカのほっぺをひっぱって化けているのではないかと確かめに来ただけだった。

痛い。


「しかし、明らかに毛色の違うこの女はなんだ?女が足をだして…はしたない。さすがに同じ国の人間には見えんぞ?」


「あら失礼。これはファッションよ、ファッションよ。あたいの国でもおなじこと言われるけどね。あたいはヤマトヲグナNO1魔法使いアスカよ。」


アスカは自己紹介する時に必ずNO1魔法使いと触れ回っている。


「魔法か…そのような力本当にあるのならば一度この目でみたいものだ。」


「魔力切れ寸前だけどこれくらいなら…。」


と、アスカは人差し指をたて、指から小さな火柱を出してみせた。


おおーっ!!

それを見ていた他の男達は感動したのかそれぞれ大声をあげだした。


「…そうか…。貴様らの話が本当なら頼みたい事がある。我が村に来てもらいたい。だが、あらゆる武器はこちらに預からせてほしい。」


「なっ…。」


と、反論しかけたポッカを慌ててメッカが静止した。

何かその村には…この民族達には、事情がある匂いがしたからだ。


「おっけい、おっけい。まさか貴方も不意打ちなんてするタイプじゃないでしょうから。」


メッカは鋭い眼光を男にぶつけた。


「その辺りは信用してほしい。我らハヤブサ族の民はそんな穢らわしい行為、絶対にしない。族長の私が誓う。」


男も鋭い眼差しで二人の視線がぶつかり合う。

緊張が走る。


「あのっ!!僕も僕もレムリアン王国兵士の一人っす。まだ新兵ですが…立派な兵士っす!ステーシアって言います!!」


すっかり忘れられているステーシアの叫びに、一気に緊張の糸が緩んだ。


その村は、入った誰しもが迷いの森と呼ぶであろう深い深い森の奥にあった。

案内されたその村にはまず活気が感じられなかったた。

先程の男達と族長、それ以外に若い男の姿は見当らず、老人たちと女、子ども…ただ、誰もが皆疲れきった顔をしていた。

流れる川をただ座り込んでジーっと見つめる者。

ひたすらにただ縄を編む者。

20人くらいがそこにいるのだが、族長の帰りにすら気づかないものもいた。

生気を失っている。

その言葉が一番しっくりくる印象だった。

ただ、一人、村で一番大きなテントから元気いっぱい駆け出してきた女性の姿があった。


「コウシ!!」


その女性は戻ったばかりの族長に飛びついた。

どうやら二人は夫婦のようである。

族長に強くしがみつき、族長の命が今日も守られたことに感謝の言葉を述べていた。


「オハル、いつも出迎えありがとう。客人だ、もてなしてやってくれるか?」


今まで夫の姿しか見えていなかったオハルは、ハッ!と辺りを見渡す。


「あら、あなた!その衣装どうしたの!?そんなん姿じゃ、あの男共にいやらしい目でみられちゃうわ、さ、こっちに来て!」


「うわ、ちょっと…。」


アスカがオハルに引っ張られる。

勢い負けしているアスカはちょっと珍しい。


「ねぇ、皆!今日は盛大にお料理するわよ!集まって!」


アスカを引きずりながら、村の者に大声で声をかけるオハル。

さっきまで時が止まっていたかのように思われていた各々がうつらな目のまま、族長のテント内に向かい出す。

なんだ、いったいこの温度差は。


「…騒がしい奴で…すまない。家内のオハルだ。さ、どうぞ、その辺りに座って。」


村の真ん中には円状に石が数十個埋め込まれており、そこに腰を掛けるように言われた。

そのど真ん中では木が四角錐の形に組まれていているが、用途はよくわからなかった。


四人は座り込んだ。

するとすぐに、美しい小川から汲み取った新鮮な水を先程取り囲んできた男が運んできて、1人1人カップを配られた。

新鮮な自然の水の味を皆は初めて味わった。

レムリアン島にも川は流れているが、海が近く、食用には向かないからだ。

さっきまで殺気剥き出しだった男達はそれぞれの持ち場、力仕事へ向かっていった。

1人の男はまた水を汲みに行き、族長の部屋を行き来している。

族長の部屋から何か不満の叫びが聞こえてきた気がするが、一行はあまり気にしないことにした。


「先ほど、皆の姿を見てもらったと思うが…あれが我が村の現状だ。今、我らハヤブサ族は、元々は一つであった民族であるタカ族の者たちと戦争状態にあり、お互いにたくさんの若い者達の命を失いました…。」


ここでも戦争。

何故、人は争うのだろうか。


「もう限界だ。今残されたあの男達、誰か一人でも亡くなれば村の存続も危うい。停戦したいのだが、人を送れば必ず死体となって戻って来る。ここにいる我々は各国の暗殺部隊として力をつけてきた者たちが多い。故に暗殺者が送られてきたと、認識されてしまうようなのだ…。我々に戦闘の意思はないのに…。」


話の途中だが、腰巻きをグルグルに巻かれ歩きにくそうなアスカが、膨れっ面で族長のテントから出てきた。

何度も転びそうになりながら、皆の横に腰を落ち着けるアスカ。

膨れっ面ではあるが何も不満を漏らさなかった。

意外と丁寧に扱われたらしく、文句が言えないようだった。


「元々、我々は共に今タカ族が住んでいた場所に住んでいた。だが、ある国からの暗殺部隊派遣命令中に一気に内乱を起こされた。タカ族である連中、汚ぇことにまず子ども達を人質にした。小さな頃から暗殺術は学ぶが、タカ族も武に力をいれていた。子どもじゃまだ歯が立たなかった。自分達が村を出ていくことで子ども達を返してもらおうかと思ったが、向こうは我らを根絶やしにするつもりで掛かってくる。我々は暗殺部隊でありながら、卑怯な真似は絶対にしない。かならず正面から対面し仕事をするのを鉄則してきたが、奴らは当たり前に卑怯な手を使ってくる。」


ガンッ

と、コウシ族長は地面を殴りつけた。

すると水汲み係が一瞬でコウシの元にかけつけた。


「すまない。話すのに熱くなっちまっただけだ。」


族長の変化に気づき即座にやってくる。

さすがである。


「我らも本気を出し、攻めにも転じ奴らの戦力を確実に削ったが、人質、他国から仕入れた武器などの戦力により、たくさんの仲間を失ってしまった。それにより皆の家族を奪ってしまい…今、皆が生きる気力も失ってしまっている状態なのだ。オハルがなんとか皆を元気づけてくれてはいるが…まだ子どもを人質にとられている者もいる。気が気でないだろう。我らはここで暮らす権力さえくれればそれでいい。…そこで貴様達に仲介役を頼みたい。」


ここでも上手くやれば平和を生み出すのに貢献できるかもしれない。

ただ懸念されていることがある。


「それはもちろんぜひとも協力したい話ではあるが、アーシファ様にもしものことがあってはならない。我々だけで行こう。」


ポッカはそう言って兵仲間の二人を見たが、アスカは反対だった。


「明らかに怪しい男3人がいきなり戦中の村に現れたら警戒されない訳がないでしょ。あたいが行くわ。一応NO1魔法使いだし?可愛いし?一番なんとかなると思うけど?」


「アスカさんが行ったら、それこそ事次第ですぐに戦いの火蓋が切り落とされることになるでしょうよ。大暴れしてるアスカさんの姿しか見えないっす、俺は。」


ステーシアは怖いもの知らずなんだろなと思う。

アスカは魔力つきかけの為、ステーシアに何も出来なかったが、チッと舌打ちしたのは皆の耳に聞こえた。


「私は…行きたい。世界をちゃんと自分の力で平和にしたいもん。」


「んーー…どのようにいたすべきか…。たしかにこの状態ではもうこの村の存続すら危ない様子。」


メッカも少し作戦を考えてみる。


「……すまない。」


族長は両手を拳ににぎり、地面につき、そして頭もまた地面につけきるまで深く頭をさげた。

ハヤブサ族、最大の敬意を払った行動である。


「さぁ、今日は宴にしましょー!!難しく考え過ぎても仕方ないわよ!!とりあえず今日は歌って、騒ぐのよ!!そうしていたら良き天啓がおりてくるわ。」


たくさんの食べ物を抱えたオハルが再び声を張り上げて外に出てきた。

後ろから続々と皆が続く。

決して豪華とはいえないが備蓄食料の中から最大級のおもてなしをしようと、オハルは皆と腕によりをふるった。

オハルは少し高すぎるくらいのテンションで、でもそれが皆を笑顔にした。

皆、戦で心を病んでいる。

そこにオハルの明るさは染みるのだ。


次の日、相談した結果アーシファとステーシア、メッカの3人がタカ族の元に向かうことになった。

あまり大人数過ぎても警戒されるだろうとの予測と、ポッカとアスカは村のお手伝い係として残すことにした。

ステーシアは意地でもお供すると聞かず、ポッカは一本気過ぎるため話し合いには向かない、メッカは何かと空気を読み取るのが得意なタイプで推薦された。

アスカは何故かオハルにむちゃくちゃ気に入られてしまい、ずっとべったり状態である。

一番短気なアスカを残していくのは賢明な策だとは思われた。

どうなるかはわからないが、とりあえず話しが出来たら良い。

とにかく無抵抗であることを示そうとアーシファは考えていた。



事は意外とすんなりといった。

森を抜け、しばらく歩くと現在タカ族と名乗る者達が住む集落がだだっ広い草原の中に姿を表した。

木の柵で覆われ守られている集落の入口には門兵らしき二人が立っていた。

ハヤブサ族と元々同じ部族の為、見た目はあまり変わらない。

少し疲れが見える門兵に自分達がハヤブサ族から使わされた使者であり、レムリアン王家の者であると説明した。

門兵はお互いに顔を見合わせてから(少しため息を吐いたようにも見えた)、一方が族長の所まで案内をしてくれることになり、何不自由なく村の中を案内された。

コウシから聞いた話から血の気が多く、ずる賢いような人間達の巣窟かと勝手に想像していたが、そこにもまた生気のない顔をした人間達の姿があった。

ハヤブサ族と同じように若い男の姿が少ない。

お互い、本当にたくさんの命を失ったのだろう。

ふと、地に尽きたてた一本の木の札に静かに手を合わせている人の姿がみえた。

良く見てみると集落のあちこちに似たような木の札が突き立てられていた。

もしかしたら亡くなった誰かのお墓なのかもしれない。

アーシファはキュッと胸が苦しくなるのを感じた。

集落の奥に、コウシのテントと似た大きなテントが構えており、門兵はそこが族長のいる場所だと教えてくれた。

門兵を含め、皆で中に入れてもらう。

そこにはコウシよりも少し若く、ドッシリした体つきの男の姿があった。

右腕に大きな腕輪。左耳に突き刺した石のピアス。

族長である証なのか、コウシとまったく同じ格好をしていた。

何者か?という族長の顔に、門兵が事情を説明する。


「ほう…和平の申し出は本気だったのか…。して、何故貴様らはハヤブサ族側の使者としてきたんだ?」


「ハヤブサ族の方々に出会ったのはほんの偶然でした。無知にも踏み入れてはならない場所に足を踏み入れてしまい…最初は囲まれました。」


「奴らは野蛮人だからな。」


「あ、いえ。でも、コウシ様が話を聞いてくださる方だったので、なんとか命はとられずに済みました。そして、村に入れてくださり、今のハヤブサ族とタカ族の状態について話されました。コウシ様は平和を望まれております。今の森の中からは出ない、暗殺業も辞めるから、森で生きることを許してほしいと。そして、人質の子ども達を返してほしいと。それが嘘偽りのないコウシ様のお言葉です。」


ふむ…と、族長はしばらく考えた。


「それにコウシの死をつけるなら考えてもいい。」


「コウシ様の死…ですか?」


「そうだ奴は一人で何人もの命を一瞬にして奪うことのできる暗殺者だ。奴だけは生きていてもらっては困る。復讐が怖い。」


「お言葉ですが族長殿。コウシ殿の命を奪ってしまうことこそ、復讐の連鎖の始まりとなると存じます。」


メッカが発言する。


「それに、私はこの目であの村を見て、そしてこちらの皆様の姿を見て…誰も戦争なんて望んでないと思いました。皆…誰も笑ってない。」


例外としてオハルは元気一杯にみえるが、皆のためにそう振る舞っているだけである。


「わかってる。そんなことはわかってるよ。でもな、戦いの終わらせ方が一番難しいんだ、姫さん。」


族長は立ちあがり、1枚の女性ものの民族衣装をアーシファ達にみせた。

色褪せてはいたが、血液らしきものが付着していた。


「俺の嫁は殺された。まだ一つの部族としてこの集落で皆仲良くやっていた時だ。暗殺部隊の名が、この辺りに平和をもたらせてくれていると信じていた。だがある日、他国で大きなドンパチやっているからと暗殺部隊が全員出払っていた時だ。誰かの恨みだとか言って、数名の人間達が突然武器を持って現れた。村には今でいう我々タカ族の男達は残っていたが、どちらかというと平穏に暮らしたいと生活の為に働いているような奴らはばっかりでさ…突然の急襲にすぐに対応できる者が誰一人いなかった。次々と見境なく仲間が殺されたよ。俺はその場にいた。だが、暗殺者部隊崩れな俺は突然の襲撃にただ怯えていた。かっこわりぃ話だ。自分の奥さんが武器を手に襲撃者のもとに走る後ろ姿をみて、やっと我に返った。俺がやらなきゃ皆死ぬ。慌てて武器を取りに戻り、いざ戦うぞって飛び出した時にはすでに妻は絶命していた…。そこからアドレナリン出まくりで全員ぶっ殺してやったけどな。…あいつらがいるから…あいつらが買った恨みを俺等がなんではらされなきゃいけないんだ?どうしても納得がいかなかった。」


アーシファは先ほどよりも強い胸の苦しさを覚え、息が吸いにくい状態になっている自分に気づいた。

心が痛い。


「根絶やしにしてやりたかった。そうすりゃ二度と恨みなんて買うことはないからな…。ただ正直、俺も戦には疲れたよ。金はかかるし荒んでいく一方だ。」


「それならコウシ様も暗殺部隊は解散するとおっしゃっていますし、コウシ様の案で和平を結ばれたら良いのではないですか?」


「さっきも言ったが復讐が怖い。コウシという人間の真っ直ぐさを俺は理解している、あいつが約束を破るとは決して思えない。」


「なら…!」


「ここに人質の子ども達はいない。皆、金のために売り払った。」


!?

だから復讐が怖いのか…。


「なんで…なんでそんなことっ!?」


アーシファは必死に声をあげたが、酸素が入ってこない。

その場に倒れ込み呼吸困難を起こした。


「アーシファ様っ!!」


慌ててステーシアがアーシファの様子をうかがう。


「それは過呼吸というやつだ。安心しろ。死ぬことはない。ただ、ここにいては落ち着くもんも落ち着かんだろうから、はやく連れて村へ戻れ。条件は先ほどの通り、変えるつもりはないからな。」


族長は立ち上がり、面会は終わりだとばかりにくるりと背を向けた。

ステーシアはアーシファを抱え、すぐにテントを飛び出した。

はぁはぁと苦しそうに涙を流しながら必死に呼吸をするアーシファ。

メッカは過呼吸という言葉を聞いたことがあった。

二人の後に続きながら頭をフル回転させる。


「だめだ、わからない。」


メッカは頭をふるふるとふった。


「アーシファ様、大丈夫っすからね。ステーシアがついています。大丈夫、大丈夫っすから。」


ステーシアはずっとアーシファに声をかけながら走り続けた。

アーシファは呼吸に必死な状態だったが、ステーシアに抱えられ、人の体温に安心感を覚えることができ深呼吸を意識するようにした。


森の外には男が村への案内の為に待機してくれていた。

皆は無事に帰路についた。

アーシファの呼吸もすっかり落ち着いてはいたが、心配するオハルにオハルの寝床を貸してもらい横になっていた。

メッカとステーシアはあったことをそのままコウシに説明した。

向こうから提案された条件。

そしてその理由も。


しばらく3人に沈黙が訪れた。

すっかり夜になっていて虫の声達と、小川のせせらぎが森の中で響いている。


「わかった。明日は俺も共に行こう。」


コウシは何かを覚悟したようだった。

いやっ、とメッカは止めようとしたが、コウシの顔つきが穏やかであり、何故か言葉が出てこなかった。

もちろんコウシの命を奪わせたくない。

皆がそれぞれ一晩、いったいどうしたら良いのかを考え、なかなか寝つけない夜となった。

アーシファはオハルとアスカの間に挟まれていて、なんだか不思議な感覚だった。

二人とも心配してそばにいてくれている。

ここには優しい世界がたしかにある。



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