六月のアカイ糸

砂月かの

六月の赤い糸

それは赤い、赤い、……結ばれる誓い。

運命の赤い……糸。



床に広がる真っ白な布に、描かれる真っ赤なリボンは、私からあの人へと結ばれていく。



『おめでとう』



祝福の言葉が降り注ぎ、世界で一番幸せになる日。

あなたに出会えたこと、あなたと一緒に歩めること、あなたと共に幸せを願った。

眩いほどの光の差し込む教会で、私を幸せにしてくれるって約束してくれた。

たくさんの人がその言葉の証人。



『嘘つき』



あなたは私と神様、それからみんなに嘘をついたの。

けれど、神様に永遠を誓ったのは、あなた。

だから私はそれを守っただけ。



『6月の花嫁は幸せになれる』



ええ、幸せよ。

だって、こんなにも赤く、太い糸が二人を結んでいるのだから。

いいえ、糸じゃなくてリボンかしら。

私たちは初めから結ばれる運命だった、ただそれだけ。



【いいことを教えてあげるわ】



式の最中に偶然見つけた手紙には、あなたと私の知らない女性が映った写真がたくさん。

どの女性の指にも指輪、そして、純白のウエディングドレス。

写真の裏に書かれていた言葉に、私の瞳は色を失った。



【こいつは結婚詐欺師よ】


【あなたも私たちと一緒】



裏切られて、大切なものを失って、独りぼっちになる。

そう綴られていた。


絶望が埋め尽くし、色鮮やかな世界が崩壊していった。

まるで、ガラスのようにキラキラと、鋭利に鋭く私を傷つけながら。

全部嘘、あなたは私を幸せにはしてくれない。

視界が滲み、景色が何も映らくなった。



『愛してる、愛してる……、あなただけを愛してるの』



幸せにならなくっちゃ。

幸せになるの。

幸せが欲しい。

幸せが……、あなたが欲しいの。




── ドスッ ──




思っていたより、鈍い音がした。

それに、あなたの鈍い声も。

あなたの心が欲しくて、心臓を狙ったら、赤い糸が溢れてきた。

溢れだした赤い糸は、私に全部繋がる。

ほら、やっぱり私とあなたは運命の糸でこんなにも結ばれていた。

純白のドレスが真っ赤に染まるくらい、私とあなたは繋がっていたのよ。



『ねえ、私の赤い糸も見せてあげる』



何も映し出さなくなった瞳に、私は赤く染まった銀の凶器を見せてあげる。



『きっとあなたより、たくさんの赤い糸があるはずよ』



両手で掴む凶器を頭上に掲げ、私は心臓へ振り下ろす。

無数の赤い糸があなたに降り注ぎ、あなたを赤く染めた。



『ほらね、……私の方が、……アイシテル』



ドレスも床も、あなたも染めた赤。

運命の赤い糸は、全てあなたに繋がっていたことを証明している。




『6月の花嫁は幸せになれる』


『だって、赤い糸で結ばれているのだから』




おしまい

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