それぞれの旅立ち

朝、王の間にて跪くクロイツの姿があった。

椅子に腰かける王の横には王妃の姿はない。

王にもしものことがあってはならないと、たくさんの兵達が見守る中クロイツは口を開いた。


「王様の命、受け取ります。僕は…一人で行きます。旅の資金を最少で結構です、いただきたいのと、何か武器をください。僕がいち早く各国を平定して参ります。」


答えは昨日から変わらなかった。

世界を平定に行くこと。

それが母が愛した人の下した命である。

ただアーシファだけは絶対に行かせたくなかった。

アーシファのことが好きだから。

ずっとずっと大好きだったから。

王位なんてどうでもいい。

自分が行くとはやく宣言することで、なんとかアーシファだけは救えないかと考えたからすぐに答えを出したのだ。

あの後アーシファの部屋まで尋ねてみたが対面することはかなわなかった。

アーシファは王妃の手により昨晩すでに旅立たされていたのだ。


「クロイツ…我はリザを愛していた。それは今でも…。」


「王様!!………行きます…。」


用意されたものを受け取り、逃げるようにその場を去るクロイツ。


クロイツの母リザは生前、クロイツがアーシファを好きなことにちゃんと気づいていた。

クロイツは素直に真っ直ぐに育った為、見ている誰もが承知の事実だったが。

リザが病気で寝込みだしてから、クロイツはずっと付きっきりで看病していた。

城下町にクロイツ達の家があるのだが、アーシファが度々城から抜け出してきては、リザに、と、自分のオヤツやコックに頼み込んだパンなどを持ち込んでくれていた。

少しでも栄養になるように…と。

すると、さっきまで良い男に育ったな…と感心していた我が息子が、照れたり強がってみたりと年相応の可愛い少年の姿になるのがリザには微笑ましかった。

二人は血が繋がっている、アーシファと子どもをなせないクロイツは、アーシファと結婚することはできない。


「…これも血か…(だけど…)ねぇ、クロイツ。」


「な、なんだよ、急に。」


「ルールなんてね、ぶっ壊して作り直せばいいんだからね。」


「はあ?急に何言い出すんだよ。頭までついにやられたのかよ。」


リザは笑っていた。

亡くなる一週間前のことだった。


「なんで急に…。」


一度、実家に戻ったクロイツは、ふとその時の会話を思い出していた。

母は…クロイツの気持ちを知っていたのだろうと気付いたのはたった今だった。






ブチギレた王妃からアーシファには、三人の付き人がつけられた。

王家の親衛隊の中でも精鋭部隊に所属する二人…と、どうしても!と懇願してきた一人の男。

精鋭の二人は双子でありパッと見、見分けはつかない。

ただ性格には大きな違いがある。

兄であるポッカは頑固一徹一本木な男。

ただ一途に基本に忠実であり、他者と同じ基礎訓練を5倍のスピードでこなすだけの筋力がある。

レムリアン王国の兵として生きることに命をかけており、母親以外の女性と口を聞くことがない。

弟になるメッカは天才型で女好き。

国中の全年齢の女すべてが彼女のような存在(実際にお付き合いはしていない)であり、皆に平等に優しい男である。

アーシファは王家なので例外…とはしない所は、もはや紳士なのかもしれない。

その全彼女達(女性達)を守るために兵士になり、そして天才値の身体能力が精鋭部隊に入れるまでにいたった。

二人は価値観がまるごと違うのでよく喧嘩をしているが、お互いを強く信頼している良き双子兄弟であった。

アーシファも二人がいてくれると心強い。

そしてもう一人の男はまだ新兵で名はステーシア。

20歳の男性で、兵になった理由は…

王家の子が無事に5歳を迎えた時、城下町に降り王から国民達に初めてその姿がお披露目されるのだが、可愛い笑顔で町人に一生懸命手を振るアーシファの姿を見て一目惚れしたからである。

当時、10歳にして兵への道を決め、運動が苦手だったためひたすら努力をし、ちょっと時間はかかったが無事、レムリアン王国新兵となれたのだ。

故にアーシファの話を聞いて、すぐに王妃に直談判したという訳だ。

ちょっと暑苦しいくらいの熱意に王妃はOKを出したらしい。

屈強な男達に囲まれ、たくさんの資金、少しの鉱石を背中に背負い、アーシファは船で旅立った。

なにかあったら鉱石をちらつかせて交渉せよが王妃の作戦だった。


朝日が登る頃、大陸の端っこにあるクリスタル国の首都の港についた。

アーシファの心は決して納得できていない。

当たり前である。

たった一晩で落とし込めるような話ではなかった。

母を愛していると信じていた父には愛人がいたこと。

その人との間に子どもがいたこと。

その子どもが自分の好きな人であったこと。

急に城を出されたこと。

好きな人と争えと言われたこと。

……

考えだしたらきりがない。

アーシファは船で一言も言葉を発さなかった。

皆、心配はしていたがかける言葉が見つからないな。

ただ、海の生物からアーシファを守ること、体を壊さないように休むことなど、最低限それぞれが出来る任務についた。

そんなアーシファがついに言葉を発した。


「綺麗。」


海からの朝日で照らされていくレンガ造りの町並みが、ほぼ鉱石造りであるレムリアンの城下町とはまったく違う美しさを感じさせた。

世界には自分の知らないものがたくさん広がっている。

その美しい光景がアーシファの心を少しだけ癒やした。


「綺麗っすね。」


ステーシアは勇気を出して声をかける。

アーシファは静かに頷いた。


「はいはい、失礼っと。アーシファ様、クリスタル国首都であるこの街は、ゴールドフィルドと言うそうです〜最近は武力に力を入れていて兵訓練学校なども出来たそうですよ。」


間を割って入ったメッカは、軽い口調で説明を続ける。


「王妃様からの情報によりますと、街のトップの方の家は周りより高い場所にあり、他のものより大きく目立つそうですよ。とにかくまずはトップの方とお話をなさると良いかと思います。レムリアン国の王女が来たとあれば心良く迎えいれてくださるでしょう。」


「メッカの提案には賛成だ。ただ時間的に今すぐは相手に失礼であろう。どこかで時間をつぶし、腹ごしらえしてから行くのはいかがでしょうか?アーシファ様。」


ポッカも自分の意見を述べた。


「そうですね…。ではそのようにいたしましょう。出来ることなら話し合いでわかってもらえたら良いのですが。」


「賛成!賛成っす!」


ステーシアはピシッと敬礼した。


こうして、四人はしばらく待ってからゴールドフィルドのトップの元に行くことに決めたのだった。

しかし、話し合いで納得してもらえるなんて甘い考えだったと後で四人は思い知ることになる。

世は戦国時代なのである。

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