さんたくブラックサンタ 6
3回ほどデスなしで『プレゼント交換』を終え、懸念点の洗い出しが終わった。おおよそ『必勝法』通りに進めることで、嚙み合いがよほど悪くなければ全員生還できることがわかった。1,2人程度は先に抜けても大丈夫だし、最悪の場合大門さんが『死』のプレゼントを引き受ければ、運が悪くても他の人は生還できることがわかった。
「では、そろそろ本番にいきましょう」
大門さんが声をかけると、私達プレイヤーは頷く。
「流石本職だよ。この短い時間で全員をまとめやがった」
「本当ですね。これなら練習通りに生還できそうです」
これからデスゲームが始まるというのに、私と五十嵐さんをはじめプレイヤーたちはかなり和やかな様子で、『ブラックサンタ』はだいぶムカついているようだった。
「やっっっっっっとですネェ~~!!!!退屈すぎて死にそうでしたヨォ~~ッッ!!」
「あら、そうですか。じゃあ退屈殺したほうが楽だったかもしれませんね。でもご安心を。もうすぐこのふざけたゲームも終わり、私たちは平穏な12月に帰ります」
大門さんは毅然として『ブラックサンタ』に言い放った。
「はたしてそううまくいきますかネェ~~!!『プレゼント交換』再開ですヨォ~~ッッ!!」
『ブラックサンタ』の掛け声で、ゲームが再開する。大門さんは手早く全てのプレゼントに数字を書いたメモを貼り付け、1番のプレゼントの中身を確認した。
「はい、1番は『死』ではないです。スーパーファミコンのゲームソフトですね」
「あ、それはたぶんウチの『ほしいもの』ですね。ウチ、スーファミのゲームコンプしたくて集めてるんですよ。たぶんプレミアのついてるソフトやと思います」
「わかりました、では1番は乾さん、と……」
その後も予定していたとおりに、『必勝法』が危なげなく実行されていく。
「2番は『死』です。見たらわかりました」
「だったら俺は3番を確認……これは?雑誌……マンガか?男同士が……」
「あーあーあー!それアタシです!!だからそれ以上はやめて!」
私も自分の番が回ってきたときに『死』を確認したが、中身を見た瞬間に『死』だなあとわかるようなものだった。具体的に何か物が入っているわけではないんだけど、明らかに本能が拒否反応を起こすからだ。こういうのを目の当たりにすると、どれだけマヌケでも相手はオカルトの領域だということを再認識する。
そのまま、順調に各プレゼントの情報が明らかになっていく。
事件は、何巡かした後、12番のプレゼントが確認されたときに起こった。
「うわ、なんやこれ。キモっ」
プレゼントを確認した乾さんが、口を抑えながら箱を取り落とした。すかさず大門さんが駆け寄る。
「なんだったんですか?」
「え、と……なんか、よくわからん物体やねんけど、血がめっちゃついてるんですよ……誰がこんなん欲しがるっちゅうんですかね……と、ともかく『死』ではたぶんないです……」
血のついた何か。なぜそれが、『欲しいもの』の中に混ざっているのか?
ざわつくプレイヤーたちを見て、『ブラックサンタ』はニヤニヤしながら芝居がかった調子で話し始める。
「HOHOHO……!面白くなってきましたネェ~~!!いったい誰が、どんな理由で、こんな物騒なものを」
「これは凶器ですね。事件現場で見つからなかった証拠品でしょう」
「欲しがっているんで……HO?」
疑問が即解決された。大門さんは続ける。
「おそらく何かの未解決事件のカギになる証拠……これを欲しがっているのが被害者ならいいですが、見つかっていないことで逃げおおせている犯人ならそうはいかない。誰にも見られてはいけない、『ほしいもの』……これがあるとわかった以上、プレイヤーの中に他のプレイヤーを妨害する理由がある者が生まれる。『必勝法封じ』の方法というわけですか」
この人、話が早すぎる。
「……お、おう。でもマズいぞ」
五十嵐さんも口をはさむタイミングを逃しかけていたようだった。
「何がマズいんですか?」
「あいつ自分のこと警察だって言ってたからな。犯人からしたら、一般人に知られるのと警察関係者に知られるのでは、ヤバさが段違いだろ。真っ先に殺しにかかるはずだ。さすがに『必勝法』とか言ってられないんじゃねえか」
「でも、明らかに変なことしたら自分が犯人だってバレるんですから、『必勝法』を崩すようなマネはしないんじゃないですか?」
自分が犯人であることをバラすのは、凶器が色んな人にバレるよりずっと危険なはずだ。でも、五十嵐さんは首を横に振った。
「犯人が全くわかっていない未解決事件なら、そうだろう。でも例えば、容疑者として上がったものの証拠が不十分で不起訴になった場合はどうだ?警察に顔が割れていても、あの『何か』が世に出ない限りは安全……そういうことだってありうるだろう」
「なるほど……」
うーん、いきなり展開がわからなくなってしまった。大門さんはどうするんだろう。多くのプレイヤーがそう思っているようで、大門さんを見ていた。当の彼女は、少し考え込んでから顔を上げる。
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