第10話

 まさか断られると思っていなかったカリム。


「サシャ殿。なぜ共に来てくださらないのですか。この世界を救える者になれるのですよ。我が国からの報奨金も出ます。皆から尊敬の眼差しで迎え入れられることでしょう。なにより、あなたの力で、苦しんだ者が救われるのです」


「そういう事は偉い人たちだけでやって」


 王族であり、あまり人から拒否された経験のないカリムはその意見に驚いた。


 断られるだろうと思っていたセシルは、話を続ける。


「サシャ殿が魔物退治に出る必要はないのです。せめて、魔法の鳥の作り方だけでも教えていただきたい。そのために、我が国の研究機関にお越しいただきたいのです。そこでは、こことそっくりな環境を作ることをお約束します」


 セシルの案はまだマシな方だとサシャには思えた。でも、研究機関に行くまでに外に出るじゃないか。外に。


 しかし、サシャとて世界が滅んでほしいと思っているわけでは勿論ない。カリム達偉い人が頑張ればいいとは思うものの、力になれるところくらいなら協力しても良いかもと思い始めていた。外に出ない方法で。


 考えた末、もう面倒だったので、ドローンをあげることにした。使い方も説明した。

 しかし専門家ではないカリム達三人には理解できない。


 研究機関の者を連れてこればよかったのだが、彼らは一様に貧弱で、到底この国を縦断できるとは思えなかった。サシャとてひ弱な子供にしか見えないが、この災厄を逃れた屋敷を見ると、どうにかして魔物を避けることができそうに思えた。


 そう考えたからこそ、魔法の鳥を使いこなすエンリケ卿――サシャを屋敷から連れ出すことが彼らの使命だったのだ。


 ドローンの説明を理解できないと言うカリム達三人に、サシャは最近開発した遠隔通話の魔道具、テレホンも渡した。


 そして、飾り気のない小箱も渡した。


「この小箱は、私の家族に渡してください。ホログラムになった私が出てくるので、遠くにいても家族と会えます。これを家族に渡すことを条件に、ドローンの情報提供もしてあげます」

 そして無理矢理三人を納得させて帰らせた。






 その後。三人が持ち帰ったドローンを活用することで、スタンピードこそなくならなかったが、発生のタイミングなどを把握することができ、王国の復興に貢献したという。




 こうしてサシャは、結局部屋から一歩も出ずに、世界を救った。






 その後も引きこもるサシャは、時折家族と遠隔で会話する。ホログラムを使うので、実際に目の前にいるみたいだ。


 スタンピード発生当初、屋敷から家族と従業員全員を安全に避難させるために、両親は必死だったと言う。


 サシャが不思議な魔法を使うことを家族皆知っていた。それでも幼い子供を一人残す決断はなかなか出来ない。いくらそれが引きこもって鍵もかけ、しかも防音魔法で声も通じないという、どうすることもできない状況であっても。


 サシャの部屋の前で打ちひしがれる両親の前に、火の妖精アーが出てきたのは偶然か。


「お願いだ。サシャを守ってくれ」


 そう言うと、アーは頷いた。そして屋敷の前には炎で挟まれた道ができ、魔物の群れの中に一筋の炎の道となっていた。


 屋敷も炎に包み込まれる。


 あっけにとられる屋敷の者たちが、それでも好機を逃すわけにはいかないと、その炎の道を通り抜けていく。両親も従業員に促されて、避難する。


 我が子を火の妖精に託した両親が屋敷を振り返ると、屋敷の門の上でのんびりと手を降る妖精がいたと言う。


 サシャはその話を聞いて、両親がさっさと見捨てたわけではないこと、そしてアーが守っていてくれたことを知って感涙した。




 カリム達とも遠隔通話をしたりして、サシャは人間の友達ができた。確実にサシャの世界は広がったのだが、その後も相変わらず妖精たちと引きこもり続け、楽園を満喫していたという。

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異世界転生! 部屋から出ない! 成若小意 @naliwaka36

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