改札のまえの。


改札をうまく通れないときの、赤信号のような。瞬く間に飲まれてしまうのを怖いと思わないのは。不自然なぶん軽やかな呼吸で、わたしは向日葵を見上げていた。


遮るものはなにも外側ばかりではなく、皮ふのうちにも、川は流れているから。痛みを予感して渡れない、つま先が乾かないように浸していた。


ただ、絶えまなさのほとんどが、魚の群れだったことに気がついて。口からこぼれたスイミーを、どうにか救いたいと思ったんだ。


大丈夫、わたしはここにあるから、と。点として雨が降るから、そのひとつに同情もしたんだろう。明滅する光を、できるだけ遮りたくて手を振った。手、は退屈すぎてちぎれてしまいたかったな。


嘘ばかりが目の前を駆け抜けて、鮮やかなのは嫌だなと思った。踏みつけるタイルはどれも似ているくせに、ひとつずつはやはり違っていて。空気の白っぽさに紛れて、残像になったよ、人びと。


ゆるやかな警告音のその先で、待ち受けているものがあって。指の震えを止めるために、どこか、と書かれた切符を買った。


そう言えば、嘘の賞味期限も近かったな。いつまでもささやかでは、いられないのだから、もうじき列車も来るだろう。


人びとの呼吸が速くなるのを聞きながら、わたしは対岸を睨みつけていた。そちらでは、靄がしきりに笑っていて。どこか、を踏みつけるための一歩を、ざっ、と川底から引き上げた。

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