義兄に恋をしてしまいました
鳩藍@2023/12/28デビュー作発売
二卵性双生児だった姉さんと僕は、ある一つを除いて何もかもが正反対だった。
明るく社交的な姉さんと、あまり喋らず基本一人でいる僕。
姉さんは大学に進学して企業への就職を決め、僕は専門学校に進学してハンドメイド作家として独立した。
性格も生き方も正反対だが、だからと言って仲が悪い訳ではない。
両親が亡くなった時はとにかく二人で協力しなければやっていけなかったし、社会人になってお互い生活に困らなくなってからは、程ほどの距離感で付き合っていた。
そんな姉さんと僕のほぼ唯一と言っていい共通点は――男の趣味だ。
優しくて、落ち着きがあって、頼りになる年上。
もっとも、僕がゲイであることを打ち明けはしなかったから、姉さんは知る由もなかったけれど。
『初めまして、
だから最初に健さんを紹介された時、この人と家族になれる喜びと、家族以上になれない絶望を同時に味わう羽目になった。
『今日ね、健さんと映画行って来たんだー。ホラ、今話題のさ――……』
姉さんが僕に健さんとのデートを嬉々として語るのが、本当は嫌で堪らなかった。
――でも、姉さんは僕のたった一人の家族だから。
家族の幸せのために、僕は姉の結婚を祝福する、ごく普通の弟でいた。
二人の新居への引っ越しが決まった時は、お祝いとして革紐で編んだお揃いのブレスレットを送った――こっそり、健さんとお揃いのものを自分用に作ってからだが。
そうして、姉さんは一緒に暮らしていた部屋を出て健さんと暮らし、僕は一人で仕事をしながら時々二人と食事をしたりなんかして、少しずつ自分の心に折り合いをつけていくはずだった。
――姉さんが、死ぬまでは。
死因は心筋梗塞。職場で倒れて病院に運ばれたが、帰らぬ人となってしまった。
『夏樹、夏樹、なあ、起きてくれよ、早起きは得意じゃないか、起きて、起きてくれよぉ』
病院に駆け付けた健さんは、そばに居た僕に見向きもせず、病院の人に止められるまで姉さんを揺すっていた。
――ああ、いいなあ。
僕には、姉さん以外家族はいない。友達も、恋人もいない。
僕が死んでも、悲しんでくれる人はもういない。
――僕も、こんな風に愛されてみたい。
姉さんの亡骸に縋る健さんの背中に、そんな不謹慎なことを願ってしまったせいだろうか。
『瑞樹くん、お願いがあるんだけど』
葬儀を終え、棺桶に蓋をする直前に、健さんは僕にこう言った。
『これ、棺桶に入れていいかな』
健さんが差し出したのは、僕が作った革紐のブレスレットだった。
『夏樹、寂しがり屋だからさ。俺の代わりに、連れて行って貰いたいんだ』
虚ろな目で笑う健さんに、僕は頷くことしか出来ず。
寄り添うように重ねて棺に入れられたブレスレットは、灰になって混ざりあい、真っ白な一つの輪になった。
納骨を終え、健さんと別れた後。部屋に戻った僕は真っ先に引き出しにしまってあった革のブレスレットを取り出し、台所のシンクに置いた皿の上で、ブレスレットにライターで火をつけた。
「……もっと、頑丈なものがいいな」
ヴーン……と無機質に唸りつづける冷蔵庫に背を預け、煙を上げながら燃えていくブレスレットを眺める。
「こんなのじゃなく、もっとしっかり、あの人を繋ぎとめられるもの」
革の燃える臭いが鼻をつく。煙で目が痛くて、換気扇をつけた。
「手枷……いや、首輪もいいなぁ。あの人を、逃がさないように」
緩慢に目覚めた怪物の
「繋ぎ留めなくちゃ――姉さんの、代わりに……僕が」
僕の後ろで、ブレスレットが真っ黒な輪になって燃え尽きた。
義兄に恋をしてしまいました 鳩藍@2023/12/28デビュー作発売 @hato_i
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます