2 運命の人、見ーつけた♪
私は教会に入る方法を考えながら、街をさ迷っていた。広場にやって来ると、様々な屋台が見える。
少しお腹が空いてきたなあ。
――って、ディルベルがさっそく肉の串焼きを買ってる!
両手に大量に串焼きを持っていた。通り行く人がそれを見て、ささやき合っている。
「肉大量の男前……」
「肉汁したたるいい男……?」
いえ、竜だから肉食なだけなんです……。
私も何か食べようかな?
そこで、ボール型ドーナツの屋台があることに気付く。あれ、好きなんだ。
「私、ドーナツ買ってくるね。クラトスも食べる?」
「いらない」
「でも、あの屋台のドーナツ、美味しいんだよ。私のおすすめ!」
「じゃあ、いる」
「う……うん」
何かあっさり意見を変えたな。
広場のテーブルについて、私たちは腹ごしらえをした。
食事が終わってから、私はテーブルに紙を広げた。昨日、自室で書いたものだ。
「簡単にだけど、教会の見取り図を描いてみたんだ」
クラトスとディルベルは、その見取り図を覗きこんだ。
ささっと描いたやつだから、じっくり見られると恥ずかしい……。
「正面にあるのが礼拝堂。ここまでは誰でも入れる。その奥に行くには、礼拝堂の左右にある扉から。どっちから入っても、奥でつながってるよ。その扉には魔法士の人が警備についていて、そこからは結界が敷かれている」
「俺の転移で入れねえのか?」
「無理だね。結界に阻まれる」
「クラトスの魔法で結界は破れないの?」
「結界が敷かれている位置と大きさがわかれば、無効化できる。でも、無理に破ろうとすると爆散する」
「それでいいんじゃねえか?」
「ダメに決まってるよ!」
「エリン、誰か協力を頼める奴はいねえのか?」
「えっと……妹のミレーナは、まあ、無理だし。ロイスダール様も王様、王妃様も……うーん。頼りになるのは第二王子のレオルド様だけど、留学中だからいないんだよね」
「その見取り図、貸して」
クラトスが静かに言った、
見取り図を渡すと、真剣な眼差しで見始める。
「何してるの?」
「広さを計算している」
「え、私の描いたやつで!? 無茶だよ。適当だし」
「さっき見た礼拝堂と外壁。それと、だいたいの構造がわかれば概算が出せる。結界の大きさがわかれば、無効化する魔法式も組み立てられる」
集中しているのか、いつにも増して冷たそうで理知的な雰囲気だ。考えこみながら、見取り図を凝視している。
何か時間がかかりそう?
「私、飲み物買ってくるね」
「1人だと危ないぜ。俺も行く」
「ありがとう。クラトスも何か飲む?」
「いらない」
ディルベルが呆れたように言った。
「エリン。おすすめしてやれ」
「え?」
「お前がおすすめするか、お前が作った物じゃないと、こいつ口にしねえぞ」
「何で!?」
「こいつの主食、シリアルだぞ!? 食に興味がねえんだよ、基本」
え? そういえば、施設でもマーゴの料理は、頑なに食べていなかった。私が「今日のお肉は美味しいよ!」って言うと食べるんだけど。
「ねえ、クラトス……」
真剣に考えこんでいるのに、声をかけたら嫌がられないかなあと思ったけど、クラトスはすぐに私のことを見た。
あそこの果実水がおすすめだよ! って言おうとしたけど……ちょっと好奇心が湧いた。
この場合、「ただのお水」をおすすめしたら、どうなるの?
「私、あそこでお水をもらってこようかなあ。喉が潤って美味しいんだよね、ただのお水」
「じゃあ、いる」
……本当、よくわかんないな、この人……。
◇
ミレーナは、王宮から逃げ出して、広場へとやって来ていた。
彼女は憤慨していた。
――皆が聖女に求めるものが大きすぎる!
(1日に100人治療しろとか! それができて当たり前とか! おかしいんじゃないの! そんなの、普通、できるわけないでしょ!)
皆の期待が過剰なだけであって、それができない自分は悪くないのに!
――どうして私が責められないといけないの!?
もうあんなところはうんざりだ。
聖女になんかなるんじゃなかった、とミレーナは思っていた。
それに、ロイスダールだって期待外れだった。あんなに思いやりがなくて、見る目がないなんてがっかりだ。
この国の王子たるもの、もっと寛大になるべきだと思う。
(私に優しくしてくれない男なんていらないわよ! それよりもっと、理想の人がいないかしら?)
ミレーナは広場ですれちがう男を精査していく。
すると、皆の視線が集中している一角があることに気付いた。
野外に設置された飲食スペース。
そこに1人の男が座っている。真剣な眼差しで何かを見つめていた。
綺麗な金髪が、完璧な線を描く輪郭にかかっている。
碧眼は冷たそうにも見えるが、理知的だ。何かを考えこんでいる様子が、高次元で独特な雰囲気をまとっている。
『神の熟慮』とか、そんな大それた題名でもつけて、絵にして飾りたいほどである。
その姿にミレーナは胸を撃ち抜かれた。
(すごい……。私のタイプ!)
その上、彼は周囲の視線をひとり占めしている。
皆が認めるほどの美貌。そんな彼の隣に立てば、羨望の眼差しを一身に受けられることだろう。
まさに理想的だ!
彼に声をかけようとミレーナが近付いた、その時。
「クラトス!」
明るい声と共に誰かがやって来る。
フードを目深にかぶった人物だった。
「お待たせ! はい、買ってきたよ」
「君が言ってた水じゃない」
「本当にお水でよかったの!? でも、この果実水もとっても美味しいから!」
「そう」
「何かわかった?」
「概算は出せた。確認のため、もう一度、教会を見たい」
その光景を見て、ミレーナは混乱した。
(え……? この声……)
彼と話している女。
彼女はまさか。
「お姉さま?」
ミレーナの呟きに、その女が顔を上げた。
間違いない。エリンだ。
(何でお姉さまが、こんな素敵な人と知り合いなの?)
疑問に思ったけど、そんなことはどうでもいいと思い直した。
相手がエリンなら、絶対に勝てる。ミレーナにはその自信があった。容姿ではミレーナの方が上なのだから、この素敵な人だって自分に夢中になるはず!
ミレーナは、ふふ、と自信たっぷりの笑みを浮かべて、彼のことを見つめた。
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