うしろどローグライク 4

 思わず漏らすと、マタラが嬉しそうに笑う。

「けっこうはやく気づいたね。そう、このゲームではいかに強いカードを手に入れるかよりも、いかに弱いカードをデッキから抜くかが重要なんだ」

 デッキの枚数をもっと少なくすれば、それだけ強いカードを使える回数も、引ける確率も増える。最初からデッキに入っている弱いカードは、積極的に除去していったほうが強いのだ。

「僕はちゃんと説明したよ?礼拝堂イベントは、受けてしまった呪いなど、いらないカードをデッキから好きなだけ取り除ける、って」

 前回、礼拝堂のイベントに行き当たったときは、引くとダメージを受ける呪いカードをデッキに混ぜられてしまったところだったので、そういうデメリットになるカードを取り除けるだけかと思っていたが、それだけではなかったということか。

「デッキ構築系ゲームの鉄則だよね。やったことない?ドミニオンとか」

「デッキ構築……?遊戯王とかのあれか?」

「あ、ごめん忘れて。そっちの世界にはまだないんだっけ」

『なにしてるんですかー』

 俺とマタラが話している間、ゲーム世界の水田は暇を持て余していたらしい。敵は攻撃してこないが、自分も攻撃できないようだ。

「悪い水田。攻撃してから防御だ。このターンじゃ倒せないからなんとか耐えてくれ」

『わかりましたー……よっと!』

 水田は大ぶりの一撃で鳥人を叩きのめす。そして返すナイフを防御……しようとした。

『あっ!ちょっとこれっ!』

「水田っ?!」

 ただならぬ雰囲気に、俺はゲーム画面を確認して、間違いに気が付いた。相手の行動は特殊攻撃……ダメージがないかわりに状態異常を仕掛けてくるものだった。これは回避が正解だ。

『うわー、なんかひっかけられた。前が見えません……普段ならぜんぜんよけられたのに』

「すまん水田。俺のミスだ」

 鳥人の行動は、水田が自由に動ければ避けられた程度のものだったんだろう。いらない被害を負わせてしまった。具体的にどうなっているかはわからないが、画面上では「盲目」の状態異常がついている。「何も見えなくなり、命中率と回避の成功率が低下する状態。水を使うと解除できる」とのことだ。

「あらら。どうするの?」

 マタラは俺のミスににやついている。意地悪な神だ。

「はやく水で粘液を流さないと。それとも、防御しつづける?毎回防御を引ければいいけど、それでもあの子にダメージがどんどん蓄積していくよ」

『わ、私はまだ耐えられますから。ここで貴重な水を無駄にすることないですよ』

 初期アイテムの水は、水分補給や傷の回復にも使う貴重なものだ。迷う俺をせかすように、ゲームの画面は赤く光って警告する。

「ほらほら、早く。命中率を回復させないと」

 マタラが画面のフチを指で叩いた。うるさいな、言われなくても、と返そうとして、俺はふと気づいた。


 何も見えなくなる?


「水田、悪いが暗いままそいつを倒してくれ!」


 俺は思わず画面に向かって叫んだ。

『え!?そんなこと……』

「画面上の表示では『命中率低下』と出てる、つまり当たる確率は0じゃない!」

『こんな真っ暗なのに!?どうしろって言うんですか?!』

「……気合で!」

『わっかりましたぁ!』

 元気のいい返事とともに、画面上の敵にダメージのエフェクトが出る。

「え、マジ?」

 マタラが本気で驚いた様子で、画面から顔をあげた。

『なんかいけました!気合で!』

 本当にすごいな、このフィジカルお化けは。俺は遠慮なく「攻撃」カードを切り、鳥人を倒させていく。暗闇状態がウソのように、水田の拳は的確に敵を倒した。ステージクリアだ。

「……驚いたな。いやホントに。暗闇状態って出てるのに戦わせる?普通」

「このゲームの戦闘で、俺は行動を決めるだけだ。逆に言えば、決めた行動以外のことは水田のスペックに依存する……そう推測したが、正解だったみたいだな」

 水田が粘液攻撃を食らったのは、回避を選択しなければいけなかったところを、俺が間違って防御を選んだからだ。そういうミスがなければ、水田の行動が成功するかは実際の動きの結果に依存するはずだ。

「そして、マタラ……お前が口をはさんできたのもヒントになった。この行動こそが、階層を突破するために必要なことだったんだ!」


 


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