うしろどローグライク 3


「SCP-914。その装置は、セットされたレバーに応じて、入れたものを変換する」

 マタラは俺にそう言った。机の画面にも同じような説明が表示されている。レバーの表示は、Rough、Coarse、1:1、Fine、VeryFine。

「……それだけか?」

「うん、それだけ。イベントマスなんだから、すぐに死んだりするやつは置いてないよ。まあ、入れるものとレバーの位置によっては……だけど」

 にやりと笑うマタラ。この感じだと、おそらく一番有利そうなVeryFineは罠だろう。

『五十嵐さん、これ試してみてもいいですかー?』

 画面の中のアイコンが動いて、水田の声がした。今はイベントの選択肢を受け付けている時間だ。水田は俺が指示しない限り装置を使うことができない。

 インベントリ――つまり、水田が今持っている装備を確認する。食料、水、あとは渡しておいた拳銃。何かアイテムを拾うとここに追加されていく。

「水田、どう思う?」

『うーん、とりあえず一度拳銃で試してみようかと。1:1ならそんなに変なことは起こらないでしょうし』

 俺は頷いて、レバーを1:1にして拳銃を投入する指示を出した。

 ピローン、と音がして、出てきたものは拳銃だった。

「……同じじゃねえか」

『あ、でも微妙に違いますよ。なんか色がピンクになってる。メーカーも違うみたいだし』

 よく見ると、画面上でも表示がピンク色だ。レバーの文言が質を表しているとすると、やはり1:1は同質の違うものが出てくるらしい。

『こういう感じなら、VeryFineに拳銃いれたらすっごく強いのが出てくるんじゃ?』

「やめとけ、強すぎて制御できなくて死ぬのがオチだろう。Fineにしとけ」

 水田が再度ピンクの拳銃を投入する。

『おお、拳銃++が出ました!』

「画面上ではそうなってるが、お前の方にも見えるのか?」

『いや、なんとなく++って感じがするんです』

 ゲームの中というのはそんなものなのだろう。強い武器があれば、戦闘が楽になりそうだ。そう考えていると、次の部屋の選択肢が表示された。

 俺がため息を付くと、水田にも伝わってしまったようで、

『……戦闘ですか』

「気をつけろよ」

 どの扉も戦闘が発生するマスにつながっている。俺はそのうちひとつを選んだ。



 次の部屋は戦闘らしい。

『大丈夫ですよ、私強いし、いざとなったら拳銃++もありますから』

 水田はそう言っていたが、いくら彼女がタフな女とはいえ、そして死んだところで最初からになる以外デメリットがないとしても、あまりひどい目にあってほしくはない。カバンの中にある、戦闘をスキップできるアイテムも、あまりケチらず使っていったほうがいいと、俺は考えている。

『じゃあ、いきますね』

 開いた扉をクリアリングしてから、水田が突入すると、

「トリジンだよォォォオオーッッ!」

「トリとヒトの境目を……見せてあげようネェェーーーッ!!」

 奇声をあげながら、上半分が鳥で下半分が人間の魔物が、ナイフを持って襲いかかってきたようだ。ようだ、というのは、こちらの筐体の画面が戦闘シーンに切り替わってしまい、細かい情報が読み取れなくなったため、実際水田がどんな動きをしているかはわからないためだ。

(さて、今回のカードは……)

 戦闘シーンでは、水田のとりうる行動がすべてカードになって表示され、俺がその中から選んだことを水田があちらで行う。例えば今は、「回避」「攻撃」「拳銃++」「防御」「攻撃」の5枚。「拳銃++」がカードになっていることからもわかるように、道中で手に入れた武器やアイテムは、カードを使うことで水田に使わせることができる。

「水田、相手のナイフって防御できるか?」

『やれないことはないです』

「じゃあ回避して、拳銃だ」

 俺は「回避」のカードを切る。画面の上の水田が避けて、回避は成功したようだ。そのまま拳銃の射撃が鳥人を襲い、一体撃破される。

 お互いの攻撃が終わって、次のターン。前のターンに引いた手札は使用・不使用にかかわらず全て捨札になり、次のターンは新たに5枚を引く。引いたカードは「攻撃」「攻撃」「回避」「攻撃」「防御」。

「ちっ、強打があれば1体倒せたんだが……」

『こればっかりは運ですから』

 俺の指示した通りに「攻撃」で鳥人のHPを削りながら、水田が答える。相変わらずタフな女だ。

 ターンが終わり、カードをデッキから引き切ると、捨札がシャッフルされ山札になる。しかし、「強打」も「拳銃」もドローできなかった。また運がないな、とつぶやくと同時に、俺は何個か前のゲームで見たあるイベントマスを思い出した。

 違う、運がないんじゃない。デッキに必要ないカードが多すぎるんだ。

「そうか、そのための礼拝堂か……」

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