強者
ヨートロー
第1話 求める者
「かなりの者とお見受けする。ぜひ手合わせを」
「おう、いいぜ」
強かった。
手開かずの多さ、速度、重さ、どれをとっても一級品。
武人としては申し分ない実力者。
だが、所詮は手合わせ。
ソイツの真の実力は、死と対面した時に発揮される。
その相手は、俺ではない。
これで何度目だろうか。
多くの武人、傭兵、冒険者に出会い、その度に一戦を交えた。
負けたこともあるにはあるが、相手も俺のことを殺すつもりで来ていないので、こっちも調子が乗らない。
せっかく技を極めたのだから、それを遺憾なく発揮できる相手と場が欲しい。
一度決闘場に足を運んだこともあったが、あそこは趣旨が違う。
じゃあ戦争でも、と言いたいところだが、生まれたタイミングが悪く、戦争は周辺の国では起きていない。
たまに見かける化け物は、化け物ってだけで頭が悪く技量に欠ける。
どうやら元々が机に噛り付いていたような連中らしく、見掛け倒しにもほどがあった。
しばらく歩いていると、大きめの村にたどり着いた。
一晩の宿を探すと、若い男が歓迎してくれた。
男とはすぐに打ち解け、自分の話を少しと、この村で起こったことを交互に話した。
どうやら、この村は例の化け物の一部に襲われていたらしい。
村のどこも壊された様子はなかったが、それもたまたま通りがかった武人が助けてくれたからだそうだ。
武人は魔術の心得もあり、化け物の攻撃を全て自身の魔術で相殺しつつ、瞬く間に化け物を討伐したという。
若者はそのとき村の外にいて、襲われる直前に助けられたということもあり興奮気味に話してくれた。
少し気になることがあり、若者に武人の特徴を聞くと、それはこの村に来る前に手合わせして気絶させた男によく似ていた。
俺の時には使わなかった魔術を、化け物には使った。それはつまり、相手を絶対に殺すという意思の表れ。
もし、俺に対してもその魔術を使っていたら、今頃俺は無事では済まなかったかもしれない。
感じたのは背筋が凍るような恐怖ではなく、高揚。
人は悪、もしくは敵と対峙したときにその真価を発揮する。
相手を確実に殺すという覚悟が、己のすべてを使うという意思につながる。
そう、悪だ。
悪こそが、真の強者に対峙する権利を獲得する。
求めていたものがようやく見つかった気がした。
強者 ヨートロー @naoki0119
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