さんたくブラックサンタ 5
大門さんはカバンからメモ帳を取り出し、紙をちぎって表面に数字を、裏面に参加者の名前か死を書き込んでいく。
「ではみなさん、本当に『死』を引いたら死んじゃうつもりで、やってみましょう」
そこからしばらく、私たちは『ブラックサンタ』を放置してデスなしデスゲームに挑んでいた。
「はい、じゃあ次は乾さんのターンです」
「うん、ウチはこの8番のプレゼントを見ます。あ、『死』や」
「そうですね、これで『死』のプレゼントは3つ判明しましたね。次は高橋さんです」
ここまで、私たちを含むプレイヤーたちは、『必勝法』にもとづいて動いてきた。実際、全員が1巡手番を行ったところ、『死』のプレゼントが3つと、誰かの『ほしいもの』であるプレゼントを判明させることができた。この調子でいけば、3巡ぐらいすれば全部の情報が明らかになるだろう。
ターンを振られた高橋という細身の男は、ひどく悩んでから宣言した。
「……僕の『ほしいもの』なのがわかってる、3番を獲得します」
他のプレイヤーに動揺が広がった。『必勝法』は、あえて自分の当たりプレゼントを引かないで情報量を増やす戦略で、高橋の行動はそれに反しているからだ。
高橋につっかかろうとした他の参加者を手で制して、大門さんはゆっくり聞いた。
「高橋さん、それはなぜですか?」
「もし、実際にプレゼントに自分のほしいものが入っているなら……一番欲しいものだとしたら、僕は誰にも見せられません」
高橋は深刻な顔で続ける。
「一人確認されているだけでも恥ずかしいのに、安牌だとわかってる僕のプレゼントは他の人がどんどん獲得していくんですよね。そんなの耐えられません」
「……わかりました。そういうこともありますよね。正直に教えてくれてありがとうございます」
デスなしのデスゲームは高橋が抜けてそのまま進行した。高橋の「裏切り」ともいえる行動にも、プレイヤーたちは動じなかった。
(すごいな、あの人)
それはきっと、大門さんが終始落ち着いて対応したためだろう。それに、デスがないから他のプレイヤーも冷静にやっていられる。これがデスありだったら、きっとひと悶着あったはずだ。デスなしでよかった。
そして、最終盤。どうしても情報が明らかにならないままの『プレゼント』が2つ残った。手番のプレイヤーは、どちらも前の巡でBを選んでしまっているため、獲得か押し付けをしないといけない。ゲームは元通り、運しだいで生死が決まるか、Cを選んで返却されるかどうかの読みあいのゲームになった。
「おい、こういう場合どうするんだよ、警察さんよ。どっち取るにしてもリスクありまくりじゃねえか」
「まあ、そうなるよな」
五十嵐さんはすでに受け取ったプレゼント(扱いの紙)をもてあそびながら呟いた。
「結局、あの『必勝法』は確実じゃあない。巡目や内容の兼ね合いで、こういう場面は生まれてくるんだ。それをあいつは、どうするつもりなんだ」
プレイヤーたちがざわつきはじめる。たしかに、自分がこの状況になるかもしれないと思うと、『必勝法』に対する信頼、ひいては大門さんへの信頼も揺らいでくるというものだろう。
「HOHOHO!ようやくこのゲームの恐ろしさに気が付いたようですネェ~!」
久しぶりに『ブラックサンタ』がしゃべった。プレイヤーが動揺していて嬉しそうだ。
「そう!どれだけ策を練ろうとも、最後はプレイヤー同士の裏切りあい!疑心暗鬼と恨みが蓄積する、最高のクリスマスになりそうですネェ~!!HOHOHO!」
しかし、
「ああ。大丈夫ですよ」
なんだそんなことか、みたいな気軽さで、大門さんはプレイヤーたちに笑いかけた。
「Cを選んで、『死』だったら私に押し付けてください。そしたら死ぬのは私だけですみますから」
その表情は、最初にあった時と全く変わっていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます