4 三角関係、勃発!?

 この国の第二王子。

 私が王宮にいた頃、とても親身になってくれた人だ。


 レオルド様はロイスダール様よりも年下だけど、「どっちが頼りになりそうか」と聞かれたら、圧倒的にレオルド様に軍配が上がる。

 ロイスダール様も顔は悪くないんだけど、なよなよとしていて、考えが足らなそうなところがある。

 一方、レオルド様は凛々しい雰囲気である。

 巷では、『彼には苦手なものがないにちがいない』と言われている。

 剣術に長けているから、動作はきびきびとしている。読書好きとのことで、賢そうな顔付きだ。その上、彼は魔法にも造詣が深く、青い瞳は理知的で澄んでいる。

 藍色の髪を爽やかになびかせる彼は、まさに『理想の王子様』。

 私と顔を合わせると、彼はくしゃりと顔を歪めた。


「ああ……エリン。本物のエリンだ……。無事だったんだな」

「レオルド様。留学していたんじゃないんですか?」

「君が追放されたという話を聞いて、戻って来たんだ。エリン、私の兄と父が本当にすまないことをした……。君が無事でいてくれて、とても嬉しい」

「レオルド様のせいじゃないですよ。それにしても、どうして私の居場所がわかったんですか?」


 そう尋ねると、レオルド様は何とも言えない表情を浮かべた。


「フードの少女を連れた、美形男2人。で、聞きこみをしたら、すぐにわかったよ」


 え!? そんなに目立ってましたか?


「ちなみに、7:3で『冷たそうな美形』の方が優勢だった」

「はあ……」

「男前の票が伸びなかった原因は、『猫ちゃんのお面がちょっと……』ということらしい。そして、そこにいるのが例の『冷たそうな美形』だな!?」


 クラトスは嫌そうに顔をしかめた。


「……なに。というか、誰?」

「レオルド様! この国の第二王子だよ」

「ああ。これが馬鹿王子?」

「ちがうちがう! レオルド様は、馬鹿じゃない方の王子!」


 クラトスと話していると、レオルド様が無理やり話に入ってくる。


「エリン、この人たちは誰なんだ?」


 私が答える前に、今度はクラトスが無理やり割って入ってきた。


「今、君のことを呼び捨てにした。エリン、この『馬鹿じゃない方の王子』とはどんな関係?」

「そういう『じゃない方』の使い方はやめてくれないか!? それに君こそ、エリンを呼び捨てにしている。エリンとはどんな関係なんだ?」


 レオルド様もクラトスもなぜか、険悪なオーラを放出している。互いに鋭い視線を交え合った。

 どうしてこんな状況に?

 ディルベルの方を見れば、彼はものすごく楽しそうに、にやにやしていた。


「ちょっと、ディルベル! 何で楽しそうにしてるの?」

「いやー、やべえな。すげーおもしろい展開になってきたぜ」

「何が!?」


 そんなやりとりをしている間にも、2人は尖った声で言い合っている。


「エリンを捨てたのは、君たち王家と教会だろ」

「私はその時、留学していて、その場に居合わせていなかったのだ。私だって、エリンを追放したことは納得していない」

「言い訳なら後からでもできる。君たちのせいで、エリンが傷付いたという事実から目を逸らすなよ」

「エリンに責められるのであればいくらでも聞くが、お前に言われる筋合いはないぞ! お前は、アレか? エリンの、か、か、か……彼氏なのか……!?」


 ぶっ!

 レオルド様、何を言い出すの!?

 クラトスはものすごく憮然とした様子で答えた。


「…………。ちがうけど」

「そ、そうか! そうかそうかあ~! あっはっは、そうなのかあ!」

「エリン。今からこの『じゃない方の王子』に攻撃魔法ぶつけるけど、君が治してくれれば問題ない?」

「問題しかないから! やめて!」

「魔法だと?」


 レオルド様が、クラトスの付けている魔法石(魔法の発動体)に気付く。


「お前、魔法士なのか? ランクは何だ?」

「…………」

「ふ、言えないのか? ということは、そんなにランクが高くないようだな。はっはっは、勝ぁ~った!」

「エリン、彼のために祈ってやって」

「攻撃魔法はやめて!?」

「エリン、私の魔法士ランクはAだよ。こないだ、昇級したんだ」

「お、おめでとうございます……?」


 そこで私は気付いた。

 レオルド様がいれば、教会に入れるんじゃない!?


「レオルド様! お願いしたいことがあるんです」

「エリンが私に? ああ、聞こう」

「エリン。そいつの力なんて借りなくていい。やっぱり、結界を爆破して中に入ろう」

「絶対、ダメ~! 私、今、レオルド様と話したいから! クラトスは、ちょっと黙っててくれないかな?」


 クラトスは目を見開いて固まった。

 え? ショックを受けてる? 何で?

 ディルベルはお腹を抱えて、大笑いしてるし。

 なぜかレオルド様も楽しそうに笑っていた。


「ふふ、いい気味だぞ、低ランクの魔法士! さあ、エリン、私とゆっくり話そう。落ち着けるところで2人きりがいいかな?」

「あ、いえ。ここで大丈夫です」




 レオルド様のことは信用できる。

 だから、私は話した。

 私が追放された理由……過去視の能力のことだけは言いづらいから、司祭様の秘密を私が知ってしまったということにした。

 彼が幻獣をハンターから買い付けていること。そして、幻獣が転移装置の発動に使われているのではないかということ。

 私の話を聞くと、レオルド様は考えこんだ。


「やはり、そうか。あの転移装置のことは、私も不思議に思っていたのだ。エヴァ博士の魔法理論の定義にも反している。あ、エリンはエヴァ博士を知っているか?」

「はい。この世に魔法や魔導具を作った人ですよね。私も本を読みました。内容は少し難しかったですけど……」

「エリン、魔法書を読んでいるのかい?」


 レオルド様の目が輝く。

 そうだった。レオルド様は多才だけど、その中でも特に魔法が大好きなんだ。

 そこで彼は、私が付けている魔法石に気付いた。


「ああ、そうか、君も魔法士ギルドに登録したんだね。嬉しいな。私は昔から魔法が好きだから。君と魔法について語れる日がこようとは!」


 私、ギルドには登録してないんですけどね。

 なぜかクラトスが非正規の魔法書や魔法石を持っていたことは、秘密にしていた方がいいだろうな……。


「魔法を扱う者からすれば、エヴァ博士はもっとも偉大で、尊敬するべき人物だ。君は『魔法基礎理論』は読んだかい?」

「はい」

「その本では、人間の使う魔法では実現不可能であるものを7大現象としてあげている。そのうちの1つが『空間転移』なんだ」

「やっぱり、魔法では転移できないんですね」

「その通りだ。だから、教会に空間転移装置の試作品がやって来た時、私は驚いたよ。マルセルにどういう仕組みなのかと尋ねたら、エヴァ博士の理論に変わる新しい理論が発見され、それを使えば空間転移も可能なのだという。私も実際に転移ができるのを目の当たりにしたら、その話を信じるしかなかった。しかし、あの装置は魔法ではなく、別のものを使って作動しているのだな」


 レオルド様はいつもより饒舌だし、目が活き活きしている。

 本当に魔法が好きみたい。

 ってことは、案外、クラトスと仲良くなれたり……しないかなあ?

 ひとしきり魔法について語った後で、機嫌が治ったのか、レオルド様はクラトスたちに向き直った。


「先ほどは礼を逸していたな。すまなかった。エリンを助け、ここまで連れてきてくれたこと、感謝する。私はこの国の第二王子、レオルド・エヴァ・エザフォスだ」

「俺はディルベルだ。よろしくな、王子様」

「……クラトス」


 うーん……クラトスの方は、仲良くする気がまったくないみたいですね……。

 まあ、彼は元々、気難しいところがあるから、仕方ない。

 空き家を後にする時、私はクラトスに声をかけられた。


「ねえ。僕も後で君と話したい」

「え? うん」

「2人きりで」

「う……うん」


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