第5話 秘密の行為は観覧車の中で

 ジェットコースターから下りた翔とめぐみちゃんは、再び手を繋ぎ園内を歩いている。

 そして恋人のように次々とアトラクションを巡り始めた。


 イイ感じじゃん。この調子なら私たちの出番はもう無いだろう。

 それを確信させてくれるように、二人は観覧車へ向かい始める。手を繋いだままで。

 するとニヤニヤ顔のぷらっちが、とんでもない提案をする。


「二人が観覧車に乗ったら、私たち抱き合いましょうよ!」

「えっ?」


 提案自体はわかる。

 手を繋いだら、次のステップは「抱き合う」になると思うから。

 外から中が見えない観覧車は、恋人としての階段をさらに上がれる絶好のステージだ。

 でも今日は「手を繋ぐ」まで行ったのだから、それで十分なんじゃないの? 恋人として二人が長く続くには、一歩一歩のステップアップが望ましいんじゃないのと、今度は逆向きの姉心がニョキニョキと芽生え始めていた。


 しかしそれとは別に、異なる感情が私の心の中に広がっていく。

 ——ぷらっちにまた、ぎゅっと抱きしめてもらいたい。

 だってぷらっちは今、二人で抱き合おうと提案してくれたんだもん。それに乗らない手はないと、もう一人の私、いや心の奥底の私が訴えていた。

 ヒーローショーで助けてもらった時のように。心の奥が融けるあの感覚をまた味わいたい。


「だ、だ、だ、だ、抱き合うって……」


 弟には恋愛の階段をゆっくり確実に上ってほしい。

 でもぷらっちには、私のことぎゅっと抱きしめてほしい。

 相反する感情が私の中でせめぎ合っている。


「なに躊躇してんのよ。弟さんのためじゃないの? シルフィらしくない」


 弟のためだからダメなのよ。

 ぷらっちに抱きしめてもらいたいのは、私の心そのものなんだから。

 逡巡する私をよそに、ぷらっちは私のことを抱きしめてくれた。筋肉の動きを翔るたちに伝えるために、ぎゅっと強く。

 ああ、この落ち着く感じ。窮地を救ってくれた安堵感。もう離れたくない。

 でもこの気持ちは秘密。誰にも知られてはいけないの。


 しかし、この幸せな時間はすぐに終わりを告げる。


「何やってんだよ姉貴。ていうか、俺のこと騙しただろ?」


 観覧車から下りて駆け寄ってきた翔に、私たちは見つかってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る