ヤマトヲグナのアスカ

「はい。こちらは貴方がたと協力体制にありたいという心からの願いからの提案です。こちらの案に納得していただけますでしょうか?」


「もちろん協力関係にありたいとは思っていますが…ゲタル様の案はどちらかというと我々の能力の搾取とお見受けられますがいかがでございましょう?」


ゴールドフィルド、街の長であるゲタルの家。

レムリアンと同じ島国であるヤマトヲグナの代表者と、クリスタル国各街の代表者が向き合う形で、ゲタルは奥の真ん中に座り、同盟を結びたいという会談を行っていた。

提案はクリスタル国側がしたものであった。


ヤマトヲグナ。

レムリアンよりも遥かに小さな島国なのだが、こういった同盟の話はよくある話なのである。

この国の国民は皆、何故か魔法が使えるという民族なのだ。

閉鎖された国な為、外に魔法の血はない。

故に、魔法の力にあやかりたいと思う国達が貢ぎ物を持って行っては、同盟や協力をお願いしてきた。

皆、ヤマトヲグナの人達を

神の力を持つ者たち

と呼んでいた。

そしてまたヤマトヲグナの人々も自らは神の現し身だと信じている者達が多い。

魔法には敵わない。

故に手を出す国などいなかった。

しかし、近年になって科学の力が発展してきた事により、魔法が最強という時代は終わりに近づきつつある。

そんな時、クリスタル国で首都であり唯一の港町であるゴールドフィルドから同盟の話がきた。

しかし、今までならば向こうが出向いてきたのだが、初めて手紙一枚で呼び出された。

近代最強の武器を手に入れた。

その脅し文句つきで。

ヤマトヲグナ側としては、実物をしっかりと目にしたかったし、脅威となるなら同盟も大切になるかもしれない、そう思う者もいて出向いて行くという選択をした。

しかし、その内容はあまりにも一方的な契約内容のものだったのだ。

今までが逆に一方的だったからそう思うだけかもしれないが、ヤマトヲグナの代表者達はひどいという第一印象を受けたのだ。


魔法の出来る独身の数名を各街に派遣すること。

これは数年おきに。

クリスタルからも同数の街人を送る。

(これは、あわよくば婚姻関係を結び、直接魔法を手に入れようという考えが見える)

ただ、この内容はヤマトヲグナ側には屈辱的とも言える話である。

ヤマトヲグナは何人たりとも他国の人間を中にいれ生活させることは一度もなかった。

自ららは神の現し身だからである。


他にも情報の共有について。

ヤマトヲグナの戦力をあかすこと。

これはお互いとあるが、一番最大の科学武器はまだ明かせない。

一応祖国防衛の為との理由。


後は、自分達をいつでもヤマトヲグナに行けるようにすること。


脅し文句の近代武器の姿はもちろん見えない。

ヤマトヲグナの代表者達は、どうしたものか困惑していた。


「失礼する。こちらゴールドフィルド頭首ゲタル様のお家であられるか?」


クリスタル代表者達には聞き慣れない声だった。

ポッカの声である。

扉を勝手にあけ、いきなり会談中の場に知らない四人が現れた。


「失礼。大事な会議中のよう…おや?ちょうど良かったレムリアン王国王女、王様からの命により直々に貴方達に話がある為参ったのです。心して聞くように。」


ヤマトヲグナの女性陣にウィンクを飛ばし話すメッカ。


「レムリアン王国の王女?」


口を開いたのはゲタルだった。


「はい!私はレムリアン王家の人間。アーシファと申します。父の代理で参りました。あの…私達の配下となってください!!」


!?

クリスタル国代表者の一人が苛立ったように立ち上がった。

今、自分達の有利に同盟話を進めていた中で、いきなり配下になれと言われたのだ、無理もない。


「ほう?配下になれと。お嬢ちゃん、意味がわかって言っているのかな?」


ゲタルは立ち上がった男を手で制し、自らもゆっくりと立ち上がった。


「えっと…我が国の言う事を聞いてほしい…そのようなことだと思っています。でも下につけとかそういうことじゃないんです!我がレムリアンを中心に平和を広げていこうというのが父の考えであり…。」


「ほう、配下になれ、から一転、平和の為にってか。」


ゲタルは一歩ずつアーシファに向かって歩き出す。


「平和を広げたい、その理想はわかるぜお嬢ちゃん。でもな、もはや今はあちこちが武器を作り、自らも武器を持たねばいつ攻めてこられるかわからない時代、科学が目覚ましい発展を遂げている時代なんだ。底が見えるレムリアンに平和な世界が作れるとは俺は思えないね。」


アーシファは隠し玉の鉱石を取り出そうと思ったが、ゲタルの言葉に真実を感じてしまった。

たしかに鉱石が無くなったレムリアンが用無しになることを王が恐れていたのを思い出したからだ。

資源、兵は限られている。


「お言葉ですが、我が国には世界中どこを探しても見つからない貴重な鉱石がございます。この力は未知数です。科学とやらも素晴らしいとは思いすが、まだ謎が多い鉱石には秘められた力があると存じます。」


ポッカが言った。

小さな頃から、そう教わって育ってきた。


「それがもう底を尽きてきているから、わざわざ娘を寄越してまで配下になれって言うんだろ?交渉としては、尽きることのない魔法を使える人間達のほうがよっぽど信頼できるね。」


図星だった。

ヤマトヲグナの代表者達はただ耳だけを働かせている。


「魔法…。でも魔法だって…。」


父親の考えに賛同などできておらず、交渉術もまともに学んでいないアーシファには次の言葉が思いつかなかった。


ゲタルはついにアーシファの目の前に立つ。

それを制するようにポッカ達はアーシファの前に出た。


「さぞかし鍛え上げた筋肉なのだろうな。でもな今、俺らが持つ武器を一発打てば貴様の命など一撃だぜ?」


「それはぜひとも打たれてみたいものですね。」


メッカは今までの自分に自信がある。

強気な返答だ。


「おい!あれを打ってくれ。」


ゲタルは怒りがおさまっていない男に声をかけた。

よっしゃあ!!とばかりに隣の部屋に駆け出す男。

それか?と、ヤマトヲグナの代表者達は部屋へ顔を向ける。

 

「へへっ、生意気な口をきいたこと後悔するんだな。」


男が嬉しそうに部屋から抱えてきたのはボーガンだった。


パシュッ


一瞬にして飛び出した矢は、部屋の天井に突き刺さった。

もちろん、わざとそうしたのである。

ヤマトヲグナの人達は驚愕した。

あまりにも一瞬のことだったからだ。

遠距離武器と言っても1台ならどうにもできる。

だがあれが部隊となると…。

果たして魔法を唱えている暇などあるのか?

防御に必死にならなければならないのではないか?


ポッカも驚愕して目を丸くしている。

ステーシアは咄嗟にアーシファを自分の後ろに引っ張り込んだ。


「ヤマトヲグナの皆様、そしてレムリアン王国の皆様、今これを俺達は増産中です。システムはもう出来上がっています。」


ゲタル達、クリスタル国代表者達は武力で世界を支配したいと考えていた。

強ければ国が脅かされることはないから。

もう世界戦争は始まろうとしているのである。


アーシファはどうしたらいいかを考えたが、自分の中の知識に打開策は無かった。


「そうだ、ゲタル!こいつらを引っ捕らえて人質にしちまえばはいいんじゃねえか?レムリアン陥落見えたりーっ!」


武器を持った男はマウントをとれ、さぞかし嬉しそうである。


「なるほど…。一理あるな。そうしたらヤマトヲグナの皆様の考えも変わるだろうしな。」


「やだ…。」


「アーシファ様は俺がお守りするっす!」


ステーシアがアーシファの盾になろうとしている。

双子兵も剣を抜こうとした…

瞬間に、メッカの左腕をボーガンが撃ち抜いた。

あの男、武器の扱いに相当慣れている。

ポッカは一気に頭に血が上る感覚がして、瞬時に男を切ろうとした。

が、


「おばば様、あたいもう疲れたから帰りたいわ。この人達に魔法の披露していけばいいのよね?」


「な…アスカ…。」


「では、とくとご覧あれ。ヤマトヲグナでNO1の魔法使いアスカ様の大魔法!」


ヤマトヲグナの代表者席に座っていた若い女が立ち上がり、右手を下方で広げた。

すると一気に部屋中の空気が女の手に集まり始め、渦を巻き始めた。

なにもかも吸い込まれていくようなイメージ。

と、

瞬間、

何かが弾けたように目の前に閃光が走った。


…。


何も見えない。


皆が視界を取り戻す為にどれくらいの時間を必要としたのだろうか?


「ちっ、逃げられたか…。」


一番に口を開いたのはゲタルだった。

そう、驚くことにアーシファ達の姿が部屋からなくなっていたのだ。

よくよく見渡すもヤマトヲグナの人達の姿も無かった。


「交渉決裂だな。武器の増産後、ヤマトヲグナを落とす!ここを落とせるかは最初の戦いにして大きな難関だ!でも必ず落とせば世界は我々、クリスタルのものだ!!」


オーッ!!と残された代表者が声を上げた。


「家代もいただいてやる。」


竜巻に襲われたあとのように、むちゃくちゃになった部屋を見つめてゲタルは呟いた。




「大丈夫かい?ほんとお姫様だかなんだかしんないけど口のきき方には気をつけないとだめよ〜。」


眩しい閃光の前からしゃがみこみ目をつぶっていたアーシファが、急に辺りが静かになったので目を開くと、あの渦巻きを作っていたお姉さんが優しく声をかけてくれた。


吸い込まれそうな藍色の目に真っ黒に長い髪を束ね、ヤマトヲグナの民族衣装である着物を、ミニスカートにしてしまい、下駄も厚底、目のやり場に困ってしまいそうだ。


「は、はい…ありがとうございます…。!?みんなは!?」


ハッとして辺りを見渡すアーシファ。

アーシファのすぐ後ろでクラクラと目を回す三人が横たわっていた。


「驚かせてごめんね。でもなんかあいつヤな感じだったし。どうせ交渉する気も無かったでしょ?ね?おばば様。」


女はおばば様と呼んだ女に近づき、テヘッと笑ってみせた。


「ああ…あの武器は恐ろしいが、神の現し身である我々に対してのあの態度…まったく解せん。」


「だ〜よね!さすが、おばば様。私の意図も組んでみんなをテレポートまでしてくれて、感謝、感謝!」


女はおばば様に2回手を叩き拝む。


「こらっ、わしを拝むな!この者たちを助けたのは、そのほうが我らにとって良いと判断したまでのこと。お前ら、この恩、忘れるでないぞ?」


着物を身にまとい、美しく立ち振る舞うおばば様はヤマトヲグナで五本の指に入る偉人であり、先程の女アスカの祖母である。

故にアスカの考えを瞬時に読み取り、皆をテレポートさせたのだ。

おばば様とアスカは、依然に行ったことがあり、そこが2キロ範囲内であればテレポートできる能力を持っている。

ヤマトヲグナの中でも限られた人間にしか扱えない上に、魔力消費量はすさまじい。

おばば様の魔力残量はあと一度テレポートするのが精一杯であろう。


「あ…ありがとうございました。」


アーシファは急に恐怖がこみ上げてきて、半泣きになりながら、おばば様に頭をさげた。


「あとアスカ…お前は二度と帰ってくるでない。」


「えっ!?今だからこそあたいの力が絶対に必要じゃん!なんでよ?」


おばば様は、はぁっと溜息を吐いた。


「わしはな、お前の優しい所は誇りに思っている。この者たちを助けてあげたかったのじゃろ?だがな、あそこは大事な戦場じゃった。わしらは本来ならば勝たなければならない戦場だったのじゃ。それをお前がむちゃくちゃにした。アマツ家になんと頭をさげる?あそこの息子と無理に結婚するかい?」


「ぜ〜ったい嫌!!」


「じゃろ…。わしらにとって今は大事な分岐点なのじゃ。ずっとお前は村を出たがっていた。世界を知りたがっていたな。けど村から出ることは、今回のような特別な事情がない限り誰しも許されない掟がある。今なら、まあ、お前を悪者扱いさせてもらうがこのまま世界を巡ることができる。あのバカ息子と結婚しなくてよくもなるのじゃ。…。交渉は決裂、アスカは勘当した、と伝えようと思う。」


「……そりゃ、世界を知りたい。あちこち行ってみたい…けど…掟は大丈夫なの?おばば様は大丈夫なの?」


アスカは心配そうにおばば様を見る。


「大丈夫。わしはヤマトヲグナで2番目に権力のあるクニツ家の女じゃぞ?お前に心配などまだされとうないわ。それにお前を探すために誰かを出すことも掟に触れる。だから大丈夫さ…まあ、あのバカ息子はお前を追って村を出ると騒ぎそうじゃがな。」


おばば様はカッカッカッと笑った。


「ありがとう、おばば様。この人達、なんか心配だから一緒に行くわ、あたい。」


アスカはギュッとおばば様を抱きしめた。

最後の別れになるかもしれないと思った。


「じゃあわしは行くでの。港にテレポートして船を出すよ。アスカ、元気で。皆様、アスカをよろしゅうたのんます。」


と言うと、おばば様は一瞬で姿を消した。


「というわけで、あたいも一緒に連れて行ってよ。」


アスカがニコッとアーシファに手を伸ばす。


「はい。ありがとうございます。心強いです。」


アーシファもまた手を伸ばす。

二人はキュッと握手を交わした。

アスカの手はポカポカと暖かく、不安だった心がなんだか少し癒やされた感じがした。


「アスカちゃん、僕はメッカ。君みたいな可愛い子大歓迎。」


いつのまにか立ち上がっていたメッカはバチコリとアスカにウィンクした。


「アーシファ様を守ってくださったこと…心から感謝する…。」


ポッカは座り込んで泣いていた。

おばば様とアスカのあたたかいやりとりに涙していたのである。

優しく純粋な男なのだ。


「あらやだ、同じ顔!?ど〜ゆ〜こと!?」


「イケメンな俺がメッカ、今めそめそしてるほうがポッカね。」


ポッカは泣きながらポカリとメッカをはたいた。


「まだ…クルクルしてる彼は、またあとで自己紹介してもらうわ。では…ヤマトヲグナNO1魔法使いアスカです。ガチだから。魔法は任せてね。」


「私はアーシファと申します。アスカさん、どうぞよろしくお願いいたします。」


5人となったアーシファ一同は、クリスタル国、国境ラインをまず抜けることにした。






おばば様は港には向かわず、ゲタルの家へ向かっていた。

ボーガンへの対抗策を考える為に、ボーガン本体を手に入れたいと思っての行動だった。

しかしもうテレポートするだけの魔力はない。

いちかバチかだった。








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