第17話 雪煙
ビュオオオ――
吹き荒れる風が、大量の雪を巻き上げている。
夕方、体の怠さが増してきた。なんとか仕事が終わり、帰路についた俺だったが、部屋までたどり着けることができるのだろうか。
雪が顔に張り付くようにあたる。いや、実際はりついている。髪がバリバリに凍りつきかたまっていた。
朝と昼はあれだけ快晴だったのに、夕方に移行するにつれ天候は荒れ始めた。あっというまに視界がホワイトアウトするほどの雪が吹き荒れ、俺はその中を歩いている。
(......これは、町中で遭難しちゃうな......)
寒い。物凄く。
仕事でかいた汗が冷えだして、余計に寒い。しっかりとコートの襟を閉じているにも関わらず、他の隙間から冷気がどんどん入ってきて体温を奪い始める。
体調の悪さもあり、余計に寒く感じるのだろう。いや、このレベルの寒波なら同じか。
しかし、マジで足が前に進まない。積もった雪は膝上あたりまである。まあ、そりゃ進みにくいし、進まないか。
靴の中に入り込む雪も溶けては熱を奪う。しかし消えることは無く、一歩進むごとに更に雪が入り溶けては.....という繰り返しだ。
履いてきた長靴もたいして意味をなさない。入口を紐で縛り、雪の侵入を防ぐ長靴もあるが......それは家に置いてある。間抜けすぎる。まさにそれが今必要とされているのに。
(......疲れた......)
ふぅ、と電柱に背を預けた。ちょっと一休み。
うつらうつらと睡魔の影がちらつく。
――あれ、これ......ちょっとヤバい?
こんな悪天候は何度も経験している。だから、いつもであれば根性で部屋までたどり着けているのだが......。
体調が悪化してるのか。そういや、鼻水が異様にでて......ティッシュは。
ポケットを探るが、からのビニールしか無い。
やっべえ、もうティッシュねえ......雪で拭うか?さすがにこの状態でそれしたら死ぬか?
と、とにかく......帰らないと。
ぐっ、と脚に力を入れる。
.......?
しかし、そこに凍りついたかのように動かない。
(......ううむ......)
力が入らなくなってきたか。
ずるずると背にした電柱の元に腰をおろした。
目の前には道路があるが、こんなに荒れた天気で外出する人はそうそういないし車は通らない。こんな田舎町となればなおさら。
......靴の中がしゃっこい。
ふと、瞼を閉じる。
その時、俺は驚く。何も考えずに閉じた瞼の裏に映ったのが、エマさんの顔だということに。
俺が思っている以上に、俺は彼女の事を......。
思えば、仕事中や昼食、こうした帰宅時にも、ふとした時にエマさんが思い浮かび考えることが多くなっている。
色々な事で助けてくれて......もう、俺に受けた恩なんか比べ物にならないほどの事はしてくれている。
......俺も、なにか返さないとな。
......。
意識が途切れかけた時、揺れを感じた。
ゆさゆさと、俺の体を揺らす何か。
「傑さん、起きて下さい......傑さん!」
目を開けるとそこにはエマさんがいた。
険しい顔をしてこちらをみている。
「ただいま」
「まだ外です。はい、傑さん」
鼻に当てられたティッシュ。垂れていた鼻水を拭き取ってくれる。ちょっと恥ずかしい。
(あれ、寒くない?)
気がつけば体についていた雪は無くなっていた。多分彼女がほろってくれたんだと思う。
それに俺の首にはネックウォーマーと家に忘れていったはずのマフラーが巻かされていて、さらには濡れて凍っていた俺のニット帽は無く、かわりにエマさんの白いニット帽が被されている。
「さあ、帰りますよ、傑さん」
「......あ、うん......」
ぐっ、と脚に力を入れる。けれど立てない。少し休んだから歩く体力くらい戻っているかと思ったが、全然だめそうだ。
「傑さん、もしかして......立てないんですか?」
「......ごめん、ちょっと.......もう少し休んだら、多分大丈夫だから」
「休むのはお家帰ってから、ですよ」
そういうと彼女は俺の体を抱きかかえた。
「お、重いだろ」
「大丈夫、呪力で体を強化してますから」
お姫様抱っこ状態の俺。伸びたふさふさの尻尾で頭を枕のように支えている。恥ずかしい、けど......文句は言えないよな。
そんなことを考えていると、だんだん体がぬくくなっていくのを感じた。
「......あれ、ぬくい」
「呪力を熱エネルギーに変換してます。では帰りますよ〜」
「熱エネルギーにって......そんなに消費してたら、またすぐに無くなっちゃうんじゃ.......」
「肉体強化、熱変換......傑さんにいただいた呪力量的に全く問題ないですよ」
あれ、なんかこころなしか言葉がとげとげしいような。
「例えるなら、浴槽いっぱいに満たした水を頂いた呪力だとして、いま消費したのはティースプーン1杯くらいです」
「......うん」
「やっぱり、体調悪かったんですね、朝」
「まあ、少し......こんなに悪化するなんて思わなかったけど」
「なぜこんなに大量の......体調が悪くなるほどの呪力を供給したんですか......」
見上げたエマさんの顔。目元が赤いことに気がついた。
多分、物凄く心配かけたんだろう。申し訳ないな......。
「......ごめん......エマさんが、消えちゃうかもって思ったら......たくさん渡したくなって」
彼女が消えるかもと想像したとき、俺は本当に怖かった。
「......ごめんね、エマさん......心配かけて」
そういうと、彼女は瞳を潤ませていた。
「......ほんとに、心配したんだから」
ぽたりと俺の頬に涙が落ち、伝った。
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