第3話 作戦開始

 ホームに電車が入って来ると、ぷらっちが私に耳打ちする。


「じゃあ、シートに腰を下すところから始めるよ」

「わかった。任せたわ」


 いよいよ作戦開始だ。


 木曜日の夜、翔は私に言った。

 めぐみちゃんにマスターになってもらいたい、と。

 だから私は、翔に二本のスタート同期ウォッチを貸してあげたんだ。

 一本がマスターで、もう一本がサーヴァント—―と噓をついて。


 実は、私が貸した腕時計は、二本ともサーヴァントだった。

 そして、今ぷらっちが着けているのがマスターなのだ。その腕時計から密かに信号を発信し、翔とめぐみちゃんが同時に信号を受けることによって、二人の行動を同期させようという計画なのだ。


 この計画の利点は、同期させるタイミングをこちらがコントロールできるところにある。

 だって、めぐみちゃんが翔と手を繋ぎたいと思わなかったら、マスターになったって何も進展しないってことだから。せっかくの遊園地デートなのに、それはマズいよね。

 老婆心と笑われても構わない。翔はめぐみちゃんのこと好きになっちゃったんだから、ちょっとでも距離を縮めてあげたいというのが姉心じゃん。


 この密かな企みは、決して二人にはバレないという自信があった。腕時計からビビっと電気信号が来ても、翔はめぐみちゃんからの信号だと思っているから。

 もちろんめぐみちゃんも、ビビっと腕時計から電気信号を受けることになる。それを翔に打ち明けてしまえば私の企みはバレてしまうが、そうはならないという目論見があった。というのも二人はまだそんなには親密そうじゃないし、そもそもめぐみちゃんはこの腕時計の秘密機能を知らないはず。

 まあ、めぐみちゃんが翔に打ち明けて私の企みがバレてもいいんだよ。それは二人の距離が縮まったということなんだから、その時点で私の企みは成功したと言える。


「いよいよだね」

「じゃあ、いくわよ」


 私たちは翔たちから離れて同じ車両に乗る。

 そして二人が座るタイミングに合わせて、力を入れてシートに腰掛けた。

 こうすればぷらっちの筋肉の動きの始動を腕時計が感知し、二人に電気信号を送ってくれる。

 ちなみに、この力を入れて座るという行動はなかなか難しい。ぷらっちだけがやると変なので、当然私も付き合うことになった。


 すると、ぷらっちと翔とめぐみちゃんの三人は、見事にシンクロしながらシートに腰掛けたのだ。


「まずは成功かな」

「今日はこれの繰り返しだね」


 そして電車が駅のホームに着いた時、早くもその成果があらわれる。

 三人がシンクロしながら立ち上がった直後、めぐみちゃんは翔のことを向いてくすくすと笑い始めたのだ。

 きっと予期せぬ見事なシンクロが彼女のツボにはまったのだろう。


「やったね!」

「うん。なかなかイイ感じじゃん」


 私たちは作戦の成功を確信し始めていた。

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