わたしの愛する否定形


先生、雨が降ってさみしくなるのは、感受性の問題だって言っていた。

夕暮れどきに、方向感覚を見失うときがあって、

アスファルトには、落とし穴がいっぱい。

目玉焼きを割って、素敵な盲目になりたいのに、

それは体にわるいから、あなたのためよって母さん、雨降るように言う。


すくうみたいに息をするから、匙が必要だった。

手足がみじかいので貝殻もようの、服ばかり着ている。

窓を開けたまま眠るなんて、天国にちかい気がして。

カーテンに空が透ける、空にカーテンが透ける。

わからないことは、だれが教えてくれる? 

曖昧にしか、とらえられない目玉はレプリカで、

重みに耐えかね、そこだけくらがりに落ちるよ、瞳孔。

揺らめきのさなかを、カモメがすうとなじんでいく。

ひょっとして空に、交通規則はないのかもしれない。


夢ではないと気づいたとして、晴れることのない、しろい霧。

おしまいってなんだか、すこしおかしな響きで、

笑ったらそこにあること、薄くなるよ。

これも感受性の問題なの? 

ゆるされた否定形の、耳のさきがかわいい。

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