第7話 ぬくぬく



 ――はっ、エマさんのあまりの可愛さに情緒が不安定に......!


「でも......いいですよね?私、一緒に寝ても......」


 こてん、と首を傾け潤んだ瞳で見つめてくる。これは殺しにきてるな。


「あ、いや、でも」


 ぽふっ、と俺の胸にからだを預けるエマさん。


「十年ぶり、なんです。甘えさせてください」

「!?」


 あ、甘えるって......甘えるの!?どういう意味だ!?


 見上げるエマさん。その懇願する眼差しは俺の本能をダイレクトアタックしてくる。良からぬ想像が脳裏を駆け巡り期待へと変わっていくのを感じる。


 人の温もり、恋しい思いが彼女に触れることで本能的に湧き出てくるのだ。もはや俺に抗うすべは無い。

 戸惑いながらも小さくうなずいた。


「......はい」

「やたっ!」


 いえい!と小さくピースをするエマさん。


 だが、しかし。いくら本能が彼女を求めていたとしてもさすがに手を出すわけにはいかない。

 なぜならば彼女はまだ十七歳。手を出せば犯罪になってしまう。


 会社をクビになるのは困るし、なんなら普通に社会的に死ぬ。


 そう、添い寝をするだけ......ただ、それだけだ。


「えっへへー、傑さんと一緒に寝んねでっきるぅ♪」


 くるくる回るエマさん。パジャマの隙間からふさふさでもふもふの白い尻尾が出ていて、ぱたぱたとごきげんに振らさっていた。その時ふと一つの疑問が湧く。


(......妖って、どうなの?)


 もしかして、セーフ?犯罪ならない?かすかな妄想が俺の脳裏に過る。が、瞬時に首をふりかき消した。

 いや、だめだだめだ!彼女は人間社会で生きているんだぞ。なら人間のルールが適応されるだろ!?


 そもそもちゃんと籍を入れてるわけじゃないし......って、そういや妖と籍入れられるのか?


「なにぼーっとしてるんですか、傑さん!早速寝ましょう」


 時計を見ればもう二十三時を過ぎていた。明日も仕事なので確かに寝なければまずい。


「あ、ああ、うん......ね、ね、寝るか」


 俺はリビングの電気を消し、寝室へ戻ってきた。ストーブは寝室に無いので、基本的に扉は開けっ放しだ。


 俺は布団に入り、枕に頭をのせ横になる。


「......は、入らないのか?」


「はい!ただいま」


 そういうと彼女は寝室の電気を消した。カーテンをした部屋だが、外の電灯が近いため電気を消しても完全な暗闇にはならない。


 なので見間違えでなければ、彼女は......エマさんはパジャマを脱ぎ始めている。


(えええええーーーー!!あ、甘えるってやっぱり、そういう......!?)


「あ、あの、エマさん......何をされてるので?」


「......甘える準備ですよ。恥ずかしいので、あまり見ないでくださいね」


 甘い声で、恥じらいながら囁くようにそう言った。


 あ、これ......やべえ。


 ファサッと彼女の着ていた物が床に落ち、俺の顔にかすかな風があたる。上と下、更には下着のようなモノまで脱ぎ始めているようだった。


「......」

「......」


(......間違いない、これは......する気だろ)


 お、落ち着け、俺。イメトレはいつもしてるだろ。ついに実戦に挑む時がきたんだ。練習通りやるだけ......えっと、これから何をどうすりゃ良いんだ?だ、駄目だ思考できない!


 というか俺にもこんな日が来ようとはな。もしかすると生涯独身貴族かなと覚悟を決めた事もあったが......ついに男として戦地へ赴く日がこようとは。


「ふぇ、......へくちっ!」


 エマさんがくしゃみをする。寒いんだろう。だって全裸だし。


「今日はホントにし、しばれるねえー......布団に、は、入ったら?」


 緊張で声が上ずっとるがな!は、恥ずかしぃい!!


「はい!」


 そんな俺の心とは対象的に彼女の声は明るく、嬉しそうだった。


 ふと、考えてしまう。十年の約束を守りにきた彼女。果たしてこのままいたしてしまって良いのか?

 彼女の事を知りもしないで、ただ欲望の捌け口にしてしまうのはどうなんだろう。


『だから童貞なんだよ』、と学生時代に親友に言われた事を思い出す。でも、相手を知らずにするその行為って......寂しくないか。


 これは、俺の価値観の問題かもしれない。


 相手は妖だ。価値観が違うかもしれない。


 でも、彼女に対して好きという感情が生まれるまでは、しないほうが良い......気がする。


(......嫌われるかな。服まで脱いでるんだ......でも、言わなきゃ)


「――あのエマさん」


 ――ポンッ!!


 突如、彼女は呪力の煙を発した。一瞬でそれが霧散し、現れたのは小さな白狐だった。

 サイズ的にはミニチュアダックスフンドのような犬くらいの大きさで、長くもふもふとした尻尾が七本生えている。


「いえい!傑さんのお布団へ潜入〜!」


 もぞもぞと布団に潜り込んでくる。やがて俺の胸元まできて顔を掛け布団から出す。


「どうですか?妖狐の姿の私!ぬくくないですか!」


 ふさふさの白い体毛。彼女の使っているボディーソープのフローラルな香りが心地よく、艷やかな毛並みは抱き心地も抜群に良い。


「って、さっき名前呼びましたよね?なにかありましたか?」

「あ、いえ。風邪ひいたらマズイかなぁって」


 ぱたぱたと布団のなかで彼女の尻尾が暴れる。


「うぅ、傑さん優しいです」


 すりすりと胸に頬ずりするエマさん。


「ほらほら、ぎゅ~って抱きしめてください!なまらしばれてますからねえ、ぬくくして寝てくださいよぉ〜!えへへ」


 ......いや、恥ずっ。無駄に煩悩と戦ってしまった。


「どうしたんですか?一緒に寝るの嫌でしたか......?」

「いや、そういうわけじゃないよ。妖狐ってこんなにぬくいんだとおもってさ」


「ちっちっち!妖狐がぬくいんじゃなくて、私だからぬくいのです!」

「え、そうなの?」

「そーなのです!だって、私の中には傑さんへの愛情がたくさんつまってますからねえ!ほかほかですよ」


「なるほど。そうなのか」

「そうなんです!だからいっぱい抱きしめてくださいね?えへへ」


 ......何かが満たされていく。


 この日、俺は久しぶりに頼らず眠りに落ちることができた。





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