第15話 ハイタッチ



 エマさんとの夕食が終わり、鍋や皿を片付ける。「私がやるので休んでいて下さい」と言われたが、これだけの事をしてもらってただのんびと座っているわけにもいくまい。


 キッチンへとお盆に乗せた食器を持っていく。これはあれかな?俺が皿を洗ってエマさんが拭いてって、仲良く皿洗いできちゃうやつか?仲良し夫婦の定番か?


 まさか皿洗いでこんなにもわくわく出来てしまう日が来るなんてな。数年前の俺に教えてやりたい。


「......ん?それは?」

「あ、これですか?」


 流しの脇に置いてある謎の黒い箱。というより、スイッチみたいなのがあるから多分機械なのだろう。


「これはですね、食洗機です!」


 どやぁ!と胸を張るエマさん。


「こ、これが......話には聞いたことがあるが、これが食洗機なのか!」

「そーですよぉ!奮発して買っちゃいました!これで食器洗いが超楽ちん!全自動なので、傑さんとの時間も増えてダブルハッピー!」

「な、んだと......それほどまでに便利な機械なのか!?」

「はい!食洗機はガチですよ。くくく」


 なんて悪い笑みなんだ......全然悪いことしてないけど。


 しかし少し残念でもある。いや、彼女の負担が少ないに越したことはないが、妙な妄想を抱いて期待していた分、寂しさが残った。


「これでセットよーし!はい、傑さんもぉ.....せーの」


 二人して食洗機に指をさす。


「「セットよーし!」」


「いやなんだこれ」

「あはははっ」


 ......めんこい。


 突然だが、俺は車の運転が上手いほうじゃない。


 今日の路面は積雪が多かった。こうなった路面というのは、でこぼこな道になりやすく下手をすると車があずって動けなくなってしまう事がある。


 運転の上手くない俺は案の定、車をあずらせてしまいスコップで車輪を掘り出す余計な仕事をするハメになった。


 ただでさえ冬道は気を抜くと大事故になるので、常に気を張り精神的にまいってしまう。それに加え、あずった車輪の雪掘り。


 実は今日はかなりくたくたで疲労困憊だった。


 でも。そんな日でも、エマさんと居ると......


「はいはい、傑さんこっち来てください!今日もお疲れでしょう、マッサージしますねえ」

「え、そんな......エマさんだって色々やって疲れてるでしょ」

「私は大丈夫です!これでも妖ですからね!体のつくりが違いますよ〜!」

「そう、なんだ」

「それに、まあ......ほら」

「?」


 ちらりと上目遣いでこちらを見るエマさん。


「後で、呪力で元気にして貰いますしぃ......?」


 照れっと頬を染める彼女。あーあ、なまらめんこい。


 ......ほんと、この人といると疲れなんて吹っ飛んじゃうな。


 ぎゅう、と腕を掴み彼女は布団まで連れて行こうとする。


「ほらほら、いきましょーよ!私、嫁入り修行でマッサージ師の資格とってるんで自信ありますよ。ふふん」

「......それ、嫁入り修行に含まれてるんだ」


 色々と運の悪い俺だが、彼女と......エマさんと出会えた事だけはこの人生で一番の幸運だと思った。



 ――



 マッサージは気持ちよくなって眠ってしまう恐れがあるので、歯磨きなどを済ませてからにした。シャワーを浴びたり、寝る前の準備をてきぱきとこなしていくエマさん。


 その動きをみていると要領の良さが伺える。だがしかし、また別の顔も見えてくる。


「あれ、テレビのリモコンは......」

「エマさん、右手に手に持ってますが」


 布巾でテーブルを拭いていた際、右手で持ち上げたリモコンを持ったまま存在を忘れ、探したり。


「あの、エマさん」

「はい、なんですか傑さん?」

「その、非常に言いにくいのですが......パジャマの下、裏返しでは」

「え......ああっ!?ホントだぁ!?」


 と、そんな具合に抜けている所があったり。テレビやYooTubeでポンと呼ばれたりしていたが、あれはキャラ作りではなく天然であることが判明した。


(まあ、そういうところもめんこいんだが)


 そしてリビングの電気を消して寝室へ。俺は彼女に促されるまま背を向け寝転がる。


「ではでは、いきますよ〜......リラックスしてくださいね」

「お願いします」


 ぐっ、ぐっ、と軽く手のひらで背中全体を圧し始めるエマさん。圧すたびに「ふっ、ふっ、」と小さな声が漏れ出している。それがまた一生懸命さがわかり心地よさにプラスされていく。


 愛情のこもった手のひら。温かいな。


「気持ちいいですかっ、」


「うん、すごく気持ちいいよ」


「えへへ、良かったです」


 それから数分後。エマさんの力が弱くなってきて、やがて頭を俺の背についてしまった。


「エマさん?」


「......すぅ......すぅ......」


 寝息をたてている。疲れたのか寝落ちしてしまったようだった。


「寝てる......あ」


 キス、してねえ。今からするか。寝てても大丈夫だよな?


 顔をこちらに向ける。


「うわぁ......寝顔、綺麗......」


 まるで血の通う人形。そう錯覚するような、精巧な美しさ。


「......唇に......」


 彼女の唇へと目をやると、途端に恥ずかしさがこみ上げてくる。多分、エマさんだからなんだと思う。


 あの画面の向こうの住人が、誰もが憧れる女性アイドル。


(......だ、だ、だめだ。寝てる相手にするのは違う気がする......)


 ――呪力が無くなった私だけが消えます。


 過る、台詞。


 その瞬間、恐怖心がこみ上げてきた。


 俺......エマさんが消えるのは、絶対に嫌だ。


 ――俺は、気がつくと彼女に唇を重ねていた。




 ――



 その頃の九尾会議室(※エマの精神世界)では。



「「「「「いえーい!!」」」」」



 パーン!と、尻尾達がハイタッチして盛り上がっていた。





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