第3話 二人でコンビニ
「来たばかりで悪いんだが、今日の夕食はコンビニで良いかな?」
「コンビニですか」
「冷蔵庫に食材が無いんだ......もう時間も遅いし」
「なるほど、了解しました!」
「ごめんね」
「いえいえ、なんもなんもですよ!」
彼女はにこっと微笑む。
よし、まだコート着てるからこのまま行ってこようか。
「エマさん、何が食べたい?」
「?、何故ですか?」
「買ってくるから」
「なして!?私もついていきますが!?」
ええっ!?とオーバーリアクションでのけ反るエマさん。
「でも外しばれてて寒いし」
「だいじょーぶですよ!ほら、私ネックウォーマーと手袋あるし」
そう言い、彼女はひらひらと白い手袋を得意げに見せてくる。
「けど、アイドルと一緒にいるとこ......店員に見られたら不味くないか?」
「えー、大丈夫ですって!口元までネックウォーマーかぶしたらわかんないですよ。それに」
「?」
唇をツンと尖らせるエマさん。
「それに、せっかく傑さんに会えたんだし。離れたくないです」
お、おお、何これ反則レベルにめんこいんだが。
「わ、わかりました」
「やった!」
にひひ、と心底嬉しそうに彼女は微笑んだ。
『可愛い』『美しい』『綺麗』それらの言葉はこの人の為に作られたんじゃないか。そう錯覚を覚える程の......本当に『アイドル』なんだな、エマさんは。
――
星が綺麗な縛れる夜。ざっくざっくと少しだけ積もった雪を踏む。
いつもなら一人の足音だけだが、今日は違った。
隣からも聞こえてくる。エマさんが隣で、一緒に歩いてる。
「ん。なぁに?どーしたんですか?」
俺の肩より下にあるエマさんの顔。見上げてくる彼女はこてんと可愛らしく首を傾げた。
寒さで頬と鼻が赤くなっている。
(......うーん、超絶なまらめんこい。恥ずかしくて直接は言えないが)
「.....いや、なんも。ってか、あれ?ネックウォーマーは」
そう聞いた瞬間、彼女の細い切れ長の目がカッと大きく開いた。
「あ、忘れた」
「......ぷっ」
「な、なに笑ってるんですかっ」
「いやいや、だってあれだけドヤ顔でネックウォーマーあるから大丈夫だって言っといて!くくっ」
「う、うるさーい!」
どん、と彼女は肩で体当たりしてくる。って、あれ?そういや手袋も無くないか?この子、もしかして以外に天然なのでは......。
「い、いつまでニヤニヤしてるんですかっ!」
「あはは、ごめんごめん。悪かった」
あれ、つーか笑ったのっていつぶりだっけ。随分久しぶりな気がする。
「あ、コンビニついたぞ」
「おー、こんなに近場にあるとは!徒歩五分たらず!ナイス立地!」
「その少し向こうにはスーパーがあるよ。ま、だいたいコンビニで済むから特に行かないけど」
「......その感じだと、毎食コンビニ弁当ですか?」
「失礼なカップ麺とコンビニ弁当とお菓子のバランスの良いローテだ」
「それなんて魔の三角地帯!体調に異変が現れる前に引き返してください!」
「大丈夫。今ん所なんとも無いから」
「いや、それ異変が現れてからじゃ遅いやつ......」
コンビニの扉を押し開き、中へと入る。
......困らせてるのかな。ちらりと彼女の表情を伺うと眉を八の字にして心配そうな表情を浮かべているのが見えた。しまった。正直に答えすぎたか。
(つーかラッキーだな。客が俺とエマさんしか居ない......あ、そうだ。酒も買っとくか)
吸い寄せられるように左手奥へと向かう俺。その後をとことこエマさんがついてくる。そしてたどり着いたお酒コーナー。
冷蔵庫の透明な扉一つに隔たれたその向こうにはアルコールの楽園が。
隣をみればエマさんも俺と同様、じーっとお酒を眺めていた。
「そういやエマさんは酒とか飲むのか?」
「え?お酒ですか......飲んだことはありませんね」
「そうなのか」
「はい」
「あれ、ていうかエマさんて何歳なんだ?」
「歳ですか。そーですねえ、人間的にいえば十七歳くらいでしょうか」
「おお、めちゃくちゃ若いな......人間的には未成年て事になるのか」
「まあ、人間的には......って、なんで青ざめてるんですか。私は妖ですよ」
「あ、そっか」
妖怪なら人間の枠で考えない方が良いよな。てか、今が十七なら俺が助けた十年前のあの時は七才だったのか。七才であの貫禄......さすが妖の子供。
「なので、お酒は飲めます。妖なので」
「あ、はい」
俺は冷蔵庫の扉を引いて開ける。そして三缶ほど発泡酒を取り出した。
「エマさんも飲むか?」
「あ、いえ。お酒はまた今度で」
「もしかして遠慮してるのか?」
「そういうわけではありませんが......お酒を飲んで私がどんな風になるのかちょっと心配で」
「......俺が変なことに及ぶと?」
「そ、それは望むところですが......傑さんのお嫁さんですし」
頬を赤らめる視線を落とすエマさん。あれ、予想してた反応と違う。なにこの空気。恥ずかしい。
「あの、そーでは無くてですね。私が言いたいのは、私は妖だということです。私の仲間にはその昔、酒に酔っ払って村一つ滅ぼしてしまった者もいるのでちょっと心配になっただけで......傑さんには何をされたとしても私は嬉しいですよ」
「......」
うーん、前半が怖すぎてどう反応すれば良いかわからん。確かにそういう昔話は聞いたことがあるけど。後半の甘々な台詞では中和しきれないレベルの物騒な情報だったな......。
「そっか。わかった、とりあえず飲み物でもカゴいれて」
「はい!」
彼女は頷くと林檎ジュースをひとつカゴに入れた。
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