第19話 妹



――エマさんが家に来てから一ヶ月が経った。


「見て下さい、傑さん!」


どーん!と口での効果音と共に出てきたのは、PZ5というゲーム機だった。


「おお、これは......」

「ふふん、どーですか!」

「いや、なにをドヤられてるのかわからんけど、すごいね」

「んなっ!?」


目を見開き、がーん!とまたもや言葉で効果音を放つエマさん。


「これ手に入れるの大変だったんですよ!未だ品薄状態で、やっと購入することができたんです!」

「ああ、そういう......」


そういや少し前に話題になってたな。確か、買い占める奴がいてそれで品薄になってたとか。


「ゲームとかあんまりしないからなぁ」

「マジですか!?」

「だってエマさんこの家でゲーム関係のモノ見たことある?」

「はっ、そういえば......だからこのPZ5を購入したんでした」

「ああ、そうだったのか。しかし、どうしてまたPZ5を買ったんだ?なにかやりたいゲームがあるのか?」

「それはですねえ、実は企業案件でストリートバトラーというゲームのイメージキャラクターに起用していただきまして」

「マジで!?」

「あ、さすがにストリートバトラー知ってますか」

「格闘ゲームだよな。さすがにそれは知ってる。イメージキャラクターか......じゃあエマさんもかなりの腕前なわけだ?」

「勿論です!」


にやりと悪戯な微笑みを浮かべるエマさん。


「一度も触ったこともありません!」

「いやないんかい!」


ふっふっふ、とドヤ顔をみせる彼女。


「何を言ってるんですか、傑さん。だからこれから暇見てちょこちょことプレイするんですよ〜」

「いやなんで偉そうなん......って、ん?」


そこでふと気がついた。


「これって一応アイドルの仕事だよな?アイドル担当の分身がいるんじゃないっけ。そのエマさんにやってもらえば良いんじゃないのか?」


俺がそう聞くと彼女は「あー」と頷く。


「ロコですかぁ」

「ん?ロコって?」

「分身体の名前です。最大で六人の分身体が作れるんですけど、それぞれ名前をつけてるんです」

「へえ、そうなんだ。それでアイドルやっている子はロコさんていうのか......」


「はい!ちなみにですね、それぞれ性格も違うんですよ。イチコは強気な男勝りで、ニコはいたずらっ子。ミコは臆病で大人しくて、コヨは元気いっぱい明るい子、イツコはちょっと病んでて、ロコはクール......そしてそれら全てが混ざって私になります」


「ほほう。なんか姉妹みたいだな」

「はい、まあ姉妹みたいなものですねえ。寂しくなった時とか会話相手に来てもらったりと色々お世話に......って、話がそれましたね」


ぴーん、と獣耳が真っ直ぐ伸びた。


「それでアイドルの担当をしていただいているロコなんですが、忙しくて練習するどころでは無いみたいなんですよ。なので、私がかわりに練習しておこうとそういう感じです」

「なるほど、そういう感じですか」


「それにロコはそもそもゲームとか苦手なので」

「分身体に得意不得意あるんだ」

「私がそうデザインしました」

「お前がしたんかい」


「なので、後々私とロコが入れ替わりますのでよろしくお願いしますね」

「......え?」

「私のかわりに家事をしてもらいますので......って、もしかしてたまには一人になりたい感じですか?」

「いや、そういうわけじゃないけど」

「ロコも傑さんに会いたがっていたので、もしよければ遊んであげてください。喜びますよ」

「そっか。......一応きくけど、ロコさんもエマさんなんだよな?同一人物」

「ですです。ちゃんと繋がってはいるので、もし私本体に用事があればロコに伝えてください」

「わかった」


なんだろうか、この感じは。まるで家の行事でたまにくる親戚と会うような......妙に緊張する。ちゃんと話せるかな。

いや、話せるか。だってエマさんには変わりないんだし。


「ちなみに好きなものはプリンです」

「好きなものまで違うのか」

「私の好きなもののうち一つがそれぞれに割り振られています。つまり私もプリンすき」

「そういうわけか」

「そういうことです」


「しかし、まあそういう事ならさっそくストリートバトラー練習したらどうだ?」

「え、うーん.....」

「?、なにか問題があるのか」

「いえ、せっかく傑さんがお休みなのにゲームにいそしむというのも......分身体だしちゃお」


ボン!と煙が爆散する。その中から現れたのは、エマさんとそっくりの白髪ショートヘアの女の子。って、あれ?髪型違くね?


「分身体、一尾のイチコです!」

「どもどもー」


ぺこりとお辞儀をするイチコさんと呼ばれるエマさんの分身。


「あ、イチコさんはじめまして.......じゃないか」

「じゃないよ、ははっ」


あ、笑った顔そっくり。って当たり前か。


「ていうか、イチコさんはショートなんだな」

「はい!見分けがつくように」

「へえ、ショート似合うなぁ」


そういうとイチコさんは俺から目を逸らし赤面した。


「あ、ありがと」


うわー、なまらめんこい。


「イチコはですねえ、ゲームがわりと得意なんですよ」

「そうなの?」

「......ふぇ!?あ、う、うん」

「あらまあ、緊張してますねえ、この子。あはは」


ホントに妹みたいだな。


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