第4話 遊園地にて

 遊園地に着くと「早く早く!」とめぐみちゃんが翔のことを急かしている。

 どうやら、すぐにでも聖地であるロケ地のメリーゴーランド前に行きたいらしい。


「じゃあ、行こっか!」


 めぐみちゃんに呼応する翔を見て、慌ててぷらっちのことを小突く。

 ぷらっちもはっと気付いて、勢いよく駆け出した。

 結果、三人が見事なシンクロでダッシュ! まさに間一髪だった。

 こりゃ、一時も目を離せないと私たちは気を引き締める。


 メリーゴーランドの前に着いためぐみちゃんは、その周りを巡りながら写真を撮り始めた。

 何もやることがなくなった翔は近くのベンチに座り、彼女の後ろ姿を眺めている。

 このように二人が離れている状況では、私たちの出番はない。

 だから私はぷらっちに提案する。


「ちょっと練習してみない?」

「練習って何を?」

「手を繋ぐ練習だよ」


 木曜日の夜、翔は「めぐみちゃんと手を繋ぎたい」みたいなことを言っていた。

 それならば、お姉ちゃんがその手助けをしてあげなくちゃいけない。


「手を繋げるように手助けしてあげたいってことはわかるけど、なんで練習?」

「だって手を繋ぐ筋肉の動きを伝えるのって、難しそうじゃん」


 恋人になる前の二人って、偶然に手が触れてそれがきっかけで手を繋ぐシチュエーションが多いような気がする。もじもじするような感じで。

 決して「手を繋ごうよ!」「よっしゃバッチ来い」みたいなハイタッチ的なノリにはならないよね。

 それならば、どうやったら手を繋げるようにできるのか、事前にシミュレーションしておいた方がいい。


 そこで、まずはぷらっちに腕時計を外してもらい、二人で並んで歩きながら手を繋いでみた。

 しかしこれでは、今までの腰掛けたり立ち上がったりするような激しい筋肉の動きは発生しそうもなかった。


「うーん、これじゃダメかも?」

「そうねぇ……」


 私たちは二人並んで歩きながら、様々な方法で手を繋いでみる。

 しかしどうやっても、電気信号が発信される動きにはならないような気がした。


「手をぎゅっと握るのはどうかしら?」

「それ、いいかもね。強い筋肉の動きが必要になるし。でも、手を握るきっかけにはならないかも……」


 言い終わらないうちに、ぷらっちが私の手をぎゅっと握ってくれた。

 その瞬間、ビビっと私の脳内に電気が走る。

 スタート同期ウォッチは、今は私もぷらっちも着けていないというのに。


 先月のヒーローショーでの出来事。

 アクシデントに遭遇してテンパった私のことを、ぷらっちはぎゅっと抱きしめてくれた。

 心が温かくなる瞬間。その時の安らぎが再び私の心に灯る。


 嗚呼、このままずっと手を握っていたい。

 と思った瞬間、ぷらっちにアイディアが降臨してしまう。


「そうだ! 肩が当たるってのはどう?」

「えっ?」

「ほら、めぐみちゃんって翔くんより十五センチくらい身長が低いでしょ? だったらめぐみちゃんの肩が翔くんの腕に当たるってシチュエーションもあるんじゃないのかな?」

「そうね。それがきっかけ、というのはあるかもね……」


 先ほどの気持ちを隠すように手を引っ込めながら、私はぷらっちに相槌を打った。

 ――また手をぎゅっと握って欲しかったのに……。

 やがて翔が立ち上がり、めぐみちゃんと一緒に歩き出した。ジェットコースターの方へ向かっている。

 私たちは距離を置いて二人の後をつけ始めた。そして偶然に二人の距離が縮まった時に、ぷらっちが自身の肩を私の肩にぶつけてきたのだ。


 その時に起きた出来事を、私は奇跡と呼びたい。

 翔とめぐみちゃんはどちらともなく手を伸ばし、すうっと掌を重ねたのだ。

 それはまるで磁石のSとNが引き合うように。


「やったね!」

「うん。やっと一歩を踏み出してくれたよ」


 私とぷらっちは両手を繋いで、ぐるぐる周りながら小躍りしたんだ。

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