ダンジョン攻略の秘密
砂月かの
初めてのダンジョン攻略
思った以上に暗い。
覚悟を決めてダンジョンに足を踏み入れれば、明かり一つないことに気づかされた。
「しまった、俺は魔法が使えない」
そう、俺は魔法が使用できない。つまり明かりを灯すことができない。
一度戻るか? ランタンを持参するべきかと、入り口に視線を送ったが、送り出してくれた幼馴染を思うと、戻ることは出来なかった。
―――――――
『本当に行くの?』
『ああ、俺には村を守る使命がある』
『怖がりな癖に……』
彼女は、臆病な俺を心配してくれた。
『大丈夫だ。俺は必ず手に入れてくる』
震える足を必死に抑えて、俺は彼女を安心させるように笑ってみせた。
『途中で戻ってきても、大丈夫だからね』
同じく笑ってくれた彼女は、逃げてきてもいいと言ってくれたが、逃げるなんて卑怯なことは出来ない。
俺はダンジョンに隠された『お札』を手に入れて、悪霊を封印しなければならない。
『絶対、札は手に入れてくる。だから、待っててくれ』
『分かったわ。気をつけて』
―――――――
心配する彼女を残して、俺はダンジョンに入った。
『封印の札』を手に入れるまでは、もう後戻りはできない。
「狭いな」
通路が細いことに、俺は逃げ場がないことを知る。時折吹く風は生ぬるくて冷たい。
暗闇に慣れたとはいえ、視界は悪い。それに、何かの気配がずっとしている。
―― ポワァ ――
突然背後に明かりが灯り、俺は瞬時に振り返って息を呑んだ。
そこに見えたのは『スケルトン』
全身が骨だけのモンスターだ。
「……マズイ」
俺のレベルではまだ倒せないと判断し、咄嗟に物陰に身を隠す。
息を止め、気配を必死に消して、俺は噴き出る汗と早まる鼓動をなんとか鎮めようとするが、恐怖は拭えない。
「頼む、気が付かないでくれ」
全身を震えさせながら、闇に浮かぶスケルトンを静かに見つめる。
しばらくその場に佇んでいたスケルトンは、異常がないことが確認できたのか、再び闇の中に消えていく。
「ふぅ、……なんとかやり過ごせたみたいだな」
恐怖で震える手でなんとか汗を拭って、俺はほっと息を吐く。
あそこで声を出して、見つかっていればただでは済まなかったと、肝を冷やしながら、俺はさらに奥へと進む。
その後もいくつか罠が仕掛けられていたが、俺はやっと『封印の札』までたどり着くことが出来た。
青白く光を放つ祠に収められた一枚の札。
「これさえあれば、悪霊を封印できる」
これで村を救えると、札を手に取った俺は完全に油断していた。
―― ガシッ ――
祠から札を抜き去れば、何かに足を掴まれた。
「ウワァッ……、しま、った!」
引きずり込まれる!! そう考え咄嗟にナイフに手をかけたが、俺の足を掴んだ手はすぐに祠の下に消えていった。
「あれは、マドハンドか?」
手首までしか見えなかったことから、俺はマドハンドの仕業だと確信した。両足を掴まれたことを考えると、二体いたことは把握できるが、攻撃を仕掛けてこない。
「まさか、仲間を呼びに行ったのか?!」
一体でも厄介だと言うのに、数が増えれば明らかに不利だ。俺は札を握り締めて、その場を逃げるように走り去る。
前方に明かりが見えた。
「出口かっ」
明かりの先がダンジョンの外だと確信して、俺は全力で走り抜ける。
パァァァァ
と、太陽の光に全身が包まれる。
その眩しさに目がくらんだが、俺はダンジョンを飛び出すと、外の景色を懐かしむ。
「戻ってきたんだ……」
無事にダンジョンを攻略したことに、俺は感動さえ覚える。
そして、そこには待っていると言った彼女の姿があった。
「おかえりなさい」
優しく声をかけられ、俺は恥ずかしながらも目尻に涙を溜めて、
「……ただいま」
と、返事を返しながら彼女を抱きしめようと、両手を広げた。
「うわぁぁん! 怖かったよォォ」
「男の子がお化け屋敷くらいで泣くな」
両手を広げた俺の後ろで、子供の泣き声が聞こえ、俺も男だろう、泣くなと自分を叱咤した。
おしまい
ダンジョン攻略の秘密 砂月かの @kano516
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