第20話 勝ち



分身のイチコさんが格闘ゲーム、ストリートバトラーを練習しはじめた。

起動するPZ5、俺の知る数年前のゲームとは違うそのゲーム画面に驚きを禁じ得ない。


「なんというか、すごいな」

「すごい?」


キャラクター選択画面で誰でプレイしようか迷っていたイチコさんが俺の言葉に反応した。


「いや、俺が昔やっていたゲームとは全然違うなって」

「そうなの?」

「ああ。なんていうか、画面が綺麗だ」

「画面か......傑さんはなんのハードでゲームしてたんだ?」

「ん?俺はPZ3」

「おお、そりゃ全然違うね」


そう言いながら、カチャカチャとコントローラーを操作し、技を確認し始めだした。

にこにこと笑ってるイチコさん。ホントにゲーム好きなんだな。ずっと楽しそうだし。


「へえ、色んなキャラクターがいるんだな」

「いるよ〜。タイトルが出る度に新規キャラクターは追加されるからどんどん増えていくよね」

「どんどん増えていくのか」

「どんどん、どんどん増えていくよ」

「どんどん、どんどん、どんどん増えていく?」

「どんどん、どんどん、どんどん、どんどん増えていくんだよ!」

「じゃあ、どんどん、どんどん、どんどんどんどん、どんどんって事?」

「そりゃあどんどん、どんどん、どんどんどんどんどんどん、ど〜んどんと増えるんだよ〜」


「いやストップストップ!なんですかそのラリーは!卓球か!?」

「「あははは」」


キッチンからこちらに来たエマさん。彼女のツッコミが入り俺とイチコさんが爆笑する。どんどん。


「はい、どーぞ......傑さんは珈琲で、イチコはメロンソーダ」

「ありがとう、エマさん」「ありがとー」


テーブルに置かれた飲み物をごくごくと飲むイチコ。ぷはぁ、美味しい!とご満悦でニカッと歯を見せて笑う。なんか妹というより弟感があるな。


その時、実家にいる弟を思い出した。家を出た頃はまだ小さかった弟。もうだいぶ大きくなっているんだろうな。


「どうしました?傑さん......珈琲の気分じゃ無かったですか?」

「え?って、おおっ!?」


心配そうに顔を覗き込むエマさん。気がつけば近い位置にあった彼女の顔に思わず身を引いてしまった。


「な、なんで逃げるんですかっ」


悲しげな表情で戸惑う彼女。


「あ、いやごめん、考え事してただけで!逃げてないよ!」

「逃げましたよ、絶対に!」

「逃げてないから、絶対!」

「いや、逃げてたもん」

「なんでさ!?逃げてないのに!」

「......逃げてたし」

「にーげーてーなーいー!」


ぷっ、くく......と笑い声がした。


「いやラリー始まってるし」


イチコさんが「落ち着きなよ」とゲームしながらくすくす笑った。いや確かにな。


「イ、イチコの言うとおりですね。すみません、聞き分けなくて」

「あ、いや、こっちこそ」


しゅんとするエマさん。ぬあっ、これは無駄に落ち込ませてしまっている。


「......さっきのは、ちょっと考え事してて。エマさんが近くにいるのに気がついてなかっただけで、だから驚いて反射的に離れちゃっただけなんだよ。ごめん」


「あっ、な、なるほど......そっか。ごめんなさい」


「よっしゃ、これで仲直りだな!そろそろ相手してくれない?傑さん」


イチコさんがそういって俺をみる。にやりと笑いながら。


「相手?」

「うん。はい、傑さんはこっちのパッド使って」

「......え?」

「あ、もしかして傑さん1P側がいい人?」

「いや、そうじゃなくて!」

「えー、もしかしてまだエマといちゃつきたいの〜?」

「!?、ちょっと、イチコ何言って......」


「あはは、慌ててら」


ケタケタと笑うイチコさん。たいしてエマさんは恥ずかしそうに頬を赤く染めていた。


「ほーらー、はーやーくー!」


ぺしぺし、とイチコさんは隣に来いと床を叩く。


「わかったわかった!でも、あれな。一回だけだぞ」

「えーっ」

「えーじゃありません。わがまま言うなら、やらないけど」

「はいっ、一回でいいです!わがまま言いませんっ!」

「よろしい!」


「え、親子?」


まるで父と息子のようなやりとりにエマさんが思わずそうつっこんだ。


「よっしゃ、じゃあお父さん使うキャラクター選んでよ」


ノッてきた!?エマさんがギョッとした表情でイチコさんを二度見した。普段しない反応でちょっと面白いな。よし、俺もここは父親役になりきっていくか。


「はっはっは、待ちなさい。そう慌てるんじゃないよ、


また驚愕の表情でこちらをみてくるエマさん。俺はカチカチとコントローラーでキャラクターを見ていく。


はどのキャラ使うんだ?」


イチコさんはさっき色々とみていたからな。もしかしたらもう強いキャラクターがわかっているかもしれない。あまりゲームをしない俺が彼女と遊ぶにはキャラ性能は重要だろうし、できるだけ強いのを選びたい。


あんまり俺が弱すぎて相手にならなかったら彼女もつまらんだろうしな......ってか、イチコさん反応なくない?どうした息子(役)よ。


隣を見てみると、さっきのエマさんが比にならないほど顔の赤いイチコさんがいた。


(えええっ!?どーした!?)


画面をながめながら、なぜかぼーっとしている。心此処にあらずってやつか?


「だ、大丈夫か......?」

「ぐはぁっ!!」


どたーん!と横に倒れ込むイチコさん。どうした!?


「傑さん、対戦画面に入る前にイチコを倒してしまうなんて......恐ろしい人」

「まだなにもしてないけど!?」


戦ってもいないのに何故か1勝した。



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