第22話 オデット ― 学力テスト
昨日は怒涛の一日だった。
属性テストで全属性という結果が出たのは勿論予想外で、未だに何故なのか分からない。
サットン先生の話だと私は土属性のはずだったんだけど・・・。ミシェルもそう言っていたし、きっと預言書ではそうなっていたんだろう。
サットン先生は結局運命を変えられなかったと言ってたけど、変わった部分もあったのかもしれない。
まあ、考えても仕方ないよね。聖女を目指すには全属性の方が有利だと感謝して前向きに考えよう。
それに私にとって一番大きなニュースはクラスで初めての女友達が出来たことだ!
昨日の出来事を思い出す。
ソフィー、マリー、ナタリーは三人とも子爵令嬢だと自己紹介した。
高位貴族の子女が多い学校では肩身が狭いという。
やっぱり馬鹿にする生徒がいるんだって。悔しいな。
私は三人に言った。
「ここは学校よ。身分だとか関係なく実力だけで評価されるべき場所だと思うの。だから、私達は勉強や魔法を頑張って見返してやりましょう!」
私が振り上げた握りこぶしに三人の手が重なる。
「ええ、オデット様!みんなで頑張りましょう!」
四人で大いに盛り上がった。
「明日は新入生全員が受ける学力テストがありますよね」
ソフィーが首を傾げながら言うとサラサラの金髪が肩に落ちる。
「今日の放課後一緒に勉強会しませんか?一夜漬けじゃあまり効果ないかもしれないけど、やらないよりましかなって」
それは素晴らしいアイデアだ!
私は三人を私の部屋に招待した。小さいけど四人座れるテーブルもあるし。
私はリュカから教えて貰ったテストのコツなんかを共有して、皆から喜ばれた。
リュカのことを考えると正直まだ胸が痛い。
いつか彼のことを忘れられる日が来るんだろうか・・・?
ナタリーが私の顔を心配そうに覗き込む。
「オデット様、大丈夫?」
私はハッとした。しまった。ついリュカのことを考えてしまった。
「あ、ごめんね。大丈夫。・・それより呼び捨てで呼んで欲しいな」
笑顔で頼むとナタリーの顔が赤くなった。
「・・お、オデット?」
はにかむナタリーが可愛い!
他の二人にも呼び捨てをお願いした。
その後、手作りの夕食を振舞ってお別れした。
みんな私が料理することにものすごく驚いていた。貴族令嬢が料理するってやっぱり珍しいことなんだなと実感する。
でも、料理は出来て良かったなと思っているので、サットン先生に感謝だ。
みんなピカピカの笑顔で自分の部屋に戻って行った。
***
昨日は楽しかったなぁ、なんて考えながら朝の支度をしていたら、ちょっと待ち合わせに遅れてしまった。
息を切らして寮の前の待ち合わせ場所に行くと、アランが所在無げに立っていた。
アランは最近ぐんぐん背が伸びている。
ちょっと前まで視線の高さは同じくらいだったのに、今は見上げないといけなくなった。
顎の線がシャープになって、精悍な顔立ちが益々際立ってきた。
剣術で鍛えているので、立ち姿も逞しくて凛々しい。
金髪碧眼の正統派美男子のアランが女子生徒の憧れの的なのは当然なんだよなぁ。
私なんかが婚約者で申し訳ないと思うよ。嫉妬されるのも納得だ。
なんてことを考えているとアランが私に気づいて笑顔で手を振った。
笑うと昔の少年っぽさが甦るって卑怯だ。思わず胸がキュンとしてしまったじゃないか。
慌ててアランに走り寄る。
「おはよう!」
「おはよ」
アランは私の頭をぐしゃぐしゃに撫でまわして笑う。
「・・ちょっと、髪の毛ちゃんとしてきたんだから」
私が文句を言うと
「待たせた罰だ」
アランは舌を出した。
「うー、ごめん!」
「冗談。気にしてないよ。行こうぜ」
アランはさっさと歩き出す。
「あのね、昨日ね。ソフィーとマリーとナタリーと放課後勉強会したの」
「良い友達が出来て良かったな」
私の言葉にアランは微笑んでくれる。
「あ、そうだ。週末にさ、料理してくれるって言ったじゃん?」
なにかを思い出したようにアランが話し始めた。
「うん」
「女子寮に行くのに許可を取らないといけないんだ。いくら婚約者でも二人きりはまずいらしい。だから、クリスチャンも一緒に誘っていいか?」
「・・私はいいけど、クリスチャンが嫌じゃないかしら?」
彼の敵意むき出しの視線を思い出して呟いた。
「いや、あいつもお前と話がしてみたいって言うんだ。美味いもん作ってやってくれる?」
そう言うなら張り切っちゃうぞ。
「勿論!」
私は力こぶを作って見せた。
「それから、修道院の見学許可も取っといたから」
なんでもないことのように言うアラン。
「すごい!さすが仕事早いねぇ」
私は素直に感心した。
「まぁな」
アランは満更でもない感じだ。
「ありがとう!」
私が笑顔を向けると、アランの顔が赤くなる。
・・やめてよ。私まで何だか照れるじゃないか・・・。
急に恥ずかしくなって俯くと、アランも照れたように顔を背ける。耳が赤くなってる。
何となく黙ったまま歩き続けるとアランがポツリと呟いた。
「・・・なぁ、やっぱりリュカのことは忘れられないよな?」
・・・私がリュカを忘れられる日は来るのだろうか?自分でも分からない。リュカは私の心の一番奥深くに確かに存在していて、忘れようとしてもふと浮かび上がってくるのだから。
下を向いたまま
「ごめんね・・」
と呟く。
「いや、いいよ。ごめん。俺が焦りすぎた。お前の気持ちを考えて気長に待つって決めてたのに。情けないな」
アランは頭を掻いた。
「アランは私には勿体ないくらい素敵な人だよ。こっちこそ・・ごめん」
「いいよ。気にすんな!」
アランは私の髪の毛をぐちゃぐちゃにした。
わざとそんな風にふざけてくれるアランはとても優しい人なんだと思う。
こんな人を好きになったら幸せになれるんだろうなと思ったら、いつも思い描くリュカの笑顔が遠くなる。胸の奥が切なくて痛かった。
教室に入るとクラスメートは試験のために緊張しているようだ。
私が席に着くとソフィー達がやって来た。
「昨日は有難う!」
「すごく楽しかった」
口々に言ってくれて、ちょっと沈みかけていた私の気持ちも浮上する。
「・・まぁ、試験前に余裕な人たちがいるものねぇ」
「くだらないお喋りをする時間があったら、ちょっとでも準備すればいいのに」
「ほほ、別に成績が悪くても関係ない家格が下流の方たちだから・・。羨ましいわ」
昨日の意地悪令嬢達がソフィー達を貶め始めたけど、私達は無視を決め込んだ。
勉強会の時にサットン先生直伝の『くだらない悪意に傷つくのは時間の無駄』という言葉を伝えたら、みんなそれを合言葉に頑張ろう、と団結したのだ。
教師が入ってきて、全員を着席させる。
試験の説明があり、その日一日がかりの試験が始まった。
結果は金曜日に発表されるという。
***
・・・そして金曜日の朝、私とアランが成績発表の掲示板に向かうと、大きな喧噪の中心に人だかりが出来ていた。
見るとクリスチャンが床に蹲っている。
アランが急いでクリスチャンに駆け寄った。
「クリスチャン、どうした?大丈夫か?」
声を掛けるとクリスチャンが顔を上げた。
目からボロボロと涙を流している。
・・一体何があったの?
クリスチャンが震える指で壁を指さすとそこには成績上位者が発表されていた。
一位 オデット・モロー
二位 アラン・リシャール
三位 クリスチャン・ベルナール
あ・・・。
クリスチャンは親が厳しくて常に一位じゃないといけないと言われているとアランが言っていたよね。
もしかして一位じゃなかったから・・・?
ホントに・・・?公衆の面前で号泣するほど・・・?
どんだけプレッシャー掛けられてるんだ?
とクリスチャンが気の毒になる。
でも、何と声を掛けて良いのか分からない。
アランもどうしていいか分からないようだ。
するとクリスチャンは号泣したまま立ち上がり
「帰る!」
と叫んでそのまま学校から出ていった。
そして、その日はとうとう戻って来なかった・・・・。
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