第21話 アラン ― 魔法の属性テスト(後編)
「まあでも、取りあえず今日は新入生の属性テストを終わらせることが先決なんで、その話は別室でしてもらっていいですかね?」
ダミアンが言うと、他の教師らも渋々頷いた。
オデットは別室に呼ばれたので、俺は一緒についていくと主張した。
俺の大事な婚約者だぞ。
歩きながらオデットは小さな声で呟く。
「アランが来てくれて良かった。一人じゃ心細かったの」
それを聞いた俺は鼻血が出そうなくらい心の中で悶えたのだった。
「でも・・・サットン先生は私の魔法は普通の・・確か土属性って言ってたわ。どうしてこんなことになったのかしら?」
俺もそれは疑問だ。何があったんだ。
別室に行くと、既にピンク頭が座っていた。
俺達が入室すると何が起こったのかと怪訝な顔をしている。
すると学年主任の教師と学院長が部屋に入って来た。
既に話は聞いているらしい。
「いや、今年は異例の年ですな。王太子殿下の魔力も勿論素晴らしいですが、光属性の生徒と全属性の生徒が同時に入学するなんて・・・」
学院長が話し出すと、ピンク頭の顔色が真っ蒼になり突然机をバーンと叩いて立ち上がった。
「全属性ですって!?その女が?あり得ない。そいつはしょぼい土属性のはずよ!何なのそれ?信じられない!おかしい!おかしいわよ。なんでストーリーが変わってんのよ!?」
机を叩きながら喚き散らすのを学院長と教師は茫然と眺めている。
「・・・ああもう、やっぱりラッキーアイテムを探すんだったわ。私だって全属性になれば・・・」
訳の分からないことを喚き続けるピンク頭の狂乱ぶりに俺とオデットも絶句した。
学院長は俺(=王太子)の存在に気付いたのだろう。このままピンク頭が喚き続けたら、不敬罪に問われるとでも思ったのかもしれない。
慌てて主任教師に指示を出した後、学院長は俺とオデットを別な部屋に案内した。
学院長は別な部屋で平身低頭して俺達に謝罪した。
「学院長。どうかお気になさらず。あのピンクの髪の毛の生徒はいつもああなのですか?」
俺が言うと、学院長はハンカチで汗を拭きながら何度も頭を下げた。
「いえ、確かに変わった言動はあると報告を受けていましたが・・。あんなに激高するとは・・・予想外でした。ご不快にさせて大変申し訳ありません」
「あんな風に訳の分からないことを喚かれると私の婚約者も恐ろしいと思うのです。彼女がオデットに近づかないように、学院側でも配慮して頂けないでしょうか?」
俺は思い切って言ってみた。
学院長は汗だくになってハンカチで額を擦りまくる。
「え、ええ、お気持ちは分かります。ただ、やはり学院生活の中で生徒同士の交流を制限するというのは難しい場面も多く・・・」
「ええ、勿論です。完全に隔離しろなどと無理は言いません。何かあった時、先生方にオデットへの配慮をお願い出来れば、それで結構です」
俺はにこやかに低姿勢でお願いした。
「あ、は、はい。それでしたら勿論。全教員に通達することに致します」
「ありがとうございます。勝手を言って大変申し訳ありません」
俺は深く頭を下げた。オデットも一緒に頭を下げる。
学院長はほっとしたようだ。
「それで本題ですが、光属性や全属性のように特殊な属性の生徒には、他の生徒とは別に特別なプログラムに参加して頂きたいのです」
「特別なプログラムですか?」
オデットが聞き返す。
「はい。希少属性は教えられる教師の数も限られます。当校ではダミアンという先ほど属性テストを監督していた教師しかおりません。ダミアンとマンツーマンで魔法の訓練を受けて頂くことになります。また、全属性となると更に希少です。記録に残っている限り『神龍の聖女』以来ではないかと・・・。ですから、王宮に報告する義務が生じまして・・。その、国王陛下にご報告しても宜しいでしょうか?」
「私は構いません。父上にも知らせるべき案件だと思います」
俺が言うと学院長は安堵したようだ。
俺達の話合いは和やかに終わった。
自分達の教室に戻る時に先ほどいた部屋の前を通りかかると、まだピンク頭が何かを喚いているのが聞こえてきた。
学院長は何も聞こえないふりをしてその部屋を通り過ぎる。
俺達が教室に戻った時、教師はおらず生徒たちが好き勝手に自習しているようだった。
俺とオデットが教室に入ると、騒然とした教室が一瞬にして静まりかえった。
生徒が全員俺達を見ているのが分かる。
特にオデットに注目が集まっている。
すると、何人かの女生徒たちがオデットに近寄って来た。
「オデット様。先程はすごかったですわ!」
オデットは初めてクラスメートに話しかけられて嬉しそうだ。
俺は聞き耳をたてながら、そっとその場を離れた。
「全部の色が入っていましたわよね?ということは全属性・・?」
「まあ、全属性なんて今まで聞いたことありませんわ」
「さすが王太子殿下の婚約者でいらっしゃるから」
「素晴らしいですわ!さすが公爵令嬢の面目躍如ですわね!」
今までの悪口は何だったんだよと言いたくなるくらいのおべんちゃらだな。
「それに比べてミシェル・ルロワ嬢ときたら・・・」
令嬢の一人がバカにしたように嗤う。
「聞きまして?あの方、ご自分は希少な光属性だからこの学院の唯一無二の存在になるって仰っていたのよ。オデット様のことを土属性の平凡な魔力しかないって言ってましたわ」
「嘘までついてオデット様を貶めたいのかと」
「そうそう。あの方はオデット様の悪口をずっと色々な方に吹き込んでいて」
「酷い噂を流してましたわ。品性が疑われますわね」
そこでオデットが立ち上がった。
「あ、あの。悪口を言われたからって悪口で返すのは良くないと思うんです」
というオデットの言葉に、取巻いていた令嬢達はポカンとして彼女を見る。
「私は、悪意ある言葉は多くの場合嫉妬から生まれると習いました。皆さんもそんな言葉を使っていると嫉妬していると勘違いされてしまうかもしれません。だから、止めた方がいいと思います」
それを聞いていた令嬢達の顔が怒りで真っ赤になるのを、俺はこの目ではっきりと見た。
全員ワナワナと震えている。
「な・・・し、し、失礼な!」
親分格の令嬢がぷいと踵を返して教室から出ていくと、他の令嬢も慌ててその後を追った。
それにしても、オデット・・・もう少し歯に衣着せようよ・・・と内心頭を抱えていると、俺の隣で一部始終を見ていたクリスチャンがふっと噴き出した。
彼は肩を震わせて笑っている。
そして、オデットは途方に暮れた幼児のような表情で再び自分の席についた。
何をするでもなく机に置いた自分の両手をじっと見つめている。
あぁ、自分が言ったことが正しかったのか悩んでいるんだな。
やれやれ慰めに行くかと立ち上がりかけたところで、3人の女子生徒が彼女に近づくのが見えたので、取りあえず静観を決めた。
「・・・あの、オデット様」
女子生徒の一人が声を掛けると、オデットが顔を上げた。泣きそうな顔のオデットを見て萌えてしまった俺を許して欲しい。
「・・はい?」
オデットが小さい声で答える。
「さっきオデット様が仰っていたこと、私その通りだと思います!」
「・・・ホント?ホントにそう思う?」
オデットの顔は紅潮して、目がウルウルしている。その可愛さに俺が内心悶えていると、クラスの他の野郎どもも顔を赤くしてオデットを見つめていやがる。くっそっ、見るな!減る!
「うん。実は私達オデット様は噂とは違うんじゃないかって思い始めていたところだったんです」
「公爵令嬢でいらっしゃるのに、偉そうな態度なんて取らないし、お話してみたいなって思ってました」
「人の陰口は大抵の場合嫉妬から来るって全くその通りです。私も嫌な気持ちになるから聞きたくないです」
口々に言い募るクラスメートにオデットの瞳が輝きだす。
「・・あ、ありがとう!嬉しいです」
オデットが泣き笑いの表情で返すと、三人の女子生徒はその愛らしさに胸を打ち抜かれたようだ。
「・・・殺人的な可憐さ」
「ヤバいですわね・・・」
「野放しにしては危険です・・」
三人三様によろめいた。
「あの、良かったら私達と友達になって貰えませんか?」
三人の言葉にオデットは満面の笑顔だ。
「もちろん!宜しくお願いします!」
そう言いながら、ピョンと立ち上がった。
その姿にクラスの野郎全員のハートにピンク色の矢が刺さったのは言うまでもない。
女子生徒は、ソフィー、マリー、ナタリーと名乗った。
楽しそうに談笑している姿を見て、ほっと安堵の溜息を吐く。
ふと気づくとクリスチャンが面白そうに俺の顔を観察している。
なんだ?面白くないぞ。
「アランが言っていた通り、僕はオデット嬢のことを誤解していたのかもしれませんね」
「そうだろ!彼女はホントいい奴なんだよ」
と力を入れると
「アランは彼女のお母さんみたいですね」
と失礼なことを言う。
なんだ、お母さんって!?
「アランは昔から面倒見が良かったなぁ、と思い出しました。僕も彼女と話をしてみたいですね」
顔をほころばせるクリスチャンを見て、週末に一緒に飯を食わないかと誘ってみた。
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